2022.07.28

連載企画「総合診療かかりつけ医」が患者を救う 

第2回 大病院には増えつつある総合診療科

総合診療を行う医療機関を増やすことが、今後の日本の医療にとって重要になってくることは、国も認めています。 厚生労働省が2015年に発表した「保健医療2035提言書」のなかに、「総合的な診療を行うことができるかかりつけ医のさらなる育成が必須であり、今後10年間程度ですべての地域でこうした総合診療を行う医師を配置する体制を構築する」という文言があります。

そして総合診療医は、すべての病気について、深く広い知識をもち、生活習慣病や認知症などの慢性期疾患や、 突然のけがや病気などの急性期疾患も、総合的に診療する医師のことを指す、としています。今、地域住民の方々の、相談医、家庭医、総合診療医、救急医として、総合的に診療を行う、かかりつけ医を増やすことは国からも求められているのです。
2018年には専門医制度が改訂され、総合診療が内科や外科などの19の基本領域の一つに位置付けられ、「専門医」化しています。

さらに、2020年、厚生労働省は超高齢社会の地域医療の要となる 「総合診療医」を増やそうと、一部の国公立大学内に総合診療医を養成する「総合診療医センター」を設置するとしました。学内に医学部生向けの養成講座を設けるほか、卒業後も臨床研修や就職などをサポートし、総合診療医としてキャリアを積んでいけるよう支援する場と定めているようです。しかし、私が見る限り、これらの施策で増えるのは、大病院のなかの一診療科としての総合診療科であり、そのなかで働く総合診療医を育成しようとしています。実際に昨今、都道府県立の総合病院のなかに総合診療科が開設される動きが目立っています。

総合病院がかかりつけになっていて、同じ病院内の複数の診療科をはしご受診している人は、「じゃあ自分が通っている病院に総合診療科ができたら、そこを受けるようにしたらいいのか」と思うかもしれません。しかし、そうではありません。 私が重要と考えているのは「総合病院のなかにある一診療科としての総合診療科」ではなく、あくまで町のお医者さん、開業医の「総合診療科」なのです。

というのも、「総合病院のなかにある総合診療科」は「専門の診療科を受診しても原因が分からなかった患者」を受け入れる診療科としての性格が強いからです。つまり、やはりまず専門の診療科を受ける、というところはなんら変わっていません。また、総合病院内の各診療科はあくまでもその病院全体の経営方針のもとで動きますから、例えば診療日や診療時間も病院内のルールによって決められています。 紹介状がないと受けられなかったり別途料金がかかったりすることもあります。 そうなると、私が理想とする「困ったときにいつでも」 受診できる、というわけにはいかなくなってしまいます。

先の厚生労働省の取り組みも、確かに、総合診療の重要性に目が向けられ、育成の場がつくられつつあること自体は喜ばしいことです。しかし、そこで学んだ医学生が総合診療医の開業医を目指せる状況にあるのかどうかは、総合診療医センターも発足したばかりなので、今のところは未知数です。 彼らのほとんどは総合病院に「就職」し、病院内での総合診療医として、キャリアを終えてしまうのではないかと予想されます。

今、本当に必要なのは、「開業医で総合診療を行うクリニック」、すなわち「総合診療かかりつけ医」なのです。

医療法人ONE きくち総合診療クリニック

理事長

2004年3月福島県立医科大学医学部卒業、4月浜松医科大学医学部附属病院 初期研修医、2005年5月袋井市民病院 外科 研修医、2006年4月磐田市立総合病院 外科 後期研修医、2008年4月国立がんセンター東病院 呼吸器外科 レジデント、2009年9月湘南東部総合病院 外科 外科科長 救急センター長/湘南地区メディカルコントロール協議会登録指示医、2016年4月座間総合病院 総合診療科、2017年きくち総合診療クリニック開業 書籍「総合診療かかりつけ医」が患者を救う