2022.10.17

2022年、復調に向けた航空業界を考察。

英国の航空データ分析大手であるシリウムは、世界の97%のフライトスケジュールやチケット価格データなど、航空業界全般のデータを持つ。創業は1909年。旅行業界、金融業界、 宇宙開発関連企業、航空業界などへあらゆる航空データを提供しており、航空業界の展望にも明るい。新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、我が国の航空業界も大きく後退した。シリウスの知見や国土交通省の調査データを参考に、航空業界のリスタートに向けた道のりを検証してみたい。

リスタートに向かう、日本の航空輸送

我が国の国内定期航空輸送は2012年以来増加傾向にあったが、2020年に前年対比56.2%減と大きく落ち込んだ。貨物輸送は国内37.3%減、国際線は11.2%減。国際航空輸送はより深刻で、前年に比べ81.4%の減少となった。翌年2021年の数字をみると、国内定期航空輸送が前年比6%減、貨物輸送は7.7%減と減少に歯止めがかかりつつあるが、国際航空輸送では前年比67.7%とまだ先が見えない状況だった。しかし、年が明け2022年になると状況が変化する。国内便は旅客が前年同月比126.1%増、貨物が17.4%増。国際便においても、旅客91.5%増、貨物6.4%と回復の兆しをみせ始めている。その後も旅客運送を中心に着実に輸送量を伸ばしているのだ。

一足先に回復に向かう、世界の航空輸送

では、その視点を世界に転じてみる。シリウムのデータによると2021年1月から10月間の旅客フライトの総数は、2020年の1500万便から1788万便へと増加し、こちらも回復傾向にあることが分かる。むしろ、日本国内と比較すると大きく飛躍している印象だ。2022 年の年末までに旅客機輸送力が2015年の水準に回復するというのがシリウムの予想だ。CEOのジェレミー・ボーウェン氏は、2022年2月に述べた航空機業界の動向予測の中で、旅客機数の規模はコロナ前の水準に戻るとともに、国際線輸送は3分の2の水準に達すると語っている。また、2021年の2件から2022年の4件へと回復傾向を見せたのが、大規模なビジネスイベントの開催だ。ビジネスイベントやビジネス会議が増加した背景では、出張のための飛行機利用が増加すると予測。2021年、好調に推移した航空貨物市場は61機の新造貨物輸送機の発注があったことも踏まえ、旅客機業界の復調も進むとしている。

回復への足掛かりは定時運行とLCC

今後、航空業界が回復をめざすためには何が必要だろうか。その中でシリウムは、2つの要素を重要視していると示唆する。1つは「定時運行」、もう1つは「LCC」(格安航空会社)だ。時間に追われる旅行者や政府、法人旅行部署、空港関係者にとって、正確な運航は何より大切な要素に他ならない。シリウムでも定時運航率に着目し、10年前からフライトデータソースを収集し公開してきた。またシリウムは、パンデミック時代の10の成長ストーリーという記事の中で、中国で業績を伸ばした九元航空、安定して業績をあげるアメリカウルトラLCC、フランス大手航空会社傘下の航空会社の事例などを紹介。これらの航空会社に共通するのが「LCC」だという。格安航空会社は、短距離市場の強みだけでなく、危機を乗り切る適応能力を持つということだ。

日本が秘めたポテンシャル

そのほかシリウムが航空業界で注目するのは、アメリカ、そして10憶人の人口を擁するインド・中国といった大国だ。しかし、中国の回復はロックダウンにより遅れを見せている。2022年4月時点での上海発着フライトの座席数は2019年に比べ90%減となり、先行きは不透明だ。この状況の中、シリウムが期待を寄せるのが日本である。コロナ禍直前、年間2000万人の旅行者が訪れていた日本は、北欧・東南アジアをはじめ世界各国の航空会社にとって魅力的な存在だと評価されている。2019年の時点で、日本との旅客航空路線が最も充実していた国々は、中国、韓国、台湾、香港、タイといった国々。シリウムに寄稿するアナリストも、2022年6月から日本が開始した外国人入国者の緩和をきっかけに、海外との運行再開に期待を寄せる。2021年、世界の空港の中で定時出発率ランキングの第1位になったのは羽田空港だ。中規模空港では関西国際空港、小規模空港では松山空港がトップ。日本の航空業界のポテンシャルは十分といえる。リスタート後の更なる復調に期待を寄せていきたい。

転載元:Qualitas(クオリタス)