2021.12.15

Column You are the ONE -マリッサ・メイヤーの全て。

2012年、Googleの副社長だったマリッサメイヤー氏がYahooのCEOとして移籍したニュースを 覚えているだろうか。ライバル社である巨大企業への転身は話題となった。また、これだけ巨大企業の経営を務める女性人材を目にすることはほとんどない。マリッサメイヤーの生い立ちからGoogleやYahooでの活動、現在の姿を追うとともに、彼女の根底にある「働き方についてのビジョン」もご紹介したい。

Column You are the ONE -マリッサ・メイヤーの全て。

人工知能の研究からIT企業Googleへ

マリッサメイヤーは1975年、ウィスコンシン州生まれ。1993年、高校卒業後はスタンフォード大学に入学した。主に学んだのは人工知能の分野である。シンボリックシステムの学士号と計算機科学の修士号を習得し卒業後はスイスの研究所勤務などを経て、創業間もないGoogleへと入社した。
世界では、インターネットの商用化がはじまったばかりであり、1994年にYahooが誕生し、Amazonが創業されている。Googleが創業したのは1995年。奇しくもマリッサが学んだスタンフォード大学が出発点だ。1998年の法人設立後、現在50カ国に60,000名を超える従業員を抱えるまでになったGoogleも最初は20名足らずだった。マリッサがGoogleに入社したのは1999年。世界で19人目のグーグラ―である。

UI責任者から副社長へ、

マリッサはGoogleにエンジニアとして入社した。しかし、周囲には優秀なエンジニアがいたことも影響し、UI(ユーザーインターフェース)という思わぬ分野で頭角を現した。UIとは、WEBサイトではサイトの見た目や、使いやすさの改善を意味し、Googleの使い勝手に直結する重要な役割を持つ。メリッサはエンジニアの知識を生かし、UIを改善し、わずか入社1年後でUIの責任者に抜擢された。UI改善の取組みは、ウェブ検索はもとより、グーグルニュース、Gmail、グーグルマップ、グーグルアースなど多岐にわたり、現在でもグーグルが提供するサービスの根幹をなしている。
2004年、Googleは法人設立後わずか6年で株式を上場。翌年の2005年、マリッサは副社長に就任している。Googleが公式サイトで公表している自社の使命は「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」である。メリッサが取組み、改善してきたUIはグーグルの礎になっているといえよう。2009年、メリッサや検索事業に対する功績によりイリノイ工科大学から名誉博士号を贈られている。

Yahooへの電撃移籍

2012年メリッサはGoogleに別れを告げ、YahooのCEOに就任する。ライバル社への電撃移籍は大きな話題となった。Yahooが誕生した1994年以降、さまざまなネットを活用したサービスが生まれている。1997年にはGoogleが検索サービスを開始、2004年にはFacebookが誕生、2005年にはYouTube、2006年にはTwitterが設立されている。こうした検索サービス、コンテンツ提供サービスの影響を受け、ヤフーの収益は悪化。マリッサがその立て直し役をまかされることになったのだ。
マリッサの就任に合わせYahooは経営体制を刷新。経営陣の若返りを図ると共に新たな執行体制を導入した。マリッサはTHE FOCUS誌によるインタビューの中で、社風の変革やエキスパートチームなど社内環境や人材面の改革にも着手したと述べている。新たなコンテンツメディアの作成にかかわるほか、2013年にはブログサービスTumblerなど新興企業の買収も行い、精力的に経営に携わるが、検索シェアはGoogleに、オークションサービスではeBay(イーベイ)に奪われるなど経営状態の改善は難しい状況に追い込まれた。最終的に、移籍から5年後の2017年、Yahooは中核事業をベライゾンに売却し、マリッサはCEOを辞任することとなった。

働く女性として、さらなる活躍を

YahooのCEO退任の翌年、2018年にマリッサは新たな企業「LUMI LABS」を創業した。同社ではAIを活用したアドレス帳管理サービス「Sunshine Contacts」の提供を開始している。招待制のこのサービスではアルゴリズムを使用し、電話番号やメール、LinkedInプロファイルの整理と使い勝手の向上を行う。LUMI LABSでは、企業の使命として「日常業務を楽にし、時間を解放し、思慮深くなりやすくする高度なテクノロジーを作成すること」を掲げている。
マリッサは2016年のブルームバーグビジネスウィークのインタビュー内で、5年後の自分について聞かれ、次のような答えを述べている。「私は、デザインや人工知能が好きで、これまでの経営者としての経験も生かしていきたい。でも、私には5カ年計画はありません。」また、インタビューでは働き方について「イエス、週に130時間働けるわ」といった回答をしている。YahooのCEOを辞任する前の言葉ではあるが、これらの新年はマリッサの中に今も確固としてあるのではないだろうか。
LUMI LABSのスターティングメンバーは12人、事務所はかつてGoogleが事務所を構えていたオフィスにある。あえてこの場所を出発点に選択し、少人数からのスタートはGoogle入社時のマリッサを彷彿とさせる。ぜひとも、新たなイノベーションを巻き起こしてほしいものだ。

マリッサは夫ザカリー・ボーグとの間に2012年に男児を、2015年に双子の女児を設け、3人の子育てをする母親でもある。2015年、双子の出産後、マリッサは心境についてSNS上で「今朝早く双子の女の子が生まれたわ。夫と私は大興奮よ。我が家の家族はみんな元気!」と語っている。
出産後は体調が安定していることから、産休を2週間と最小限に抑えYahooの経営にも注力した。新天地を一から立ち上げたマリッサは新たな輝きを放とうとしている。これから多感な時期を迎える子どもたちの目にも眩しく映るだろう。3人の子育ても行いながら働く彼女は、全世界の働く女性たちに勇気を与えるかもしれない。新たな挑戦を続けるマリッサからは、これからも目が離せない。

転載元:Qualitas(クオリタス)

TEXT BY KENJI ISHIHARA EDIT BY GO WATARAI