2022.11.04

JALを再建に導いた、京セラ・稲盛和夫の手腕に学ぶ。

2010年に大きなニュースとなった、国内最大手の航空会社である日本航空の経営破綻。政府が再生を託したのは、数々の実績を持つ稲盛和夫氏であった。航空業界の知識を持たない稲盛氏であったが、これまで培った独自の経営手法と経営哲学を武器に日本航空を再生へと導いている。わずか3年弱という短い任期の中で日本航空が受けた影響は計り知れない。その実績を改めて本稿にてご紹介するとともに、稲盛氏が持つ経営手法やリスタート論についてヒントを探っていければと思う。

国内屈指の大型倒産

2010年1月19日、日本航空は会社更生法を申請し、経営破綻に陥った。日本航空、日本航空インターナショナル、ジャルキャピタル3社を合わせた負債総額は2兆3000憶円を超えた。平成に入りトップクラスの大型倒産だ。再生支援決定報告書の中では、破綻の引き金を米国同時多発テロ、イラク戦争、SARSの流行といった数々の事象による国際線の需要減少、加えてリーマンショックによるビジネス・貨物需要の減少としている。

政府と企業再生支援機構の要請を受け、立て直しに取り組んだのが、京セラおよびKDDIの創業者でもある稲盛和夫氏だ。稲盛氏は、1998年に会社更生法の適用を申請した、複写機メーカー・三田工業の再生にも携わり、9年の予定だった再生計画をわずか2年で達成した実績を持つ人物だ。周囲からは反対の声もある中、当初は稲盛氏も固辞したという。航空運送事業への知識もなく、適任ではないと感じたためだ。しかし日本航空の破綻により影響を被る同社の社員達、ひいては日本経済、国民への影響を考慮し、その難題を引き受ける決意を固めている。日本航空の再生に向け動き出した稲盛氏がまず初めに導入したのが、京セラの経営でつちかった「アメーバ経営」そして「フィロソフィ」だ。

独自の経営手法「アメーバ経営」

アメーバ経営とは、稲盛氏が京セラ創業後、巨大化する組織を統率する中で考え付いた独自の経営手法を指す。組織が大きくなり、自身一人では全ての部門を把握・指揮することが困難になる状況で、稲盛氏は「大きくなった組織を小さく分けて中小企業の連合体にすればよい」という考えに至る。会社組織をアメーバと呼ばれる小集団に分割するのが特徴だ。それぞれのアメーバにはリーダーを置き、運営は独立採算制で行う。経営計画は全体ではなく、アメーバごとに作成する。リーダーを持ち、独立採算で行うアメーバはそれぞれが一つの企業の様相を呈する。これにより「経営者意識を持ったリーダーの育成」「自部門の実績の明確化」が可能になる。アメーバ各部門の損益を明らかにすることで、経営課題や会社の実態、問題箇所の特定も容易になる。また、全員で知恵を出し合うことで、目標達成に全員が参加する経営を実現することも特筆すべき点だ。

アメーバ経営は稲盛氏が日本航空に先駆け、「三田工業(現:京セラミタ」の再生でも活用した手法である。「どのような企業の経営でもこの方法を導入すれば、成功できるはず」。これは稲盛社長が、日本航空への就任後、定例会見で述べたことだ。

経営哲学「フィロソフィ」

アメーバ経営は、「フィロソフィ」ベースとして生まれた手法でもある。フィロソフィとは稲盛氏が京セラ経営の中で困難に対面する中、実践を通じて積み上げてきた経営哲学を指している。
「会社の規範となるべき規則、約束事」「企業が目指すべき目的、目標を達成するために必要な考え方」「企業にすばらしい社格を与える」「人間としての正しい生き方、あるべき姿を示す」という4つの要素から成り、企業の繁栄や社員一人ひとりが幸福な人生を送る尺度となる考え方だ。

アメーバ経営とフィロソフィは密接な関係にある。例えば、製品の値下げが必要だが、自部門の採算悪化を恐れ、部門のリーダーが社内売買価格の値下げに応じない場合、フィロソフィを共有することで、自己中心的な行動を抑え、会社全体の利益に貢献することができるようになる。組織を細分化すると、各リーダーの権限や自由度が強くなる半面、それがデメリットにも繋がりかねない。部門間の利益が対立する場面でも、フィロソフィは会社として共有すべき普遍的な判断基準となるのである。稲盛氏は、日本航空に就任後、当時社長を務めていた大西氏に日本航空独自のフィロソフィの作成を提案したという。経営幹部達は話し合いを重ね、稲盛氏の「企業理念は永久不滅のものであるべき」という助言も参考にしながら、自社の現状も踏まえた企業理念としてフィロソフィを作り上げた。

「JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
一、お客さまに最高のサービスを提供します。
一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。」

そう掲げられた日本航空の企業理念は、社内の行動規範となった。社員達からはこの企業理念に対し称賛の声もあがる。メディアの取材に対し現場の社員達は「フィロソフィの存在は、仕事に対する共通言語であり、拠り所でもある」と答えている。

全社員の灯として

経営破綻から2年8カ月となる2012年9月19日、日本航空は異例のスピードで再上場を果たした。営業収益も2012年度に1兆2000憶円、2016年度には1兆2900憶円を記録している。2017年度のトップメッセージの中で、当時の植木義晴代表は「2012年からの5年間はJALグループ全社員が心を一つにしてゴールをめざし完走した」と述べている。

その語も売上は順調に推移、2017年度には1兆3800憶円、2018年度には1兆4800憶円を達成。その後は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、世界の航空業界は大きな痛手を受けた。日本航空も例外ではない。2021年からは新たな中期経営計画を策定し、再度の売り上げ回復を目指している。その軸を成しているのは、稲盛氏が残した経営遺伝子、JALフィロソフィに他ならない。サービスや商品に携わる全員がもつべき意識・価値観・考え方として、判断と行動の道筋を今なお示し続けている。

転載元:Qualitas(クオリタス)