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<エコノミストTV>「対極のルール」で経営を  宝輪 谷田育生会長

2021年03月01日

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◇遊びの中から生み出した哲学

超高齢化社会に入った日本で、中小企業の経営者も70代以上が過去最高となるなど高齢化が進み、「事業継承」が大きな課題となっている。東京商工会議所のアンケートでは、30代で事業を引き継いだ経営者は業績を好転させている割合が高いという。「宝輪」の谷田育生会長は20代で父から会社を継ぎ、業績を拡大。さらに50代で自ら事業承継を行った。「経営者は遊びの中でセンスを磨く」、「経営者は50代で引退」「対極のルール」といった独自の経営哲学を持つ谷田会長に経営と事業継承の“極意”を聞いた。

◇28歳で事業承継を経験

 2019年版の中小企業白書によると、経営者の高齢化は年々進み、60代以上が6割で特に70代以上が増加の一途をたどっている。年齢別に後継者の有無を聞くと、70代は約4割、80代は約3割で後継者に困っているという。一方、東京商工会議所が2018年に行った「事業承継の実態に関するアンケート調査」によると、30代~40代前半で事業を引き継いだ経営者は、事業承継後に前向きな取り組みを行い、事業を好転させていく割合が高いという結果が出ている。

宝輪のトラック


 「宝輪」は谷田会長の父が三重県鈴鹿市で創業した小さな運送会社だったが、鈴鹿に本田技研工業の製作所が設立され、順調に成長していった。高校生だった谷田会長は「全く継ぐ気がなく、大学受験をするうつもりだったのに、父が突然下宿にやってきて、『何をしているんだ。会社が忙しくなってきたからすぐに手伝え』と言われました」と振り返る。「父に『マツダのコスモスポーツを買ってくれたら手伝う』と条件を出したんです。日本で一番いいスポーツカーで、当時高卒の給料が1万8000円だったところ、143万円もしたんです。それに乗りたくて仕事をするようになりました」と笑う。

 社員として入社し、数年後に管理職として現場の管理をするようになったある日、「突然、父が取引先とケンカして帰ってきて、『もう明日からお前がやれ』って言われました。当時まだ父は40代で引退し、私は28歳で社長に就任することになりました」と語る。 「実際に継いでみて、一生懸命にやればなんとかなるぐらいの感じで何年かやったんですけど、自分より目上の年齢の方ばかりで、指示はできるけど、心底会社のこと考えて動いてくれるかっていうと、なかなか難しい。社長に人望なり、尊敬できるところがないと人はついてこない。経験値がないとそれ無理だと思って、遊びの世界で経験してみようと遊びだしたんです」と明かす。

◇“週一出社”で経験を積む

 谷田会長はなんと毎週月曜日の午前中だけ出社し、それ以外はすべて遊びにつぎ込むという思い切った生活を始める。「社員にはいちいち僕に判断を仰がず、『問題が起こったから社長どうしましょう』と聞くのではなく、『自分がこうします』『こうしました』でいいと言っていたので、自分で判断できる優秀な素晴らしい社員が育ちました。社員が自分で責任を持った仕事をすることで、やりがいも感じてもらえるようになりました」とその効果を語る。週一の社長業は、取引先や銀行など社長として必要のある相手との面会などを行ったという。「僕に会いたい人はそこの午前中に集中して、だらだらせず社長としての仕事は中身が濃くスムースにいきました」という。

 そこから徹底的に遊んだという谷田会長はさまざまな遊びに手を出したという。「遊びと名のつくものはみんなやってみようかなと思って、いろいろやりましたが、どの遊びも難しい。本当に楽しいと思える遊びは少ないんです。例えばゴルフで仲間とワイワイいいながらプレーするのは楽しいんですが、上達していくとゴルフという競技にはまり込んでいくと、だんだん純粋に楽しめなくなってくるんです」という。そんな中、クルーザーでのトローリングなど海の魅力に気付いたという。「クルーザーは一番お金がかかりましたけど、釣りもできますし、海って広いし、毎日状況が変わって、他の遊びのようにこれで満足っていうのはない。しかも思ったより危険で、苦しく、つらい目にも合う。ただそれを乗り越える技さえ身につけば、誰にも経験できない世界がそこにある」と話す。

 遊びが役に立ったかという問いに「ほとんど遊びが役に立っていますよね」と断言する。「遊びで得た経験値が、ビジネスでも投資などの一手を打つときに生きる。まじめな中小企業の社長さんは365日24時間勤務で、会社のことが一切離れない。つらい思いをして、下手をすると個人資産もつぎ込んで、借金まで背負う。そんな思いをせずに、少し遊んだ方が精神的にも前を向いていけると思うんです」と語る。

◇遊びからつかんだチャンス

 谷田会長は実際に遊びの中から新たなビジネスチャンスをつかんだ。不動産業を営む遊び仲間が持ってきた不動産の物件情報を買う気もなく、社長室に放置しておいたところ、取引先銀行の支店長が偶然それを見つけて尋ねられ、何気なしに「買おうと思うんです」と答えたという。支店長はそれを預かりすぐに全額融資すると購入を進めてきたという。その投資が成功し、中部圏で知られるようになり、不動産投資の情報が次々と入るようになった。「全く買う気がなかったのに、その一言が言えるか。遊びでの経験が生きたと思います」と語る。

創立50年を超える宝輪


 不動産をはじめ運送業以外への展開も進めながら、“週一出社”の生活を約15年続けていたが、45歳の時に別の会社の経営に取り組むため、しばらく仕事に専念。5~6年がたち、事業が波に乗り、「社長業はこれぐらいがピーク」と引退を決意。数年の準備を経て、二女で現在の蕪竹理江社長が28歳のときに会長に退いた。「社長は10年以内でどんどん代えていくべき。役職に長年いた人か表彰されるような制度はよくない。社長が長年とどまるということは成長もとどまる」と断言。「20代後半で社長になるのと、50代後半で社長になるのと同じ経験をすると、同じ経験でも50代後半にはすごく重い。20代なら、マイナス面もあるかもしれないが乗り越えやすい。自分を振り返って、もし今からどこかの会社の社長をやれといわれたら、お断りします」と話す。

◇伝えたい思い

 そうした経験から生み出した経営哲学が「対極のルール」だ。「ビジネスは、お金が入ってこないと駄目。すると、お金を出さなかったら入ってこないんです。単純なルールで。それがなかなか身にしみて分かるまで時間がかかる。入ってくるお金をなるべく自分の所に止めたい。利益率を上げたいと皆思ってるんですけど、お金は止めたら回らなくなる。この単純なルールを皆が分かれば、ケチな社長がいなくなり、経済も回る」と言い切る。「この世には上があれば下があり、右があれば左がある。北には南、東には西、男が居れば女が居ります。人の営みに関しても同じ、誕生があり死がある、幸せがあれば不幸もある。どちらか一方を欲していては成り立たない。敢えて不幸を経験することで幸せを感じる事が出来る。ビジネスにおいては利益を求めてばかりでは成り立たない、お金が入ること、出ていくことが対極になるため、使えば使うほど入ってくる」といい、このルールを経営者に明確に伝えたいと思い、『対極のルール』という言葉を作ったという。「誠実に真面目にやるだけでは経営者はだめ、内部留保をするだけでは必ず問題が出てくる。これを回すように国のルールも変えていくべきだと思う」と提言する。
 独自の経験から独自の経営哲学を生み出した谷田会長の金言。コロナ禍による大きく変化しようとしているいま、刺さるものがあるだろう。

自慢のクルーザー「ハトラス68」


◆私のビジネスアイテム

谷田会長こだわりのビジネスアイテムはクルーザーの「ハトラス68」。米国では3本の指に入るといわれる豪華クルーザーだ。全長24メートルと1級小型船舶免許で乗れるものではと1級船舶免許で乗れるものでは最大級という。「完成された船で、釣りもしますし。海にいると別世界なのでいろんなことも忘れられる。一番休まる場所で、これがなかったら耐えられなかったんじゃないかと思うぐらいです」と語る。

◆プロフィール

1954年三重県津市出身、1972年株式会社宝輪に入社し、1982年に代表取締役社長に就任。事業を拡大する一 方で運送市場の広がりに限界を感じ、不動産投資や自動車販売リースなど幅広く事業を展開。55歳で事業承継を完了。 著書に『社長が遊べば、会社は儲かる』(幻冬舎メディアコンサルティング)