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<エコノミストTV>健康寿命のための口腔ケア まちづくりから歯科医療を 医療法人社団因幡会・林昭利理事長

2021年07月05日


歯周病が全身の健康に大きな影響を及ぼすといわれ、健康寿命を延ばすために口腔ケアの重要性が叫ばれている。大手デベロッパーと連携し、オフィスビルや商業施設、高層マンションなどでクリニック展開する医療法人社団「因幡会」の林昭利理事長は、「歯の寿命を伸ばせば人生の寿命も伸びることを日本人は重視していない」と指摘する。「まちづくりから参加して医療を提供する」という林理事長にその狙いを聞いた。【猪狩淳一】

■歯科医に苦手意識

歯周病による炎症で毒性物質が血管を通じて全身に入り、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病に影響を与えたり、歯周病菌が誤嚥性肺炎を引き起こしたり、認知症を進行させる可能性も指摘されている。約10年前、産婦人科医だった林理事長の叔父が脳出血で倒れ、入院中に口腔内の菌による肺炎が原因で亡くなったという。「入院中に口腔内をしっかりケアしていなかったんでしょう。人生の寿命と歯の寿命の相関性をどう伝えいくかを考えるようになった」と口腔ケアに対する意識の遅れを指摘する。

ライオンが2014年に実施した日米とスウェーデンの歯科意識調査によると、歯科医での定期健診受診回数は、アメリカは直近1年間に「2回」が最多で 34.9%、スウェーデンでは「1回」が最多で 57.1%。一方で日本は「受けていない」が 57.5%と最多だった。また、米国人の4割以上が歯科医を「好きな人」と、3割以上が「頼れるパートナー」とほとんどが好意的な印象を持っているのに対し、、日本人は「苦手な人」が14%で、「好きな人」と答えたのはわずか1.9%と歯科医への苦手意識が表れている。林理事長は「日本では、歯科に通っている“顕在患者”以外に、自分の歯の疾患に気づいていない“潜在患者”が多い。そこをどう救っていくか。人間ドックの中に歯科ドックを入れ込むなどして、“顕在化”できれば歯の寿命を延ばし、健康寿命を延ばせると確信している」と語る。

因幡会のクリニックがある汐留シティセンター(東京都港区)

因幡会のクリニックがある汐留シティセンター(東京都港区)


■オフィスビルや商業施設に特化

林理事長は首都圏の9か所でクリニックを開いている。いずれも森トラストや三井不動産、野村不動産など大手デベロッパーが開発したオフィスビルや商業施設、高層マンションで開業に特化している。林理事長は「大手デベロッパーは、“街”を作っているので、その中の歯医者は絶対に不可欠。一緒にまちづくりに参加して住民に歯科医療を提供しているんです」と話す。商業施設やマンションなどハイブリッドなタイプの物件を選んでいるといい、「コロナや東日本大震災のような災害時に商業施設は閉まってしまいますが、マンションなら医療を提供し続けることできる」と話す。

こうした戦略は後進の育成にもつながっている。因幡会は国家資格の研修医施設で、大学と連携して多くの研修医が学びに来る。「彼らは大体2〜3年で医療法人を転々としている。自分の勤務医時代も考えると、要するに環境の違いなんです。因幡会ならオフィスもマンションも商業施設もある。研修医から来て開業するまでいろいろな環境を経験して、自分はどれが向いているかを知ることができる」と教育にも力を入れる。

診療する林理事長

診療する林理事長


さらに歯科医師として海外の有名大学との共同研究や開発途上国での医療にも取り組む。「ハーバード大学やニューヨーク大学などのプロジェクトに参加しいます。ハーバードでは歯ブラシの耐久性や清掃能力を測る研究で、クリニックで電動歯ブラシや普通の手動歯ブラシのデータを収集しています。ニューヨーク大学とは血液から口の中の骨を作るという研究もしています」という。

■開業コンサルからそうめん居酒屋も

これまでのノウハウを生かして、歯科医開業のコンサルティングも展開。「経験のない歯科医が大手デベロッパーといきなり進めようとしても、さまざまな工事があって歯科医には分からない。デベロッパーとの間に入って歯科医同士で説明できるのでデベロッパーには重宝されています。開業のコンサルタントもいますが、歯科医でない人もいて、私は実際に開業した実績もデータもあるのが強みですね」と話す。「いまはうちから独立する卒業生や知り合いの歯科医に指導しており、将来的には全国にネットワークにしたい」という。「コロナ禍で汐留のオフィスから通っていた患者さんが、自宅の武蔵小杉で治療したいというときに情報提供ができた。因幡会だけだと首都圏では可能ですが、全国にネットワークをつくれば、患者さんも安心して転勤や引っ越しができると思うんです」と展望する。

そのバイタリティは歯科医療以外の分野にも広がりを見せ、関東に4店舗そうめん専門店「そうめん屋はやし 酒場Gogo」を出店している。「そうめんは日本最古のめんなんです。うどんやラーメン、そば屋があるのに、ここにそうめんが入るべきだと思った」と説明する。「だしソムリエ」の資格も取得し、「昆布のだしは母乳と要素が同じで、免疫力を得られるんです。飲食は歯科医の副業にもなると思います。口腔ケアも食文化も“口”から入りますから」と笑顔を見せる。

さらに故郷である鳥取への思いは強く、鳥取の旧称である「因幡」を法人名にしている。「鳥取に恩返したいと、歯の工場を誘致しました。技術も心も良い歯科技工士が集まってくれて、関東圏で受注したものを作ってもらっています。ご年配の方や鳥取に工場がなく関西方面に出ていた方のUターン雇用もできました」と郷土愛を語る。

「予防歯科とか口腔ケアとかだけだと情報が限られてくるので、口臭や体臭などの『臭い』に着目して、潜在患者を顕在化していくことが疾患の早期発見に疾患の早期発見につながる研究をしています。こうしたことで歯の寿命などに健康機器メーカーなどの企業が参入してもらえれば、一気に市場が拡大する。歯科医も歯だけでなく、臭いでアプローチすれば広がると思う」と明かす。常に新しいことを考えているという林理事長の“次の一手”は何か、目が離せない。

■私のビジネスアイテム

林理事長がこだわるビジネスアイテムは「リモアのスーツケース」だ。九つのクリニックを展開し、多忙な林理事長は、かばんにありとあらゆるものを入れて移動している。「手荷物にしていた時代もありましたが、体のバランスを崩してしまった。コロコロにするようになって肩こりが治るようになりました」という。「アナログ人間で月に1000件以上の請求書を紙で処理しているので、大きく口が開いて、書類が出し入れしやすい。こういったスーツケースがなかなかなかったので、掛け替えのないアイテムです」と軽やかにケースを転がす。。

林理事長がこだわるビジネスアイテム「リモアのスーツケース」

林理事長がこだわるビジネスアイテム「リモアのスーツケース」


■プロフィル
1973年鳥取県生まれ。2001年、明海大学歯学部卒業後、医療法人社団弘進会宮田歯科入社。、2003年、医療法人社団裕正会汐留シティセンター歯科入社、2005年裕正会理事に。2010年医療法人社団因幡会を設立。2007年因幡会グループCEOに。厚生労働省認定研修指導医。アメリカ歯周病学会会員。国際インプラント学会指導医。

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