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<エコノミストTV> 複雑化する企業間紛争 新時代に求められるロイヤーの資質は… AI-EI法律事務所 代表 森倫洋弁護士

2020年09月14日


企業経営のグローバル化やコンプライアンスの重視などの社会情勢の変化により、企業間紛争が複雑化、国際化しているといわれる。そんな中、企業間紛争の解決に特化し、様々な企業をサポートするのが「AI-EI(アイエイ)法律事務所」だ。代表の森倫洋弁護士は、元裁判官という経歴と日本最大手の法律事務所での実務経験から「多くの企業をクライアントとする大手では利益相反により扱いが難しい企業間紛争に取り組みたい」と事務所を設立した。ユニークな経歴を持つ弁護士らと共に様々な企業間紛争に取り組む森代表に新時代のロイヤー(法律家)のあり方について聞いた。(猪狩淳一)

◆「半沢直樹」のモチーフも?
森代表は、東京大学を卒業後、裁判官に任官。米ハーバード大のロースクールへの留学や最高裁事務総局の勤務を含め、東京地裁などで10年間裁判官を務め、日本最大手といわれる西村あさひ法律事務所でも長年パートナーを務めた。
 裁判官になった理由を「民法や商法などの民事の基本立法に携わる機会もあると聞き、裁判自体よりも法制度を作る仕事に興味があった」と語る森代表は、実際に倒産法の改正などに携わったという。

 「倒産法の改正に携わって、倒産実務をやりたいと思いましたが、企業の再建では裁判所は監督だけで弁護士が主軸になるので弁護士の方がやりがいがあるだろうと思ったんです」と弁護士になった経緯を振り返る。当時、会社更生や民事再生をはじめ倒産手続きで名高かった西村ときわ総合法律事務所(西村あさひ法律事務所の前身)に入所。ドラマ「半沢直樹」のモチーフともなった日本航空の再建を担当、大きな話題となった企業年金の減額などに取り組んだ。また、バイオメーカー大手、林原の裁判外紛争解決手続き(ADR)による私的再建から会社更生なども担当した。

 森代表は「非常にチャレンジングで、やりがいもありました」と振り返るが、その後の景気回復で大型倒産は減り、業務のウェイトも企業間紛争に移っていった。「大手の法律事務所では多くの企業にアドバイスしており、企業同士が紛争になった場合、利益相反の問題になってお断りすることも増えてきた。そこで比較的小規模の事務所で企業紛争を専門に扱うことができれば、より依頼者のお役に立てると考えました」と事務所の設立を決意した。

◆「AI」と「EI」
 最高裁が2013年に公表した「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」によると、企業間紛争について、企業法務弁護士へのヒアリング調査を分析した結果、「大企業は訴えを提起することにより世間の評判を落とすことがないか懸念するため、訴訟を選択することに消極的である」としながらも、「取締役責任、株主代表訴訟を提起されるリスクを非常に意識しており、経営判断を含めてアドバイスを求められることが多い。コンプライアンスの観点から、特に企業間紛争の解決手段として訴訟を選択する場合が増えており、今後も増えていくだろう」としている。

 こうした状況下で事務所を設立した森代表は「父のやっていた美容院チェーンの名前が『愛栄』だったことから、ローマ字で『AI-EI』と並べると、『アーティフィシャル・インテリジェンス』(人工知能)である『AI』と、『エモーショナル・インテリジェンス』(感情知性)である『EI』の組み合わせになります」といい、「企業間紛争も経済合理性だけでなく、人間を扱うという発想でいかないとうまくいかない。裁判官の経験で特に和解をまとめるには人の話を聴くという力が重要で、当事者との信頼関係をつくらなければならない。法律事務所は、人の感情を含め、人というものを扱うものでありつつ、AI的な蓄積されたデータを効率よく処理するという発想で、両方兼ね備えたものにしたいという意味で、コンセプト的にもマッチしました」と明かす。

海外の弁護士とテレビ会議をするAI-EI法律事務所のメンバー


◆新たな船出からコロナ禍に
 現在、事務所には8人の弁護士が所属するが、その全員が多様な経歴を持つ。「労務と紛争の二本柱になるが、労務については国際的な労務が扱える。紛争では、通常の法律事務所より入り組んだ案件でも扱えるということが必要なので、そういったスキルを磨いていけるという方々を誘いました」という。米国、中国系企業の労働紛争などを手がけてきた松井博昭弁護士は「大企業や外資系の会社が多いが、若手でも裁量を持って大きな案件を担当できる点が魅力だと思います」といい、アマゾンジャパンでの勤務経験を持つ春山俊英弁護士は「アマゾンで、商品の消費者への配送、保管、消費者からのクレーム、製品コンプライアンス等の法律問題に幅広く携わってきた経験を生かし、依頼者が抱える日常的な問題を解決していきたい」と話す。総合商社への出向も経験し企業法務の豊富な知識を持つ木村寛則弁護士は、森代表について「裁判官としての経験を踏まえ、案件についての見通し、裁判所等の目からの案件の見え方について知見があり、より客観的な目線で、見立てを持って対応している」と評価する。

 2019年4月に新たな船出をした結果、「良い意味で敷居が低くなり、古巣の事務所や、他の知り合いの弁護士からも案件のご紹介をいただいて、引き合いが増えました」という。だが、一年後に新型コロナウイルス感染症が流行する。森代表は「裁判期日も開かれず、多くの企業活動が止まりましたが、コロナ関係の人員の整理や労働状況の変更、助成金の扱いなどを含め、コロナ関係に特化した案件も新たに入ってきました」と話す。コロナ禍の社会について「我々弁護士は法曹の仕事をする中で、社会を見ていくしかない。例えばリモートワークが進んでいますが、労働基準法はリモートワークを念頭に作られてはいない。そこで法制度の解釈も弁護士がある程度マッチして作っていくように、社会の変化に合わせたリーガルサービスを提供するため、我々自身がその変化に合わせていかなくてはいけない」と語る。

 新たな時代に求められるロイヤーの資質について「裁判官にしても弁護士にしても先例踏襲主義というのが強い。もちろん、判例とか法解釈である程度前例、先例を踏まえて組み立てていくこともは当然必要だが、『先例でこうなっているからダメ』で止まっては新しい世の中に、全くマッチしない。既存のものをきちんと組み合わせて変化させていけるだけのフレキシビリティ(柔軟性)が必要だと思う。さらに社会の変化に対するセンシティビティ(感受性)があって、既存のものとのギャップをどう埋めるかということに対して、考える力が必要になると思う」と提言する。

 森代表の夢は……。「次世代のために業界全体を良くする上で、自分たちの利益追求だけではなく、後進たちをきちんと育てていけるような寺子屋のような学びの場、スキルを磨ける場を提供したい。『恩送り』として10年、20年かけて業界全体に還元できる仕組みというものを作っていきたい」と話す。新たな事務所で新時代のロイヤーを育てたいという森代表の夢に期待したい。

ボタン一つで高さを変えられる「昇降デスク」


◆私のビジネスアイテム
森代表のこだわりのビジネスアイテムは「昇降デスク」だ。座って使う高さからボタン一つで立って作業できる高さに昇降できる優れものに、「歩きながら考えるということが結構あって、脳を刺激するために脚を動かした方が良いそうで、立ちながらパソコンの作業もできるので、頭脳労働に役に立つと思います」と語る。また、「このコロナ期にあって座りっぱなしだと腰が痛くなるので非常に助かっています」とも。

AI-EI法律事務所 代表 森倫洋弁護士


◆プロフィール
1993年、東京大学法学部、ハーバード大学ロースクール卒。95年、東京地裁判事補に。2005年、西村あさひ法律事務所に入所し、日本航空の会社更生申立代理人や林原の会社更生申立代理人・管財人代理を務める。2019年、AI-EI法律事務所を設立。

◆著者略歴
1991年毎日新聞社入社。大阪社会部、京都支局などを経て、ニュースサイト「まんたんウェブ」を立ち上げ、2007年から株式会社MANTANに出向、取締役総編集長に。2020年8月、エンタメで地域活性に取り組むZipang.Incの取締役CCOに就任。

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