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<エコノミストTV>若き“事業承継家”の挑戦 セイワ工業 野見山勇大代表取締役

2019年09月02日


 注目のビジネスの裏側や気鋭の経営者の思いを探るインターネット番組「エコノミストTV」。今回は、企業経営者の高齢化が進み、事業承継の難しさが大きな課題となっている中小企業で、後継者に悩む町工場をM&Aなどでネットワーク化して生産性を高め、「世界一働きやすい町工場をつくる」と意気込むセイワ工業の野見山勇大代表取締役に、日本のものづくりを支える町工場の課題を聞いた。
猪狩淳一(毎日ブランドスタジオ・プロデューサー/記者)

社員と話す野見山さん


■2020年までに100万社廃業?
東京商工リサーチの調査によると、2018年に全国で休廃業・解散した企業は4万6724件(前年比14・2%増)で2013年の3万3475件から1万件以上増加している。休廃業・解散した経営者の年齢は、70代が最も多く37・5%だった。次いで、60代の29・0%、80代以上の17・2%と続き、60代以上が全体の83・7%を占めた。2015年~2020年に約30・6万人の中小企業経営者が新たに70歳に達し、約6・3万人が75歳に達することが推計(帝国データバンク調べ)され、高齢化が事業承継の大きな要因となっていることが浮き彫りになった。
 さらに日本政策金融公庫総合研究所によると、60歳以上の経営者のうち、50%超が廃業を予定しており、理由は「当初から自分の代でやめようと思っていた」が38・2%で最も多く、「事業に将来性がない」が27・9%。「子供に継ぐ意思がない」、「子供がいない」、「適当な後継者が見つからない」との後継者難を理由とする廃業が合計で28・6%を占める。経産省の分析は約380万の中小企業のうち廃業のリスクに直面している企業は127万社にのぼるという。廃業予定企業の経営者の約3割が、同業他社よりも良い業績を上げていると回答し、4割が今後10年間で成長もしくは現状維持は可能としており、現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年ごろまでの10年間で累計約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があると指摘する。

■「親孝行」から事業承継
 事業承継が日本経済の大きな課題となる中、三重県木曽岬町で金属加工会社の経営者の長男として生まれた野見山氏は大学時代、IT関係で起業を目標に、IT会社に就職してキャリアを積もうと考えていた。実家を継ぐことは全く考えていなかったが、卒業前に「親孝行をしたい」と工場を手伝うことになった。経理を任された野見山氏は会社の資金繰りが思ったより悪いということに気づいた。「父はカリスマ性のある経営者タイプ。『何とかなる、大丈夫だ』と腕一本でピンチを切り抜けて生き残ってきた自負がありました。約10人の社員と働く姿を見て、一から起業するよりもこの会社で経営して再建してみようと思いました」と後を継ぐことを決めた。
 経営の知識も経験もない野見山氏は「専門書を30冊以上読み、父をはじめ多くの先輩経営者にも相談して必死で勉強しました」といい、会社のキャッシュフローが厳しいことに行き当たった。そこで父にも税理士にも難しいといわれた追加融資を実現させて一息つくと、「職人の技術は確かなのに取引先が1社に頼っていて、繁忙期と閑散期の差が激しく、経営的には不安定で効率も悪かった」と取引先の拡大に取り組んだ。
 その矢先、若い社員が「会社をやめたい」と言ってきた。理由は給与の安さと長い残業時間だった。野見山氏は社員の待遇改善に取り組むが、「職人さんに『残業を減らそう』とお願いしても『お前が現場を手伝えるのか』といわれたり、他の社員からも辞めたいといわれたり、このときが一番苦しかった」と振り返る。野見山氏は社員と徹底的に話し合い、給与を30%引き上げ、残業時間も20%削減。さらに取引先を3 年で30社増やすことにも成功。売上も約4倍へ躍進させた。

父の後を継いだ野見山さんと社員たち


■日本の製造業再生に挑戦
入社4年で代表取締役に就任。再建にめどは立ったが、大きな課題にぶつかった。野見山氏は「職人の会社をどう伸ばしていくか。今のやり方では厳しい」と感じた。さらに「日本といえば『ものづくり』の国で、ものづくりは日本の基幹産業。そんな製造業が後継者難で苦しんでいる。本当にもったいないと思った」といい、自ら〝事業承継家〟として製造業の再生に乗り出した。
 製造業専門のコンサルティング会社を設立し、町工場再生の支援に取り組んだが、その中で「1社当たりの間接部門費などの販管費は業種が違ってもそんなに変わらない。その分をまとめれば、設備投資や人件費などに回せる。町工場をネットワーク化すれば可能性が広がる」と考え、自ら後継者難に悩む町工場を買収して直接再生に取る組むことを決意した。
 M&Aをあっせんするサイトで、79歳の経営者が後継者を探していた岐阜市のメッキ加工の「東栄コーティング」を紹介された。3カ月にわたって徹底したリサーチを行った結果、「工程が厳しい自動部品の加工をしているので製造管理が非常に優れていて、社員の質も非常に高い。だが、単価の見直しや新たな販売戦略、少子化に向けたIT化の実施などが遅れていた。リスクはあるが期待値が高い」とM&Aを決断した。6月に代表取締役社長に就任し、社員とのコミュニケーションを密に取りながら改善に乗り出した。
 バレルと呼ばれるメッキの装置を担当するライン長の宮崎洋和さんは「最初は不安もありましたが、話し合いの中でビジョンがはっきりしていて、設備投資などもしっかりやっていこうと言ってくれた。前社長の後継者がいないことが不安だったので、若い後継者ができて、これからも働き続けられることに安心感を持てるようになりました」と歓迎している。

■「世界一働きやすい町工場」ネットワーク化で上場目指す
野見山氏は「優れた技術を持ちながら経営効率の問題で収益性が上がらない町工場をネットワーク化し、世界一働きやすい町工場をつくって、一丸となって上場するのが目標です」と力強く語る。
 中小企業庁は、大量の中小企業経営者が70歳を超える2020年代に向け、事業承継対策は「待ったなし」とし、2017年度から事業承継5カ年計画を進めている。同計画では経営者が交代して若返った企業は利益率や売上高を向上させており、計画的な事業承継は企業成長の観点からも重要だとして、ベンチャー型事業承継などの経営革新に積極的にチャレンジしやすい環境の整備を図っている。売り手と買い手のマッチング、債務や個人保証の引き継ぎなど課題はあるが、町工場のネットワーク化による上場を目指す野見山氏の挑戦は、日本の中小企業の今後を示す一筋の光明となるだろう。

野見山氏が愛用するマイクロソフトの「Surface Pro」

◆私のビジネスアイテム
 野見山氏がこだわるのはノートPCだ。マイクロソフトの「Surface Pro」を愛用している。野見山氏は「軽くて持ち運びに便利で、キーボードが取り外せてタブレットにもなるので、打ち合わせするときも相手に資料を見せながらできるのがいい」と語る。2つの会社を経営しながら、事業承継の講演や企業のコンサルで飛び回る野見山氏らしいこだわりだ。

野見山勇大さん


◆プロフィル
のみやま・ゆうた 1992年名古屋市生まれ。愛知県立大学外国語学部卒業後、2015年、父の経営する「セイワ工業」に入社。共同代表を経て2019 年代表取締役に就任。2019年6月、メッキ加工の「東栄コーティング」の全株式を取得して事業承継。事業承継家として企業のコンサルティングも務める。著書に『会社を殺さないための「事業承継」の教科書』(きずな出版)

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