2022.12.22
連載企画「総合診療かかりつけ医」が患者を救う
第5回 医学生時から「総合診療」を目指せる仕組みを

私は30代で総合診療医として開業しました。 4年続けてみて、自分としてはベストのタイミングで開業できたと思っています。というのも、50代、60代になってから、それまでの環境とがらっと変えて、いつでも、なんでも診る総合診療医として新たなキャリアを積むのは、やはり体力面でなかなか厳しいと感じるからです。とはいえ、20代では幅広くさまざまな診療科のことを学ぶという経験が足りません。医学部卒業後10年程度研鑽を積み、開業準備をして、となると30代後半~40代前半が開業に適した年代なのです。
ただし、医学部に、総合診療かかりつけ医になるためのカリキュラムができたとしたら、もっと早い開業が可能になるかもしれません。総合診療医養成センターができたとはいえ、一部の地域に限られており、体制は十分とはいえません。また、現時点では開業のサポートまでを網羅する組織にはなっていません。すべての医大で、 実習時から希望者は総合診療かかりつけ医のもとで研修を受けられるようにし、総合診療がいかに地域医療にとって重要か、やりがいのあるものかを伝える機会が増えたらと思っています。同時に、開業までのキャリアパスをつくり、我こそはと思う医学生には、それに則って開業のサポートまで、ある程度国や自治体の援助を得ながら行える、といった仕組みができれば良いのです。アイデアレベルではありますが、自分の経験を基に、 総合診療かかりつけ医を育成するために必要なことと習得ステップを考えてみました。
〈内科も外科もできる総合診療かかりつけ医に必要なこと〉
1. 生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常など)の診断、治療ができる
2. 呼吸器疾患(気管支喘息、肺気腫、肺炎)の診断、治療ができる
3. 心臓病(心筋梗塞、不整脈、心不全)の診断、治療ができる
4. 内科救急、外科救急(頭痛、胸痛、腹痛、背部痛)の診断、治療ができる
5. マイナーな診療科の救急(眼科、耳鼻科、皮膚科)の診断、治療ができる
6. 心療内科、精神科のメジャーな疾患(うつ病、不眠症、適応障害など)の診断、治療ができる
7. 整形外科(首、肩、腰、膝の痛み、骨折、骨粗鬆症)の診断、治療ができる
8. 認知症の診断、治療ができる
9. 傷の縫合ができる
10.感染症の診断、治療ができる
11.レントゲン、CT、MRIの読影ができる
12. 主な薬剤を処方することができる
13.患者の目線にたって、診療できる
14.患者に優しくできる
15.「いつでも、なんでも、誰でも、まず診る」という気持ちをもっている
特に、13、14、15が、いちばん大事です。

〈習得ステップ〉
1年目
内科(特に循環器、呼吸器、消化器)
2年目
外科、整形外科、麻酔科
外科ではたくさんの画像診断を勉強し、手術が必要かどうかの見極めができる
ようにする。
3年目~5年目
救急科(特に1次~2次救急)。および精神科、放射線科のプライマリ・ケアを中心に勉強。
6年目
内科外来・検査(自分が好きな科、小児科・外来)
7年目
内科外来・検査(自分が好きな科)
8年目~10年目
全国の総合診療クリニック(国が指定する) 数カ所で研修しながら、
開業準備。医師複数名で開業するのもよい。
11年目
地元で開業
以上は、私が実際に総合診療クリニックを開業してみて、あらためてそれまでの経緯を振り返ったときに、必要だと思ったことです。 私自身は、総合病院の救急センターや総合診療科で臨床経験を積み勉強しましたが、将来的に、総合診療かかりつけ医が全国に増え、育成の仕組みや制度が整ったなら、国が全国の総合診療クリニックから研修先を指定し、そこで研鑽を積めるようになれば良いと考えます。そして、これらの研鑽を積むなかで、
・患者の目線になれるかどうか
・患者にとことん優しくできるか
・患者を突き放さないで、患者が納得できる形で治療できるか
と常に自分に問いかけ、実行できるマインドを育てるのも大切なことはいうまでもありません。また、ご承知のとおり開業にはまとまった資金が必要です。その貸付も、総合診療かかりつけ医として開業する場合は好条件で受けられる、というようなことになったとしたら、開業のハードルはかなり低くできます。 資金力が心もとない若手医師も開業しやすくなると思われます。

これらは私の個人的な構想であり青写真で、 世の中そう都合よくいかない、と一蹴する人もいるかもしれません。でも、これからの日本の医療にとって、かかりつけ医がキーになることは国も認めており、そのかかりつけ医がきちんと住民のためになるよう機能するには、専門だけにこだわらず広く診られることやいつでも受け入れられることが望ましいのは明らかです。 それを実現させるためにどうしたらいいか、アイデアレベルであっても声を上げていくことは決して無駄なことではない、と強く信じています。
「人生は見たり、聞いたり、試したり。3つの知恵でまとまっているが、多くの人は見たり聞いたりばかりで、一番重要な試したりをほとんどしない」。これは本田技研工業創業者 本田宗一郎氏の言葉です。 見たり聞いたりして勉強するのはもちろんいいことなのですが、そればかりでは前に進みません。早々に行動して試す、この機運が日本の医療改革にも高まればと思います。ましてや、超高齢社会、 少子化の流れは待ったなしの状況です。今が、とりかかる好機なのです。
医療法人ONE きくち総合診療クリニック
理事長
菊池大和
2004年3月福島県立医科大学医学部卒業、4月浜松医科大学医学部附属病院 初期研修医、2005年5月袋井市民病院 外科 研修医、2006年4月磐田市立総合病院 外科 後期研修医、2008年4月国立がんセンター東病院 呼吸器外科 レジデント、2009年9月湘南東部総合病院 外科 外科科長 救急センター長/湘南地区メディカルコントロール協議会登録指示医、2016年4月座間総合病院 総合診療科、2017年きくち総合診療クリニック開業 書籍「総合診療かかりつけ医」が患者を救う