2022.05.02

自由に、しなやかに、私らしく。高岡早紀

今年でデビュー35周年を迎える高岡早紀さん。昨年2021年には、映画「リカ~自称28歳の純愛モンスター~」で主演を務め、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」にも出演。初のエッセイ本「魔性ですか?」を出版されるなど、多方面に渡り活躍中だ。そんな彼女の女優観、そして人生観に迫る中で見えてきたもの、それは自分の心に正直に生きる、等身大の女性の姿だった。

高岡早紀

―今年でデビュー35周年を迎え、女優として第一線でご活躍され続けている高岡さんですが、高岡さんにとって「演じる」というお仕事には、どんな魅力があるのでしょうか。

もう30年以上、女優という仕事をしてきて、人生のうちの多くの時間を捧げてきたわけですから、私にとって「演じる」ことは特別なことではなく、人生や生活の一部だと思っています。一緒に人生を歩んでいるといった感覚です。女優という仕事では、役を通して「高岡早紀」の人格とは、別の人格になれる。

それが面白いところでもあります。演じている最中は自分の人生ではなく、他者の人生を生きているので、一種の現実逃避になるんです。ある意味自由でいられたり、楽でいられたり。もちろん女優として、作品への責任は取りますけどね。

―女優人生の中で一番印象に残っている出来事について教えてください。

深作監督の映画「忠臣蔵外伝 四谷怪談」で、ヒロイン役を演じさせていただいたときのことです。想像の何倍も過酷な現場で、本当に辛くて辛くて。毎日泣きながら「この映画を撮り終えたら絶対に女優なんか辞めてやる!」、本気でそう思っていました(笑)ですが、全てのシーンを撮り終えたあとに深作監督から「女優って楽しいだろう?」と言われたんです。そんな言葉を掛けられると思っていなかったので凄く驚きましたね。

結果、「忠臣蔵外伝 四谷怪談」で多くの賞をいただくこととなり、あんなに辞めようと思っていた女優業を続けようと決意しました。深作監督との出会い、そしてその言葉があったからこそ、女優・高岡早紀がいるのかもしれません。

―運命的な出来事だったのですね。

なんでもなかった一人の少女が、アイドルから女優になり、大人になった今でもその仕事を続けられているのって本当に不思議なことですよね。きっとそれは、深作監督をはじめとし、私のことを支えてくださった方々との出会いや、運命的な何かのおかげだと思うんです。それに比べると、自分の努力なんて本当にちっぽけなものですよ。人との縁や運が、私をここまで運んでくれたとしかいいようがありません。

そう考えると人生って本当に面白い。今はもう後半にさしかかっているような気もしますが、人生100年時代と考えると、まだまだ半分しか終わっていません。これからも、ますます面白い人生にしていかなくっちゃと考えています。

―20代から30代、40代と役者人生を過ごしていく中で、どのような心境の変化がありましたか?

10代~20代の頃は、とにかく与えられた仕事をこなすことで精一杯。自分が「アイドル」なのか「歌手」なのか、または「女優」なのか、一体何者なのかと模索していた時期もありました。それから結婚・出産を経験。30代では離婚を選択し、これからますます仕事を頑張っていかなきゃという時期に。そして気付けば40代。

いつのまにかベテランと言われる年齢になりましたが、さまざまな仕事経験を積むにつれて、人生の自由度も増してきたと感じています。昔は自分の「あるべき姿」を必死で追っていた時期もありましたが、いい意味でそんなことはすっかり忘れ、「進む道はひとつに絞らなくていんだ」って思えるようになったんです。前向きな意味で、今は「自由にどうにでもなっていきたい」。自分の気持ちに素直でいつづけたいと思っています。

―女優として第一線でご活躍される中、昨年9月には「私の彼氏は200歳」のカバー曲をリリースされるなど、音楽活動も活発に行われている印象です。歌うことは楽しいですか?

すごく楽しいですね。ドラマや映画は、他の俳優さんたちと創り上げていくものであって、私一人で完成させることはできません。もちろん歌手活動も、バンドメンバーさんたちの協力があってこそできることではありますが、「高岡早紀」の看板でやっているので、それこそまさに「自由」。音楽を通じて自己表現できる楽しさには、女優として演じる楽しさとは、また一味違った魅力があります。

作曲してくださる方やレコード制作をしてくださる方、ライブを見に来てくださるファンの方、みなさんが高岡早紀に期待してくださっているので、必要とされる限り歌手活動を続け、恩返しをしていけたらなと思っています。

高岡早紀

「女優」という肩書きではなく、「自分の人生」にこだわりたい。

―人生のテーマは、まさに「自由」そのものなんですね。

とにかく楽しいことや興味の湧くことをたくさんして、豊かな人生を歩みたいんです。そのためには、まだまだ経験不足な部分もありますので、その時々でやれることを積み重ねていきながら、人生に深みを増していきたいですね。「楽しいことをやる、つまらないことはやらない」。シンプルだけど、豊かに生きていく上でとても大事なこと。女優や歌手という肩書きに囚われるのではなく、「楽しい」というピースをどんどん増やして、自分の人生そのものにこだわって生きていきたいです。

―新型コロナウイルスの流行から約2年が経ち、社会的にも大きな変化を迎えている時代でもあります。最後に読者の方へ向けて、エールになるようなメッセージをいただけないでしょうか。

現在はコロナの影響もあり、気軽に外へ出れず、窮屈な時代になってしまったかもしれません。ですが、ただこの状況を悲観するのではなく「ひとつの時代の流れ」と捉え、上手に活用することで、もっと人生は楽しくなるのではないでしょうか。例えば、テレワークになったことで時間に余裕ができれば、今までチャレンジしてこなかった趣味や習い事も始められますし、家族との会話時間も増やすことができます。私自身は、これまで手を出してこなかったお菓子作りを始めました。

予期しない出来事や時代の変化は、いつでも起こりうること。その時代なりに楽しく過ごせる方法を模索し、しなやかに生きることで、より豊かな人生になるはずです。

転載元:Qualitas(クオリタス)

女優

神奈川県藤沢市生まれ。7歳よりクラシック・バレエを開始。モデル活動を経て14歳のとき、「第3回シンデレラ・コンテスト」で4,600人の中から優勝し芸能界入り。1994年、『忠臣蔵外伝 四谷怪談』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。その圧倒的存在感と多彩な表現力で数々の舞台や映画、ドラマにも意欲的に取り組み、女優としての評価を確立している。