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<エコノミストTV> エニシア・ホールディングス 若き経営者の〝ゼロからの挑戦〟

2018年7月30日

◆日本の働き方変える 地方発シェアリングエコノミー

 

日本の「ユニコーン」(10億ドル以上の企業価値を持つ未公開企業)だったフリマアプリのメルカリが東証マザーズに上場し、時価総額7000億円を超え、注目を浴びた。だが、メルカリに続く有望なユニコーンは数少なく、欧米や中国に水をあけられている。起業家精神と起業環境が課題となっている。そんな中、コワーキングスペースを展開するエニシアホールディングスの中邨宏季(なかむら・ひろき)社長は、自らもゼロから起業し、わずか数年で海外進出にも成功している。地方発のシェアリングエコノミーで、日本人の働き方を変える若き起業家の〝挑戦〟に迫った。猪狩淳一(毎日新聞ビジネス開発本部委員)

 

 

◆2度の倒産に負けず

 

 

厚生労働省の「雇用保険事業年報」によると、2011年度の日本の開業率(全雇用保険適用事業数中の新規適用事業所の割合)は5・2%。欧米諸国は概ね10%で、中国は20%程度と大差をつけられている。世界銀行によると、起業のしやすさの国際比較で、日本は160カ国・地域中89位。起業の際に必要な手続きが煩雑で日数やコストもかかる。さらに、GEM(Global Entrepreneurship Monitor)が行なった国際的な起業に関する意識調査によると、起業家との接点が少なく、事業機会や知識・能力・経験も乏しいことが明らかになった。

 

 

エニシアホールディングスは、名古屋を中心に、愛知、静岡、岐阜、東京でコワーキングスペース「エニシア」などを展開している。シェアスペースという場所の提供にとどまらず、創業支援やマッチングサービス、集客サポートなどのサービスに力を入れているのが特徴だ。中邨氏は自身の起業経験から、「日本には人生を変えたいって思っている人も多いのに、起業のインフラが全然整っていない」と感じ、「ないんだったら作ってしまおう」と事業を立ち上げた。

 

 

中邨氏は専門学校を出て美容師になったが、生活が厳しかったため、「コネも金も学歴もないところからチャレンジできる仕事」としてハウスメーカーの営業に転職した。しかし、1年後にはメーカーが倒産。営業の派遣社員になったが、今度はリーマンショックで再び倒産の憂き目に。友人の紹介で溶接の作業員となったが、不景気のあおりでまたもや仕事を失ったという。そして22歳の時、「会社にぶら下がるのはやめよう」と決意、不動産投資について学び、24歳で静岡県袋井市に3000万円のアパートに投資したのを手始めに、1年半後には家賃収入だけで年間数千万円が得られるようになり、本格的に不動産事業に乗り出した。

 

 

「不動産投資について周りに相談しても、『リスクが高い』とか『詐欺だ』とか反対ばかり。心配して止めてくれるのはありがたいんだけど、不動産を勉強したこともなければ、成功したこともない人の言葉でしかない」と語る。中邨氏は「インターネットや書籍とか、誰にでも手に入るものでもしっかりやれば成功できた」ことが自信につながったと振り返る。この成功体験で「人生が変わった」という中邨氏は次に海外進出を目指した。インドネシア在住の日本人の勧めで投資したが、「詐欺でした」と数千万円の損失を出してしまう。しかし、「現地で出会った人たちはいい人たちだった」と、経済特区に指定され、観光地として発展が期待されるインドネシア・ロンボク島に現地法人を設立。リゾート開発や邦人向けの現地進出のコンサルティングのほか、日本語や日本の文化を学ぶ学校も開設した。

 

 

◆海外つかんだ〝ヒント〟

 

 

中邨氏はそこでエニシア事業のヒントをつかんだという。「私は英語もインドネシア語もできませんが、それでもビジネスは成功した。一人ではできないが、みんなでやればやれないことはない」と実感したという。起業しようとする人が「経理も、マーケティングも営業も、すべて自分でやろうという人ばかり。能力の高い人は多いが、それはうまくいくわけがない」と考えた。米国で成功しているシェアオフィス「ウィーワーク」のビジネスを知り、単なる〝場所貸し〟だけでなく、より日本人に合わせて、会員同士のつながりを持てる場にしようと、「縁(えにし)」から「エニシア」と名付けた。

 

 

エニシアでは、会員専用のSNSやイベント、コミュニティーのづくり、集客のサポートなどを提供、人工知能(AI)を駆使したビジネスマッチングも研究している。国際化を目指して、バングラデシュにも店舗を開設した。この国は「英語力もあって、ITの技術力も高い。日本はエンジニア不足なので、ここをつなげば必ず需要が生まれる」と語る。

 

 

国内でも「好きな場所で、好きな人たちと、好きな時間に仕事ができる新しい働き方を進めたい」といい、「地方都市からクリエイティブな発信ができる。生まれ育った場所で活躍できる世の中になったと多くの人が実感できれば」と願う。「女性の起業」も重視し、「家にいながらでも、子育てをしながらでも働けるように」と、「ママカフェ」を名古屋にオープンする。「子供と一緒に来て、一緒に働ける。ママも子供も楽しい場所にしたい」と話す。

また、美容師時代の経験を生かし、ヘアーサロンやネイルサロン、エステ、整体、マッサージなど提携するサロンの空いた時間やスペースをシェアして、家賃なしで自分のサロンが開ける「エニシアビューティー」というサービスも展開する。「立派な店舗があっても、人手不足や集客ができずにフル稼働できないところもある。逆に自宅をサロンにしてもかっこが付かずに単価も上げにくい。自分で店を作ったら大変なお金がかかる。シェアすれば双方に失敗はない」と自信を見せる。

 

 

◆Doから始める

 

 

世界的にも、こうした遊休資産を活用する「シェアリングエコノミー」が広がりを見せる中、中邨氏はさらなる可能性を感じている。静岡マルイ店はその名の通り百貨店の静岡マルイと提携し、最上階のワンフロアで展開している。「コワーキングスペースが入ることで新たな層が毎日来店するようになる。こちらもコワーキングスペースを知らない人にアピールできるという相乗効果がある。ニューヨークではコワーキングスペースが入ると不動産価値が2割上がったという例もある。地方の商店街や駅前の復活の材料になる可能性がある」といい、地方自治体からベンチャー誘致による地域活性化の計画も進めている。

 

 

ゼロからのスタートで、従業員200人売上13億円を超えるビジネスを生んだ中邨氏。成功の理由を「PDCA(プラン・ドゥー・シー・アクション)でやっているとPで終わってしまう。Doから始めること」と語る。「失敗もOKで、糧になればいい。ただ取り返しのつく失敗であれば。でも極端な話、ビジネスの世界は失敗してお金をすべて失っても、高確率でまた復活できる。なぜならば、経験や人脈は残るからだ。失敗を恐れないことが大事」と言い切る。

 

 

失敗を恐れずチャレンジを続ける中邨氏は4月から、浜松のプロフットサルチーム「アグレミーナ浜松」の経営にも参画した。「自分がどこまでやれるか、面白い」と笑顔を見せる。「得意分野がないからこそゼロから考えられる」と、しなやかで伸びやかな感覚で進む、若き経営者に注目したい。

 

 

◆私のビジネスアイテム

 

 

エニシアホールディングスの中邨社長がこだわるビジネスアイテムは「アップルのMacBookとiPhone5」。移動が多いので、スマホとノートPCがマストアイテムというが、「正直細かい機能はいらない。電話ができて、LINEができて、チャットワークを使えれば『5』でも、(最新の)『X(テン)』でも一緒。マックも使いやすさ優先」という。「こだわりがないので、最先端である必要もない」と〝こだわり〟を語った。

 

 

◆プロフィール

 

 

エニシアホールディングスの中邨宏季氏

1987年生まれ、愛知県豊川市出身。勤務先が相次いで倒産するなど、22歳までに3度の転職を経験。24歳で不動産投資に成功し、2013年にNEXTを設立。資産形成や経営コンサルティングなどを展開し、2015年、日本で起業家の活躍できる環境を創ろうとエニシアホールディングスを設立した。新電力や省エネ事業などを展開しながらベンチャー企業の経営にも参画。インドネシアではリゾート開発や日本語学校、農園の運営。バングラデシュでは調剤薬局を手がけている。各地の起業家や投資家向けの講演活動も行っている。