2022.12.12

動物と共存する関係を再構築する。 滝川クリステル

コロナ禍で途絶えてしまった人と人との触れ合い。その回復に向けて、少しずつ世の中もリスタートしていく中、人間の癒しとなり、温もりを与え続けてきた動物たちがいま危機にさらされている。そんな中、長年動物愛護に尽力し、「動物を支配するのではなく共存する関係を再構築していきたい」と説く滝川クリステルさん。コロナ禍におけるペットの苦境、人間と動物の本来あるべき関係など、さまざまな観点からリスタートしていくためのヒントを探ってみた。

――――コロナ禍が人間と動物の関係に与えた影響はあるのでしょうか。

コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えた中、安易に動物を飼う人が増えてきたように感じます。動物の遺棄が増えている現実もその一つではないでしょうか。通勤・通学が再開されると動物をずっと家に置いておくことになりますよね?散歩にもなかなか行けなくなり、動物はストレスや寂しさで家の中であちこちに用を足したり、家の物を壊したりするようになる。すると飼い主によっては「こんなはずじゃなかった」と嫌になって捨ててしまう人もいるのです。本来ならば動物を飼う前に、その子と今後ずっと向き合えるかまで考えなければなりませんし、動物のために自分のライフスタイルを合わせることが動物を飼う人間の責任だと私は思っています。

――――滝川さんは動物保護のために長年活動に取り組まれてきましたね。

「アニマルウェルフェア」に則った犬猫の殺処分ゼロと、生態系の頂点にいる絶滅の危機に瀕した野生動物を救うことで生態系を守るため、2014年に一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルを設立しました。財団を立ち上げる前から個人的にも活動をしていたので、取り組みを始めてから15年になります。この間に殺処分数も減ってきて、動物を保護しようとする意識も高まってきた矢先にコロナ禍となり、ペットを飼う人が増えた一方で動物の遺棄を含めた虐待の話を耳にする機会も増えてしまいました。「これまで伝えてきたことは何だったのだろう」と、正直もどかしく、無力感も感じています。

――――最近耳にすることもある「アニマルウェルフェア」という言葉、どういう意味なのか、改めてお聞かせいただけますでしょうか?

人間だと痛みやストレスを言葉にして表現できるため、回復に向かって進んでいけるのですが、動物はそれが難しく、私たち人間がケアを行う必要があります。動物も人間と同じように痛みやストレスを感じる生き物であり、彼らにとってのQOL(Quality of Life:生活の質)とは何かということをもっと考えていこうという意味を持っています。
動物がストレスや痛みのない毎日を過ごしてもらえるよう努めることは、一緒に暮らす人間にとって当たり前のこと。日本ではここ最近になってやっと問題意識が芽生えてきた時期にきたように思います。

――――日本ではなぜ「動物との共存」や「アニマルウェルフェア」の考えが遅れてしまっているのでしょうか。

教育が原因の1つではないかと考えています。国によっては、人間も動物と同じく生態系を為す一部であると子供たちに教えられていますが、日本の教育は生態系ピラミッドの外に私たちが存在するように教えられていて、人間だけが違う存在だと捉えられてしまっているように思います。そういった教育によって、日本では、動物との共存とは逆に、無意識のうちに動物を支配することに捕らわれてきたように思います。しかし、今はSNSで色々な国の情報が入って来るので、若い人を中心に考え方が変わり、理解が広がってきています。

「Panel for Life(命のパネル」 一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルが立ち上げた等身大の犬猫のパネルを通して、より多くの方に保護犬・保護猫の存在を広め、新しい家族に迎え入れる機会を提案するプロジェクト。

――――財団の取り組みについて教えてください。

例を挙げますと、動物保護団体から犬猫を一時的に預かり、引き取り希望者へと繋ぐフォスター(一時預かり)と呼ばれるボランティアの育成や、等身大の犬猫パネルに付いたQRコードから保護犬猫情報の閲覧サイトへアクセスでき、引き取りの機会を促進する「Panel for Life」という活動等に取り組んでいます。また、保護犬猫の医療費補助を行う「保護犬猫支援基金」において、保護犬猫がより良い医療を受けることで彼らのアニマルウェルフェア向上を目指す取り組みを行っています。さらには2021年の6月に「Animal SOSプロジェクト」を立ち上げ、動物虐待防止のための啓発活動等を行っています。今までは通報するにも連絡先が分からず、窓口にたどり着くのに時間がかかるという問題がありましたので、Yahoo!検索で「動物虐待+市町村名」と検索すると、最寄りの自治体の通報先が分かる仕組みづくりを行いました。

子供達に対しては、動物も人間と同じく感情があって、嫌みや苦しみを感じる同じ命であることを知ってもらうためにアニメーションや絵本を作っています。絵本は全国の児童館や小学校等に無料で配布をしており、まだ応募を頂ければ配布することができるので、ぜひご連絡いただきたいですね。

絵本「きみには、きこえる?」 動物虐待をのない世界を願って。滝川クリステルさんが思いを込めて制作した絵本。原案・文・発行者:滝川クリステル 絵:古川タク

――――動物虐待はなかなか他人から指摘しにくいかなと思いますので、通報窓口があるのはいいですね。

飼い主も、まさか自分が虐待をしていると思っていないケースもあるのです。暴力を振るったり、エサやお水を十分に与えなかったりというだけではなく、外飼いで暑い中そのままにしておくこと、犬種にあった適切な頻度で散歩をさせずリードでずっとつなぎっぱなしにしていたり長時間家の中に閉じ込めたりすることも虐待となる可能性があることに気付いてほしいです。

そもそも飼い主が動物について教えてもらえる場所が少なすぎるという問題があります。ペットショップやブリーダーの売りたい気持ちが大きい場合には、良い事ばかりが話され、デメリットはなかなか聞けません。モノを買うのではなく、命を買うので、しっかりとした説明がなされなければなりません。対して、きちんとしたブリーダー等からペットを迎えると、性格や性質、育てやすいか育てにくいか、医療費がどのくらいかかるかなど細かく説明をしてくれます。さらには先にも話しましたフォスターから動物を引き取ると、その子を世話して見てきたがゆえに事細かく情報を得られるというメリットもあります。さらに家族として迎え入れる前に先住犬や先住猫となじめるかなどの環境を見るトライアルという制度を設けている保護団体を選ぶと、飼い始めたときのミスマッチが出にくくなると思います。飼いたい側が積極的に情報を得て、人間と動物、相互にハッピーに生きられる道を見つける必要があります。

――――滝川さんご自身も、福島からワンちゃんを引き取られていますよね。実際暮らされてみていかがでしょうか

ペットを小さい頃から飼うとその子と一からストーリーを作り、家族になっていくと思うのですが、途中から引き取る子に対しては、その子に既にストーリーがあり、そこに私が加わらせてもらうという意識があります。2011年の東日本大震災を機に福島県・浪江町出身のラブラドール・レトリーバーのアリスを引き取り、一緒に暮らしていますが、私はアリスがどのように生きてきたかを、保護団体を通して聞くことができました。そうすると、この子を通して福島という場所が、私にとって特別な場所になります。動物を引き取るということは自分の中に特別なものを増やすことになるのです。アリスが人との縁を繋げてくれて、たくさんの幸福を届けてくれました。

――――今後の展望について教えてください。

コロナウイルスも、動物から人へともたらされたウイルスだとされています。そこからも人間と動物は同じ生態系の中で相互に繋がり合い、影響を与え合っているワンヘルスの関係にあることが分かります。しかし私たちが動物の生きる環境を侵食し続けて彼らの生態系に影響を与えた結果、動物たちも元々持っていた菌を人間に与えて侵食し、人間の行為は結局自分たちに返ってきてしまうのです。私たちが生きる上で常に犠牲にして成り立っているものがたくさんあり、そこに対して目を向けて、もっと知ろうとする気持ちを持ってもらえれば、動物と人間が良い関係を築けて今よりも健全な世の中になっていくと信じています。その意識がより浸透するようにこれからも努めていきます。

転載元:Qualitas(クオリタス)

一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル

代表理事

1977年生まれ。フランス出身。青山学院大学文学部仏文学科卒業後、共同テレビジョン入社。フジテレビと専属契約を結び、「ニュースJAPAN」(フジテレビ系)のキャスターを経てフリーに転身。フランス広報大使、WWF(世界自然保護基金)ジャパン顧問、世界の医療団親善大使を歴任。フランス藝術文化勲章(シュヴァリエ) 受章。2013年ブエノスアイレスで開催されたIOC総会にてプレゼンテーションを行い、2020年夏季オリンピックの東京招致に貢献する。2014年、一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルを設立。