ヘルス

<専門医に聞く>感動の歯科治療で健康増進に「正のスパイラル」を 西永福歯科・山口昌良院長

2020年06月24日

医療法人社団名月会西永福歯科の山口昌良氏

医療法人社団名月会西永福歯科の山口昌良氏がライフワークとするのは、歯科のハードルを下げ、検診や治療をより身近なものとすることにより、社会の健康増進に寄与すること。それは最新の治療技術を取り入れるだけではなく、院内環境の改善、またスタッフの「働き方」などを変えることによって実現するものだという。経営スタイルが同業の歯科医からも注目される山口氏に、これからの歯科医療についての考えを聞いた。

◇「歯医者ぎらい」が生む悪循環

当院では「抜かない」「痛くない」「削らない」というむし歯治療の基本方針を掲げています。そのように聞くと「本当にそんな治療法があるの?」と驚かれる方が多いのではないでしょうか。むし歯の治療といえば、ドリルで歯を削り、金属やプラスチック、セラミックなどで詰め物をする、場合によっては神経、歯を抜くという方法を誰でも思い浮かべ、それ以外の方法はないと思われているかもしれません。

当院で行う代表的なむし歯の治療法として「ドックスベストセメント」があります。むし歯の部位を削らずに洗浄・消毒し、殺菌力のある薬剤「ドックスベスト」を詰め、被せ物をする方法です。痛みはほぼなく、薬剤の半永久的な殺菌効果で再発を防ぐことができます。また「抜かない」治療として、神経を抜かない「歯髄回復治療」や、歯を抜かない「無痛インプラント」などを手掛けています。

ドックスベストセメント治療を始めて約10年が経ち、治療件数は約1万件に達しています。最近では、他の都道府県から患者がいらっしゃったり、都内の患者が引っ越される際に「転居先で同じ治療を行っている医院があれば紹介してほしい」とご質問をいただいたりということも多くなり、治療効果が認められてきていると感じます。

私が、なぜ新しい治療法の普及にこだわってきたのか。それは「歯医者ぎらい」を少なくするためです。多くの方が幼少期に、歯科治療の痛み、歯を削る音などに恐怖を感じ、そのネガティブなイメージを大人になるまで持ち続けています。「歯医者には行きたくない」という気持ちは、状態が悪化するまで放置することにつながります。「歯医者ぎらい」を生んでいるのが私たち歯科医であるのはジレンマにほかなりません。歯科への心理的ハードルを下げるのは使命だと思っています。

医療法人社団名月会西永福歯科の山口昌良氏


◇誰もが、よりアクセスしやすい歯科に

私はキャリアを通し「抜かない」「痛くない」「削らない」治療のため、最新技術を追求してきましたが、治療の知識や技術だけでは理想が達成できないことも、日々痛感しています。医療は、最終的には人と人との関係です。歯科医、スタッフと患者が、温かい人間関係をつくることができなければ、検査や治療に気軽に来てもらうことはできません。

目指すのは、老若男女が、もっとアクセスしやすい歯科医院。とくに、以後数十年にわたる歯科のイメージを作ることになる小児歯科は責任重大です。子どもさんは敏感ですから、痛みだけではなく、歯科医や歯科衛生士、事務員の高圧的な態度や冷たさを感じ取り、強い拒否感を持つもの。皆が笑顔で、子どもさんに優しく接すること。また嫌がる場合は、無理に治療をしないことなどを大切にしています。また、親御さんへの食育など子どもの歯と口の健康に関する情報提供にも力を入れています。

そして実は、歯医者ぎらいが顕著になるのは高齢者の方々です。若い方よりも歯の痛みを我慢したり、改善を諦めてしまったり、頑なに来院を拒んだりする傾向が強くなります。歯や口腔の状態は、内臓など様々な部位の健康に大きな影響を及ぼします。高齢化社会における健康寿命延長の観点からも、真剣に考えるべき問題です。

現在当院では、自宅や介護事業所への訪問歯科に力を入れています。また、高齢者の暮らしをサポートする地域包括支援センターで、看護師や薬剤師、ケアマネジャーらと連携し、高齢者を治療にスムーズにつなげる方策を検討しています。また、本人や周囲の方が、むし歯や歯周病、入れ歯、嚥下(えんげ)障害の有無を簡易チェックできる歯科スクリーニングシートを考案し、医師会などから問い合わせをいただくなど地域を越えて活用されるようになりました。人と人の関係を豊かにして、歯科医療へアクセスしやすくする意義のある活動だと考えています。

◇働き方が変われば歯科医療が変わる

医師と患者、スタッフ、皆が笑顔になるのが本当に良い医療であり、それは「三位一体」のようなものです。どれが欠けても無理が生じます。では、この3者の中で、まず誰を大切に、笑顔にするのがよいのでしょうか。

多くの医師は「患者さんを最優先で大切にするべきだ」とおっしゃいます。もちろん、患者の満足が、何よりも大切なのは確かですが、まずスタッフを幸せにすることが患者へのサービスを向上させる最善の方法だと思っています。

給与や休暇、労働時間などの待遇を充実させ、人員、院内のオペレーションを無理なく整備し、スタッフに心の余裕をもってもらうと、自然に患者が何を望んでいるのかを考え、良心に従って動くようになるものです。

同業の医師を見ると、治療技術が高くてもマネジメントに苦手意識を持っている方が多い。スタッフが信頼できず、厳しい指導やマニュアルで、一挙手一投足を管理しようとする方もいます。私は、楽観的すぎるかもしれませんが、自分の基本的な考え方を伝え、最低限の指導を行った後は信頼して任せてしまいます。結果、私の方針に共感し、自主的に率先して動いてくれる頼もしいスタッフが長く働いてくれるようになりました。

現在、スタッフは女性が8割以上ということもあり、産休や育休制度も整えています。出産後、職場に戻ってきてくれる女性スタッフが多いのも特長です。今後力を入れる訪問歯科は、育児などで時間の制約がある方も訪問時間などを調整しやすいため、一人一人のスタッフが持てる力を100%発揮できる仕組みを作り上げていきたいと考えています。

私自身の働き方も変わりつつあります。現在、複数の医院を展開していることもあり、治療現場を離れたマネジメントの比重が高まっています。また、同業者から経営について相談されることが増えたこともあり、コンサルティング事業にも興味があります。自院、他院問わず、さまざまな形で理想の歯科医療の考えを広め「歯医者さんのイメージが変わった」「このクリニックを選んでよかった」という感動体験を増やすこと。それが社会全体に「正のスパイラル」を生み出していくのだと思っています。

◇プロフィル
1982年生まれ、東京都出身。2008年日本大学歯学部卒業後、日本大学付属歯科病院に就職。2009年、哲学堂デンタルクリニック勤務。2011年、吉祥寺まさむねデンタルクリニック勤務。同年末に西永福歯科を開院。2014年12月西早稲田駅前歯科矯正歯科開、2016年8月永福町歯科開院。現在に至る。

医療法人社団名月会 西永福歯科
http://nishieifuku-shika.net/

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