2022.12.16
V字回復に導いた経営者の手腕。
もし、売上の急降下という危機を目の前にした時、どのように業績回復をはかるか。これは経営者であれば、一度は考える課題ではないだろうか。いつの世でも、混迷の中、一筋の光明となるのは先人達が行った取り組みだ。世の中には大幅な売り上げや利益の落ち込みを抱えながら、見事回復を果たした企業が存在する。実際、深刻な経営危機に陥りながら、業績をV字回復させた企業の取り組みをいくつかご紹介したい。

定番商品の強化 CASE 001 タカラトミー
少子高齢化による国内市場の縮小という状況の中、売上回復に貢献したのは、「トミカ」「プラレール」「リカちゃん」といった定番商品を持つ、玩具メーカー「タカラトミー」だ。2015年から2017年にかけて社長兼CEOに就任したハロルド・ジョージ・メイ氏は、同社の改革に取り組んだ。定番商品に新しい技術や発想を取り入れるため、定年後の社員を再雇用。かつて定番商品を生み出した経験や知識を後進の世代に継承させるのが目的だ。これにより開発時間の短縮や商品の質の向上も期待できる。結果、2013年3月期に25億円まで低下した営業利益は、2018年3月期に131億円、過去最高益へ転じた。2018年1月からは小島一洋氏がその意思を引き継いだが、タカラトミーは2019年の決算においても定番商品の好調を報告しており、改革の方向性である「定番商品の進化」という取組みは維持されている。

トラブルへの真摯な対処 CASE 002 まるか食品
売上減少に対し、従業員の給与カットやリストラは行わず、スピーディーかつ適切な対処で業績を回復したのがカップ焼きそばで知られる「まるか食品」だ。2014年、主力商品であるソース焼きそばに異物混入が発生。SNSでも拡散され問題となった。事態を重く見た同社は、対象となった生産ロットだけでなく、ソース焼きそば全てを自主回収。工場の稼働を停止し、検査体制の強化を徹底的に行った。その後売上は順調に回復。ソース焼きそばに数々のバリエーションを加えるなど攻めの姿勢も功を奏した。売上は順調に推移している。BtoC、食品事業という同社の業態にとって、このリカバリーは非常に適切だったと言えるだろう。

商品のリニューアル CASE 003 リンガーハット
売上減少をきっかけに、商品の大幅な見直しを行ったのが外食産業の「リンガーハット」だ。2009年、リンガーハットは24億3400万円の赤字を背負う。創業以来、初めての負債だ。世の中でデフレの流れが続く中、行ったのは逆転の発想となる「野菜の国産化」。グループ全店で使用する野菜を全て国産化に切り替え、10憶円の費用をかけ工場の設備も一新した。使用する野菜は、代表取締役会長兼CEOの米濵和英氏が自ら選定。同時にクーポン券の中止、不採算店舗約50店舗の閉店、自社工場の内製率の向上など、できる対策を堅実に実施していった。結果、翌2010年2月期の決算では業績悪化前以上の利益を達成している。

徹底的な業務改善 CASE 004 良品計画
思い切ったリストラ策や事業構造の転換、業務内容の見直しにより、V字回復を遂げたのは「日本電産」と無印良品で知られる「良品計画」だ。日本電産は世界的なパソコン需要の落ち込みにより、2013年3月期の最終利益は、前年比80.4%と大きく減少。事業面・人事面で大幅な改革を行い、2020年3月期の決算では、は、売上高が1兆5348億円となり過去最高を更新するなど見事回復を果たしている。また、業績悪化による前社長の引責辞任を受けて社長に就任したのは、良品計画の松井忠三氏だ。就任直後は不採算店舗や海外店舗の閉鎖など、応急処置を行うとともに、店舗と店舗開発部など本部それぞれ2つのマニュアルを作成し、経験則ではなく、業務内容の標準化をすすめた。2000年に1000憶円ほどだった売上は、2020年には1700憶円を記録するなど順調に推移している。
経営改善策に正解なし
既存の定番商品の改善を行ったタカラトミー、商品トラブルに誠実に対応したまるか食品、提供している商品を一から見直したリンガーハット、リストラや事業構造の転換に活路を見いだした日本電産と良品計画、赤字転落の原因はさまざまで、業績回復のために行った施策も異なる。業種や業態、販売する商品でも最適解は違うということだ。経営に正解はない。いずれの経営者も自社の実情や収益低下の原因を冷静に見極め、対処したからこそ対策を講じられたのだろう。まずは、自社について改めて見直すこと。それこそが業績回復の近道となるかもしれない。
転載元:Qualitas(クオリタス)