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<エコノミストTV>アプリで不動産改革 “人物主義”で効率化 トリビュート田中稔眞代表取締役
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注目のビジネスの裏側や気鋭の経営者の思いを探るインターネット番組「エコノミストTV」。今回は、新型コロナショックによる先行き不透明な不動産業界で、自ら開発したスマートフォンアプリ「TRG(トラジ)」を駆使して、まだまだアナログな営業シーンからの脱却を図るトリビュートの田中稔眞代表取締役(39)に、日本の不動産業界の未来を聞いた。
猪狩淳一(毎日ブランドスタジオ・プロデューサー/記者)
■活況からトーンダウンの懸念
オリンピック需要などで活況を呈している不動産業は、2019年9月に不動産流通推進センターが公表した「不動産業統計集」によると、2017年の市場規模は前年比1%増の43兆4000億円で、リーマン・ショック以降右肩上がりで伸びてきた。法人数も同様で、2017年は32万8553社で、1998年の25万7052社から増え続けてきた。
だが、今回の新型コロナウイルス感染症の流行で世界経済が減速。帝国データバンクが3月6日に発表した「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」によると、「マイナスの影響がある」と答えたのは全体の63・4%、不動産業では55・2%だった。元々、東京オリンピック・パラリンピック後のトーンダウンや少子高齢化に伴う生産人口の減少による供給過剰などで業界としても市場の減速が懸念されており、営業の効率化が急務とされていた。
そんな中、不動産営業の効率化を目指したスマートフォンアプリ「TRG(トラジ)」が開発された。トラジは、不動産の営業担当者が、どんな物件を得意としているかなどのプロフィルを登録して、営業マン同士のマッチングを行い、チャットによるアポイントや情報交換ができる。さらに未公開の物件情報や購入ニーズを登録して、物件をマッチング。紙の資料を撮影し、AI|OCR(人工知能による文字認識)機能で書類をデジタル化する機能も搭載している。
■「アナログすぎる」営業手法
「トリビュート」の田中氏は、トラジを開発した理由にアナログな営業手法を挙げる。「不動産の営業は人対人で、水面下の情報とか貴重な情報はインターネットに載っていないので、人に会うしかない。そのため、飛び込みの営業とか、電話でのアポ取り、そして毎日のように夜会食してコミュニケーションを深めていく。どれも間違いではないんですが、あまりにもアナログすぎる」と語る。
「飛び込み営業は相手の時間を確認せず、いきなり行くので邪険に扱われることが多くて、精神的に折れちゃう。アプリではそれぞれの強みを載せているので、自分の強みと合った人、自分の強みを求めている人にアプローチができる。経験上100件飛び込んでも、名刺交換をしてくれるところが10件もない。さらにそこから面談まで行けるのは1、2件もない。アプリの場合は、チャットで情報交換し、次会うときはお互いのニーズがある程度合致した状態で会えますから、かなりの効果が見込めます」と胸を張る。トラジの利用は現在無料だが、ユーザーが1万人を超えたところで有料化する方針だ。
トラジユーザーであるハウジング・オークラ新宿営業本店第一事業部リーダーの吉永翔吾さんは「不動産営業は、外に出て『足で稼ぐ』というスタイルが主流でしたが、トラジを使用することで直接営業担当者に連絡が取ってその後にアポイントを切って訪問をするという形の方が、突然飛び込みをして訪問をするというやり方よりも、非常に効率的に接触できる」と評価する。

若い社員が中心のトリビュートの社内
福岡県出身の田中氏は、豊臣秀吉に仕え、岡崎城主として道路網を城下に整備したほか、近江八幡や柳川(福岡県)で水郷を構築するなど「土木の神様」と異名を取った戦国武将・田中吉政を祖に持つといい、「子供の頃から祖父や父から話を聞いていて、街づくりなどの仕事をしたいと思っていた」と大学卒業後、大手不動産会社に就職した。
入社後は、福岡で当時進められていた不動産証券化の書類作成などを担当。「不動産は金融商品だということ学び、いまでも役に立っている」というが、入社6年目にサブプライムローンの崩壊からリーマン・ショックが起きた。「本当にもう一日で手のひらを返したように、一気に潮が引いていくイメージで、不動産の面白い部分と、怖い部分があることを学びました」といい、「東京に来るなら継続雇用だと言われたんですが、自分でやるしかない」と起業を決意したという。
どん底から不動産市場の復活とともに、徐々に業績を上げていく中で、田中氏は「人口が増えるフェーズでは、どこでも住宅を建てれば人が入って、高値で売れた。人口が減少すると、今までのやり方ではダメ。ほとんどの物件が、他にもたくさん競合があるような物件だけど、売れる人売れない人が出る。不動産を買う人も売る人もやっぱり人。そこに介在する不動産業者もやはり人なので、物件主義から人物主義に転換する必要がある」と感じた。そこで、「業界内で信用できる人できない人っていうのが抽象的に表現されているものを見える化したい」と個人に紐付いているスマートフォンのアプリの開発に取り組み、アプリ名は「Trust bridge(信頼の架け橋)の頭文字を取ってTRG」と名付けた。

トラジの画面
年内の登録者数は1万人を目標に掲げる。コロナショックの中、不透明な時代だが、「経済は波だと思っているので、上がり続けることはないし、下がり続けることもない。ここで何か革命が起きると思っています。リモートワークなど人と対面しなくてもある程度のことができる。一気にテクノロジーが進化するんじゃないか。対面活動を減らすということで、トラジにとっては追い風だと思います」という。
さらに、リスクヘッジの一環として、「人口が増えるところで不動産業をやりたい」と5月には家族とマレーシアに移住し、拠点を構える予定だ。「アジア全体で約44億人の人口がいる。そこに対して不動産でアプローチをしていく。アジア全体から日本への投資を集めたい。それはトラジの中でやるような計画でいます」と将来を見据える。
リーマン・ショックのどん底で起業し、新たな発想で危機に立ち向かう若き改革者の今後に注目したい。

田中社長が愛用するノート
田中氏がこだわるのは大学ノートだ。「キャンパスノート」(コクヨ)の英語罫を愛用している。田中氏は「何でもいいから、メモをしていく。就職した頃から、とにかくわからないことはメモを取って、後で調べることが習慣になっています」と語る。月に2冊、ボロボロになるまで毎日持ち歩く。「書くことでアイデアがわいてくる」という田中氏。新発想を生むこだわりのアイテムだ。
◆プロフィル
たなか としまさ 1980年、福岡市出身。2003年、大手不動産会社に入社。福岡支店長などを務め、 2009年、 リーマン・ショックを機に独立。 「奉仕、感謝」の意を込めて社名をトリビュートとする。2016年、 東京支社を開設。2020年に マレーシアを拠点に東南アジアの不動産開拓に乗り出す予定。