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<専門医に聞く>歯周病予防 “究極の予防”は矯正治療 小林英範・歯科医師

「むらおか歯科矯正歯科クリニック」の小林英範・歯科医師
◇人生百年時代「一生自分で噛める歯並び」を
歯並びが悪いと食べ物をよく噛めなかったり、歯ブラシが届かずきちんと磨きにくかったりするため、虫歯や歯周病になりやすい。また、どこが虫歯になっているのかも分かりにくく、気がついたら虫歯になっていることも多いのです。そういった意味でも矯正治療は「究極の予防」であるといえます。
歯科研究の先進国であるアメリカでは、歯の疾患と全身の健康に関わりがあることが広く浸透していて、定期的にメンテナンスに通う人も多く、歯科の受診率が高いのです。歯列矯正をすることも一つのステータスになっていて、子どもの歯並びが悪かったらそれは親の責任であるという考えが主流です。歯並びを凸凹のまま放っておいて虫歯や歯周病になると、一生にかかる医療費が高額になってしまうからです。
平均寿命が延び、人生百年といわれる時代ですので、初診時に10歳だったとしても、そこから90年近く自分の歯を使うことになる。そうすると、見た目だけではなく、全身の健康を守るためにも、「一生自分で噛める歯並び」を作っていくことが大切になってくるのです。
しかし、日本では、歯に対する意識がまだまだ低く、歯並びが原因で虫歯になっても、虫歯だけを治して終わりというケースが多い。それでも、10年、20年前に比べれば矯正をする人は圧倒的に増え、少しずつその重要性が認知されはじめているのかなと感じています。
◇大人でも治療可能 最新「マウスピース矯正」も
矯正を開始する時期は、一般的にはだいたい7歳までに矯正を開始することが推奨されていますが、中学生や高校生、大人になっても矯正治療はできます。気付いた時点で治すべきだと思いますね。歯があれば何歳でも治すことができます。逆に歯周病ですでに歯がないという人は、たとえ20代でも治すことはできません。歯は骨の中に埋まっているので、歯周病でその骨が溶けてくると歯を支えることができないのです。歯並びがいいと虫歯にも歯周病にもなりづらくなりますので、矯正で歯並びをキレイに整えておくことが、一生自分の歯を保つことにつながります。
矯正法も以前は銀色のワイヤーで歯並び全体を固定する矯正法が主流でしたが、今では透明なマウスピースを使用するものや、歯の裏側で装置を固定するものなどさまざまです。一番ストレスがない治療法としては、装置が透明で目立たず、痛みが少ないマウスピースで矯正を行う「インビザラインシステム」という方法があります。ワイヤー矯正の痛みが10だとするとマウスピースは1か2程度。さらに、ごはんを食べるときや歯を磨くときには簡単に外せるので、ケアもしやすい。ただマウスピースがすべての症例に対応できるというわけではないので、その場合はワイヤー矯正で治す道も探らなくてはなりません。
ワイヤー矯正ができてマウスピース矯正も取り扱っている歯科医と、マウスピース矯正しか取り扱っていない歯科医とでは全然違います。いざマウスピースでは治しきれない状態だったときに矯正の基礎となる理論をわかっていないと根本的に治すことはできないのです。なので、矯正歯科を選ぶときは、ワイヤー矯正もマウスピース矯正もできて、さらにいろいろな選択肢を出してくれるクリニックを探した方がいいと思いますね。
また、日本で矯正を専門にやっていきたいという歯科医の多くは日本矯正歯科学会認定医を目指すので、その資格の有無もクリニックを選ぶ目安になるかもしれません。矯正に関する知識が深い上、症例に応じた治療経験数も必然的に多い。一般の歯科医でも矯正が上手な方はたくさんいますが、矯正専門医との経験症例数は比較にはならないと思います。矯正は時間も費用もかかりますので、面倒でもいくつかのクリニックを回っていろいろと話を聞いて、自分に合っているところ見つけた方がいいですね。歯の矯正は一生のことですから。

「むらおか歯科矯正歯科クリニック」の小林英範・歯科医師
◇心臓病、脳梗塞のリスクが…
人間は悪い状態にも順応することができるから、生まれつき歯が凸凹でも生活に支障がなければ歯医者には行かないという人は多い。でも、人生百年とすると、矯正治療は長くても2年。人生のうちのたった2%の期間でそれをやらなかったために、60歳を過ぎてからの人生を自分の歯で食べられなくなってしまったり、心臓病や脳梗塞などの病気になってしまったりしたらと考えると、リスクの方が大きい。そのときになって「矯正しておけばよかったな」と思っても、歯周病で歯が無くなっていれば矯正はできません。30代40代で矯正をしたとしても、まだその先は50年以上もあります。病気で長生きをするのと健康で長生きをするのとでは雲泥の差がある。早めに治療をした方がよいというのはそういうことなのです。
また、矯正治療で見た目のコンプレックスが解消されるにつれ、患者さんが内面からどんどん明るくなってくるのを感じます。初診と治療終了時では全然顔が違う。患者さんの笑顔を見るのがうれしい。矯正専門医として、その人の人生に少しでも役に立てているのかなと思える、やりがいを感じる瞬間です。
矯正をするしないにかかわらず、歯医者に当分行っていないという人は一度行ってみた方がいいと思います。30代を超えると8割の人が歯周病だといわれていますので、ほとんどの人が何かしらの歯の疾患を抱えていると考えられます。痛くなってからだと遅くて、神経を取ったり、歯を抜いたりしなくてはならなくなる可能性もある。定期的に検診に行くことが大事です。皆さんが健康に生きるための手助けをするために私たち歯科医がいますので、これを機にぜひ歯医者に行ってみてください。
◇プロフィル
小林英範(こばやし ひでのり)
1975年、東京都出身。2000年日本歯科大学卒業。矯正専門医院などを経て、むらおか歯科矯正歯科クリニック勤務、代表に就任。
矯正歯科専門医として矯正治療を担当する傍ら、歯科医を対象とした講演会やメディア出演、執筆等でも活躍している。日本矯正歯科学会認定医。日本顎咬合学会認定医。インビザライン認定ドクター。インコグニート認定ドクター。
むらおか歯科矯正歯科クリニック
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