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「マイコン」技術で社会課題の解決目指す  J-mind・上野淳代表取締役

2021年09月01日

炊飯器やエアコンで、センサーが検知した温度などの情報をもとに自動制御をつかさどる「マイクロコントローラー(マイコン)」。家電製品などさまざまな機器に組み込まれているマイコンの技術を農業や介護分野に導入し、人手不足などの社会課題の解決を目指すJ-mindの上野淳代表取締役に、マイコン技術の可能性について聞いた。

株式会社J-mind

J-mind 上野淳代表取締役

農業で知ったITの限界

大学を卒業して日立製作所のグループ会社に入社し、マイコンの回路設計や評価、人が行っていた部分の自動制御化による新商品の提案などを行っていました。その後、日立製作所の半導体事業部に異動し、マイコンの技術営業を担当しました。

半導体事業部ではマイコン搭載が進んでいない農業と介護ヘルスケア分野への進出を目指すことになりました。日立製作所のような大企業は、社内で技術開発を行うだけでなく、ベンチャー企業やスタートアップ企業との提携と支援によって、新しい分野に進出します。ITの世界の人間は、ITを使えば何でもできるという万能感を持ちがちなため、会社も私も、半年くらいで農業と介護ヘルスケア分野でのマイコン事業を収益化できると考えていましたが、実際に取り組んでみると、10〜30年はかかることが分かりました。

農業の場合、温度、湿度、水質など測定できる要素が多いため、それらをセンサーで測定すれば、よりよく栽培するためのデータがそろうと考えがちです。しかし、ある農家のおばあさんは、同じように赤く実った二つのトマトを一目見て、経験に基づいた直感によって「右は収穫できるけれど左はまだ」と言うんです。一方、ITは湿度や温度など一つ一つは測定できますが、収穫時期を総合的に判断することはできません。複雑な農作物という生命を相手に人間のような複雑な仕事をするのは、ITにはまだ難しいのです。

また、農家に営業に行くと「温度や湿度は肌感覚でわかるからセンサーはいらない。それより収穫を手伝って」と言われます。農家に必要なのはセンサーではなく人手なのです。近年若者の就農が増えつつありますが、若い人には長い経験によって得られる肌感覚がないことが参入障壁となっているので、困難でも肌感覚を代替できるセンサーを開発できれば、新たな就農者を支援することができます。我々のほかにも収穫ロボット開発に取り組むなどさまざまな企業があります。そうした技術がつながって、栽培から流通までの一連の過程を自動化することができれば、農家の人手不足の解消につなげることができます。

J-mind 上野淳代表取締役

早期退職を機に起業
そうした将来を夢見て、私はベンチャー企業への支援を続けていましたが、事業化に時間がかかることから、日立製作所は農業や介護ヘルスケア分野から手を引くことになりました。早期退職者の募集があったのを機に、55歳で日立製作所を退社し、J-mindを設立しました。

現在当社が手がけている主な事業は、マイコンシステムのノイズ設計のアドバイスとコンサルティング、マイコンや周辺回路の技術支援、センサー技術を用いた各種技術提案などです。独自の商品としては、環境センサーで得た気温、湿度、CO2などのデータを可視化して、パソコンやスマートフォンのアプリで見ることができるプラットフォームがあります。

環境センサーは、農業施設、工場、ビルなどさまざまな場所で使用でき、プラットフォームは、お客様の用途に応じてカスタマイズします。センサーはお客様がお持ちのものも使えますが、メンテナンス付きでレンタルもしています。レンタルなら、センサーに不具合が生じても取り替えればいいですし、メンテナンスの際に要望をうかがって、新たな機能を提案することもできます。

J-mind 上野淳代表取締役

企業や技術者のハブとして

農業分野については、トマトの液肥栽培の海外展開を目指すベンチャー企業に協力し、栽培から収穫までをカメラやセンサーで管理し、現地の就農者をサポートするパッケージシステムの開発などを行っています。

介護ヘルスケア分野では、やはりベンチャー企業による「スマートベッド」という、ベッドの下に1ミリ程度の厚さのシートを挿入して睡眠中の心拍と呼吸、寝返りなどの体動を測定して、睡眠の状態を分析・表示する製品のシステム設計やハードの作成、ソフトの開発支援、技術サポート、展示会、プロモーション、営業のサポートなどを担いました。

介護施設では、夜は介護士の人数が少なく、大きな負担となっています。そこでこのシートを導入すれば、誰が何時ごろ目を覚ますかを予測できるため夜の見回り回数を減らせますし、入居者の健康管理に役立てられます。介護施設だけでなく、乳幼児の睡眠の見守りや、大人の無呼吸の検証などにも応用することができます。

事業を行うにあたっては、従業員を雇用せず、企業や個人事業主とパートナーシップを組んで、プロジェクト型で推進するのが当社の特徴です。そして若い人には、社会で実現したい夢があるなら、独立して頑張れと言っています。マイコンやセンサーの導入も、人や企業も、点と点がつながって線になり、面になり、やがて立体となるような形で社会の課題を解決していくのも、これからの社会の一つのあり方です。そして当社が、そんな企業や技術者のハブになり、社会に役立つ新しい事業の実現につなげたいと考えています。

■プロフィル
1960年、東京都府中市出身。日本大学生産工学部電気工学科卒業後、日立マイクロコンピュータエンジニアリングに入社。日立製作所半導体事業部を経て、2015年、J-mindを設立し、代表取締役に就任。

株式会社J-mind
http://www.j-mind.co.jp

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