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<エコノミストTV> スポーツコミュニティ 独自のアイデアでパラダイムシフト

2018年07月27日

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注目ビジネスの裏側や気鋭の経営者の思いを探るインターネット番組「エコノミストTV」。第1回は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、注目されるスポーツビジネスで、特定施設を持たず自治体の体育館などを利用した体操教室で急成長する「スポーツコミュニティ」(本社・横浜市)の社長、中村伸人氏を取材した。

 

 

◆小学生2人の指導から全国1万5000人に

 

子供とおでかけ情報サイトで国内最大級の情報量を誇る「いこーよ」を運営するアクトインディが、全国の親261人を対象に実施した「子どもの習い事事情」に関するアンケート調査によると、「既に通っている」「この先通わせたい」習い事は、「水泳」が「通っている」34・8%、「通わせたい」15・1%でダントツだった。運動系でそれに続くのが「体操」。「通っている」16・1%、「通わせたい」1・9%と、定番のサッカー(通っている8・4%、通わせたい1・9%)や野球(5・8%、3・8%)を上回った。同社は、2016年のリオ五輪で男子団体と個人総合の内村航平選手が金メダルを獲得したことも人気の理由に挙げている。

 

こうした盛り上がりを背景に、「スポーツコミュニティ」は、子供向け体操教室を全国で600教室、会員1万5000人を持つ。同社最大の特徴は、特定の施設を持たずに、自治体などの既存の施設を借りて地域の子供たち向けの教室を展開するというビジネスモデルだ。

 

体育大学で体操選手だった中村氏は、大学院時代に小学生の指導を頼まれたことがヒントになり、2002年、27歳で起業した。中村氏は「若かったので施設を建てる資金もなかったが、施設を持たないため、子供の多い地域で教室を開けるなど柔軟な運営ができるのも強みになった」と語る。6教室からスタートし、首都圏を中心に拡大。昨年は大阪、名古屋、福岡に進出した。

 

中村氏は「水泳と体操は、幼児期に習わせたいものの上位に入っている。特に体操はスポーツの基礎として最初に習うことで、他のスポーツの上達にもつながるので、球技とセットで習うなどの需要がある」と分析する。実際、矢野経済研究所によると、2015年度のお稽古(けいこ)・習い事市場規模でトップの「スポーツ教室」は子供向けが堅調で、前年度を上回る6510億円だった。子供の運動能力向上やスポーツを通じて礼儀、協調性などを身に着けさせたい保護者の需要が大きいという。

 

◆ノーベル賞学者も注目 「非認知能力」伸ばす

 

同社の展開する体操教室では、体育館にトランポリンや跳び箱などの器具を持ち込み、就学前児童や小学生に1回1時間、講習する。

 

子供たちにはトランポリンを使った指導が好評で、保護者の一人は受講を決めたポイントに挙げていた。中村氏が注力するのは、「人間教育」だ。指導では、大きな声でのあいさつにこだわる。1度のクラスで8回はあいさつを入れるカリキュラムとし、しっかりと声掛けもさせる。体操は一人一人違ったレベルでも指導できるため、異学年の児童や障害児を一クラスにし、他者への配慮などをはぐくんでいる。

 

中村氏は「子供たちの『非認知能力』を伸ばすことに注目している」と語る。ノーベル経済学賞受賞の米経済学者、ジェームズ・ヘックマンの研究で注目された能力。読み、書き、計算などIQ(知能指数)で測れる「認知能力」に対し、目標を達成するための粘り強さや、他者と協力する社会性、情動を抑制する自尊心などで、幼少期の遊びや運動、他者との関わりなどから育成されるという。中村氏は「体操を通じて達成感や幸福感を感じることが『非認知能力』育成につながる」と話す。

 

指導を支えるのが、約100人のインストラクターたちだ。体操経験は問わず、大学や専門学校でスポーツに取り組んできたことが条件。約1カ月間の合宿研修で指導のノウハウを学び、子供たちの指導に当たる。同社は「共育」を指導理念に掲げ、子供たちへの指導を通じて、インストラクター自身も成長を続けていく姿を見せて、共に学んでいく姿勢を重視しているという。

 

全国展開を進める中で、地元でスポーツスクールを開きたい人には「ホームタウンスクール制度」で支援し、転勤先も本人の意思を尊重する「希望キャリアパス制度」などを導入。プロや実業団などで本格的に選手生活を送ってきたアスリートのセカンドキャリアとしての採用に力を入れ、国際マラソン大会で活躍していた女性ランナーも入社している。障害を持つアスリートの支援やパラスポーツにも注目し、競技支援や指導者育成にも力を入れる方針だ。

 

◆ボランティアからプロ指導者へ

 

中村氏の目指す先には「スポーツ指導のパラダイムシフト」であるという。日本の子供や若者のスポーツは学校の部活動やスポーツ少年団などが中心。指導者も教師らがボランティア的に務め、『ただで教わるもの』と思われている。中村氏は「専門的な知識やスキルが無い指導者が多い。教師も休日をつぶして部活を見なければならず、『ブラック部活』という言葉もある。五輪のメダル獲得数を見ても、日本は体操や水泳など子供の頃から個人で専門のスクールに通って学べる競技ばかりが強い傾向がある。きちんと対価を払ってプロの指導者から教わるものへシフトしていくべきだ」と指摘する。同社は、主軸の体操教室展開に加え、学校の部活動支援や指導者の派遣事業なども視野に入れているという。

 

東京五輪開催の2020年には会員数3万人、2023年には5万人を目標に掲げる。中村氏は「本格的な全国展開の準備は整ったが、体育館などの施設の人気が高まっており、今後は確保が難しくなっていくだろう。“全国でスポーツ事業ができるプラットホームを取る”という目標を掲げまずは全国で教室を展開する『場』を押さえてしまうことが課題」と語る。

 

次の展開先として注目しているのは、体操の指導スキルを生かせて子供たちの人気も高いチアダンスなどだ。「体操だけの指導で会員数5万人になれば国内最大規模になる。体育館というプラットフォームさえ確保できれば、空きスペースでほかの競技を指導するという多面展開もできる」としている。

 

東京オリンピック・パラリンピックというスポーツ最大の祭典が開かれる中、スポーツビジネスの新たな地平を開けるか、同社の今後に注目したい。

 

◆私のビジネスアイテム

 

「スポーツコミュニティ」の中村伸人社長がこだわるビジネスアイテムは「手帳」。起業した16年前から愛用しているのが「手帳の高橋」でおなじみの「高橋書店」の「No.88ニューダイアリー」だ。見開きA5判で1週間の予定を記録できる。中村社長は「時間の目盛りが分かりやすく、スケジュールをきちんと書き込めるのがお気に入りのポイント」と語る。

 

◆中村伸人氏プロフィル

 

1974年生まれ、神奈川県出身。学生時代体操競技で全国大会などにも出場。大学院修了後、スポーツ専門学校の教員となり、学生募集をする広報担当として、入社当時200人だった学生数を3年間で1200人に増やした経験を持つ。2002年、スポーツコミュニティ株式会社設立。体操教室で全国展開を続ける。