2022.11.28

未来を創るヘルスケアイノベーション。

民間金融機関の調査によると、2018年の日本のヘルスケア産業の市場規模は病院・診療所などの医療サービス、医薬品や医療機器などの医療関連産業を合わせ55兆円にのぼる。今後も上昇を続けることが見込まれており、2040年には100兆円に達すると推計されている。この数字には異業種企業からの参入は含まれていない。ただ、国民医療費の推移をみると、増加は継続しているものの、成長率は低く抑えられている。また世界各国においても、人口増や経済発展により医療ニーズは拡大しており、ヘルスケア市場のニーズは同様に高い。

参入が進むヘルスケア市場

一口にヘルスケア市場といっても、対象となるのは病気の治療だけではない。予防や健康増進、ボディメイクやエイジングケアまで、その裾野は実に幅広い。後発企業が参入する余地は十分にあるということだ。国外に目を転じてみても、医療分野のデジタル化も相まって、Amazonによるオンライン薬局の買収、GoogleやAppleのスマートウォッチの発売など、グローバルIT企業もヘルスケアへの参入を開始している最中だ。

メリットとデメリット

厚生労働省では、国内社会の高齢化や医療費、介護費などの増加を背景に次世代ヘルスケア産業の創出を目指している。ヘルスケアビジネスは、こうした国の政策とも方向性が一致しているため、参入がしやすい。また、消費者の健康意識の高まりによるニーズへの対応、SDGsへの貢献性など、参入するメリットも大きい分野と言えるだろう。しかし同時に、「研究開発の必要性」「初期費用をはじめとするランニングコスト」など、リスクも存在することは確かだ。先行企業と同じ土俵で戦うためには、データの蓄積や研究開発が必要不可欠であり、人的にも資金的にも大きな負担となる。また、新たな医療機器の製造・販売には許認可という厚い壁も存在する。ビジネスである以上、リスクとは無縁ではないのだ。

技術の活用、参入分野の選定

ビジネス開始のために必要となるのは、市場ニーズの分析と参入分野の選定だろう。消費者が求めるものや方向性を理解し、価値を提供する領域を決めることだ。エンドユーザーの健康問題解決と事業が提供する価値が合致すれば、市場に受け入れられる確率は自ずと高まる。先行企業が取り組んでおらず、消費者のニーズが高い分野であれば、後発企業でも十分に勝機があるということだ。また、ニーズは時代とともに変化する。例えば、核家族化や高齢者の独居なども見られる現代では、高齢者向けの見守りロボットや見守りサービス、メンタルヘルスの改善をめざした介護ロボットなど、新たなサービスが次々と登場。だだし参入に際しては、ヘルスケア事業に潜むデメリットを理解することも忘れてはならない。

そのほか、技術を活用することで新たなイノベーションを創り出すことも可能だ。近年ではApple Watchに代表されるウェアラブル端末が話題になっているが、フィットネスのための心拍数を計測する時計、というプロダクトは1980年代から存在した。現在ではウェアラブルウオッチとして進化し、脈拍はもとより、体温や血中酸素濃度、移動距離、果てはスマートフォンとのデータ連携など、複数の機能を持つに至っている。これらは全て、技術革新、通信環境の整備など、テクノロジーの進歩によるものだ。

今後も高まる需要

2021年9月時点で、日本の総人口は1憶2522万人。そのうち65歳以上の高齢者が占める割合は29.1%に達している。日本の高齢者人口の割合は世界で最高となっており、その数字は2位イタリアの23.6%を大きく上回る。高齢者は今後も増え続け、2040年には35.3%になると予測されている。日本は世界に類を見ない高齢化社会に突入しつつあるのである。今後もヘルスケア産業の需要が高まるのは間違いないだろう。中小企業であっても、テクノロジーとアイデアでヘルスケアイノベーションを起こし新たな未来を創ることが可能だ。さらに日本での取り組みが、世界で進む高齢化の希望の光となる可能性も十分にある。リスクを把握した上で、ニーズを見定め、これまでにない新たな可能性を創出してもらいたいものだ。