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<エコノミストTV>ミッドランド税理士法人 士業〝受難〟の時代  アライアンスと多様性で生き残り 中部地方から枠を

2018年7月24日

人口減少、高齢化などで、企業の開業が廃業を下回り、日本の企業数は減少が予測される。一方、企業を支える税理士の登録者数は年々増え続けている。人工知能(AI)の進化による効率化などで資格を持っているだけでは「食えない」と言われる厳しい状況だ。そんな士業〝受難〟の時代に、専門分野の特化とアライアンス(協業)によって付加価値の高いサービスを提供することが生き残りのカギと語るミッドランド税理士法人の河合秀俊代表社員。カフェの経営や社歌の作詞・作曲などユニークな取り組みで、中部地方から〝税理士の枠〟を超えようという思いを聞いた。

 

猪狩淳一(毎日新聞ビジネス開発本部委員)

 

◆税理士業界も二極化

 

国税庁によると、2016年度の税理士登録者数は7万6493人で、2005年度の6万9243人から7250人の増加だ。一方、財務省財務総合政策研究所の推計では、全国の企業数・従業者数は2015年の402万5000社、5845万7000人から、2040年には295万6000社、4598万1000人に減少するという。さらに、大都市圏への集中は進み、現在の経営者の多くが引退する時期を迎える2025年頃までの地方の企業数の減少は特に大きいという。

 

ミッドランド税理士法人代表の河合氏は「税理士の数は増えているが、事務所の数は減っている。大規模な事務所に多くの税理士が所属するケースが多くなり、大規模と個人事務所の二極化が進んでいる」と語る。「元々税理士はライセンスに守られていて、看板を出しておけばお客様が来るという時代もあったが、廃業に比して起業が少なく、新たな顧客獲得のためには報酬額を値下げするところも増えて、報酬額の相場そのものも下がっている」と現状を憂える。

 

税理士にとって厳しい経営環境だが、2015年、「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能になる」との研究結果を発表、「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」の中に「会計監査係員」つまり税理士や会計士を挙げた。河合氏は「仕訳の自動化などシステムが進化して、税理士の仕事が奪われるというけど、本来我々が提供すべき仕事がはっきりした」といい、それは「経営助言、つまりコンサルティング」と語る。「単に数字を追ってだけの表面的な助言でなく、直接話を聞いて、現場に足を運んで経営を分析し、具体的な提言をする。付加価値の高いコンサルティング」だという。さらにより高度で専門的な知識や医業や製造業など業種に特化した税務など「機械で代替できないような業務に進んでいくべき」と話す。河合氏は特に「傾きかけた企業の課題を見つけ、業績の回復と事業の継続を実現し、会社の再生を目指すのが一番の目標」と明かす。

 

 

◆団結力で進む

 

 

河合氏は、それを実現させる方法が「アライアンス」だという。2012年、愛知、岐阜、三重の五つの事務所が参画するグループ「ミッドランド税理士法人アライアンス(現ミッドランド・アライアンス)」を発足させた。現在6事務所が加盟し、約230人の税理士らが連携している。資産税に強い、人事労務に長けている、大量の年末調整を処理できる……などそれぞれの事務所の特性を生かして、クライアントの依頼に対応する。河合氏は元々得意としている医業の税務と経営コンサルタントの業務の支援などを担当する。

 

アライアンス発足のきっかけは、トヨタ自動車のおひざ元である愛知県豊田市で1970年に父が開業し、中堅の事務所として地域の税務を中心に見てきた河合氏が約10年前、あるセミナーで、名古屋で開業している税理士の齋藤孝一氏と隣り合わせたことだった。医業に進出を図ろうとしていた齋藤氏から「うちと合併しませんか?」と突然声をかけられたことだった。当時、「お客さんが増えなくなってきたな」と漠然とした不安を抱いていた河合氏はセミナー直後に齋藤氏と「半年後に合併」と決断。法人名を統一し、合併に向け月1回、経営状況や営業活動について打ち合わせを重ねたが、職員の給与制度や組織の構成などさまざまな障害が明らかになった。だが、「お互いにノウハウなどが共有でき、メリットは感じていた」といい、「合併は無理だけど一緒にやろう。いっそのこと連携相手を増やそう」と提案。「それぞれの名称を残しては集まりにくい。税理士というのは地域密着型の仕事なので、『中部地方=ミッドランド』という名前の下に集まろう」と名付けた。

 

河合氏は「トップダウンで一人が引っ張っていくのではなく、みながフラットな立場で話し合って方向を決めています。だが、お互いの信頼関係が強固なので団結して進んでいる」と手応えを語る。

 

 

◆カフェ経営に作曲も

 

河合氏は今年4月、豊田市の事務所の隣にカフェ「555(ファイズ)」を開店した。事務所を新築する際、「1階にカフェスペースを作ろう」と考えていた。そのとき幼なじみである事務所の敷地の地主から事務所の隣地にカフェのチェーン店が出店する計画があると聞き、「ちょっと待って」と声をかけた。「土地を借りてくれるなら、待ってもいい」との返事に、「税理士法人とカフェが相互に客が増えるような関係を作れないか」と独自で出店を決意した。

 

「ビジネスカフェ」をコンセプトに、フリーWi-Fiを提供するのはもちろん、打ち合わせができるように、個室、半個室を設け、複合機も置いた。「ビジネスカフェだけどおしゃれでおいしい」と言われるように、西海岸風のデザインにし、自慢ブレンドコーヒーは自ら豆の配合まで決め、料理にもこだわった。

 

カフェ経営はコンサルティングとしても面白いという。「カフェって何業?と聞くと、『飲食業』『サービス業』といわれるが、材料を仕入れて料理を作るのは『製造業』、メニューを考えて売るのは『小売業』、カフェを効率よく回転させるのはホテルなどの『設備産業』の要素がある。そこでさまざまな手段を実験し、自分のコンサル能力を実証できる。クライアントへの説得力にもつながるし、カフェのある税理士法人というのは面白いとブランディングにも役立っている」と笑顔だ。

 

河合氏の名刺には「ソングライター」の肩書きもある。高校のころからギターを弾き、雑誌編集などの文筆業へのあこがれもあったという河合氏は作詞・作曲も業務にするようになった。事務所には防音を施した作曲室を作るほどに。そんな趣味が高じて、企業のコンサルティングで、ブランディングやCI(コーポレート・アイデンティティー)を策定する中で、社歌やイメージソングを提案できると考えたからだ。実際、ミッドランド・アライアンスのテーマソングは河合氏が作ったものだ。「広告代理店にブランディングを依頼したらすごいコストがかかるが、クライアントである中小企業でも格安で提案ができれば」と話す。

 

税理士という枠を超えて活動を広げる河合氏は激変する社会を乗り切るキーワードとして「共存共栄と多様化」を挙げる。「本来ライバルである他の事務所と組むという発想はなかった。競争よりも共に進み、それぞれが多様性を持っていれば高付加価値化ができる。血みどろの競争をするのではなく、持ち味を生かして伸びて行ければ理想的」と語る。

 

ダイバーシティ(多様性)は、社会、企業においても重要なキーワードだ。激動する新時代を乗り切る指針とするミッドランド税理法人の今後に注目だ。

 

◆私のビジネスアイテム

 

ミッドランド税理法人の河合代表がこだわるビジネスアイテムは「モンブランの万年筆」。資格を取得して、税理士として歩むことを決めた河合さんに当時の事務所メンバーから贈られた思い出の品だ。音楽好きの河合さんは大好きなフォークバンド「チューリップ」の曲に出てくることからスポイト式のモンブランをリクエストしたという。長年使い込んで、スポイトの調子が悪くなっても、大事な手紙のサインなどには必ず使うという。「自分の税理士の原点があるような気がします」と語る。

 

◆プロフィル

 

ミッドランド税理士法人代表社員 河合秀俊氏

1962年愛知県豊田市生まれ。1993年、父が所長を務める河合会計事務所に入所。1998年、税理士登録。2003年、河合会計事務所所長に就任。2009年、河合&MAC税理士法人設立、代表社員に。2012年9月 ミッドランド税理士法人アライアンスを発足。趣味はダイビングと作詞・作曲、ギターなど。