2022.10.26

連載企画「総合診療かかりつけ医」が患者を救う 

第4回 総合診療かかりつけ医を自治体公認の施設に

かかりつけ医という言葉自体は昔からあり、目新しさに欠けるとは私も思います。 しかし、私が考えているかかりつけ医のイメージは、ほとんどの方が抱いているイメージよりずっと「重い」のです。 赤ちゃんから高齢の方まで誰でも、どんな症状でも診る、しかも最初に、となれば命を預かるも同然です。急病でも、大怪我を負うようなアクシデントでも、「ほかへ行って」などとは言いません。自分のところで治療が完結するのか、別の高度な医療が行える施設に送るほうが良いのか、自分の判断次第でその方の予後が決まるのですから責任重大です。

裏を返せば、地域住民の健康を最前線で守る立場です。その重要性を国なり自治体なりに認めてもらいたい、という気持ちはあります。 市町村に最低一つ、自治体認定の総合診療かかりつけクリニックができたらいいなと思っています。 住民数の多いところであればもっと多くても良いと思います。 今ある当番医のように、なにかあったらここを受けましょうと住民に広く告知してもらいたいのです。

誤解してほしくないのは、すべてのかかりつけ医を公的な機関にするべき、といっているのではありません。 公的にすると診療報酬などに国の“縛り”がかかる可能性があり、患者、医療機関の双方にとって自由度が低くなると予想されます。 もっとも、このあたりは十分、議論の余地があるとは思いますが、住民一人ひとりと医療機関を公的に紐づけるべきとまでは私は考えていません。 それでは日本に根付いているフリーアクセスを根本から変えることにもなり、混乱は必至です。

まずは国や自治体が認める医療機関である、といった“お墨付き”があればいいのです。それで住民の方にも周知され、利用が進めばいいと思っています。日本は現状フリーアクセスなので、専門性の高い医療機関に行くか、総合診療かかりつけ医に行くかはあくまで患者の意思によります。市町村認定の総合診療かかりつけ医を設置し、なにかあればここを受診するよう案内してほしいという私の考えも強制はできません。ただ、その総合診療かかりつけクリニックが本当に地域のみなさんのことを思い、精度の高い検査に確実な診断、治療ができるのであれば、みなはそこを選ぶはずです。 それと同じように、 診療科別のクリニックでもクオリティの高い医療を提供すればいい話です。医療機関同士切磋琢磨し、地域医療が充実するのであれば住民のみなさんにとってこれほど良いことはありません。

そして、総合診療クリニックで働く医師やスタッフにとっても、国や自治体のお墨付きが得られれば、モチベーションが保たれますし、住民へ周知され利用が進めば経営への不安も軽減します。 これなら開業したい、という医師も増えるはずです。また、国や自治体が認定する総合診療クリニックがあれば、有事のときにも存在感を発揮し地域医療に貢献できるものと考えます。想像したくありませんが、例えば今回の新型コロナウイルスのように、感染力が強く、致死率も高いウイルスが今後も流行しないとは断言できません。また、大災害が起こる可能性も否定はできません。

有事の際は、地域ごとに「入り口」を設けることが大事であると、私たちは今回のコロナ禍で学んだはずです。そのようなときに、地域に一つ、国や自治体が認めた総合診療かかりつけクリニックがあれば、国が、人材も物資も場所も支援をし、感染治療、災害治療の入り口をつくることも可能になります。まず、市民が駆け込む場所、問い合わせするところを総合診療クリニックに集約し、そこから、重症な方は総合病院に転院します。一方、軽症の方は自宅で療養をし、適宜医師、看護師、保健師とやりとりできるようにする、といったように、です。有事の際は、国の支援のもと、総合診療クリニックの院長が指揮をとり、人材、物資、場所の拡張などを行う。そして平時に戻ったら、通常の診療に戻す。こうした柔軟性が、大事だと考えます。

医療法人ONE きくち総合診療クリニック

理事長

2004年3月福島県立医科大学医学部卒業、4月浜松医科大学医学部附属病院 初期研修医、2005年5月袋井市民病院 外科 研修医、2006年4月磐田市立総合病院 外科 後期研修医、2008年4月国立がんセンター東病院 呼吸器外科 レジデント、2009年9月湘南東部総合病院 外科 外科科長 救急センター長/湘南地区メディカルコントロール協議会登録指示医、2016年4月座間総合病院 総合診療科、2017年きくち総合診療クリニック開業。  書籍「総合診療かかりつけ医」が患者を救う