2022.10.10
日本生命、「人肌」と「デジタル」の応用
1889年の創業から130年余り、日本生命保険相互会社はお客様本位の業務運営を行ってきた。2018年、代表取締役社長に就任した清水博氏は、アクチュアリーの資格を持ち、金融の専門家としての視点から、保険業務のデジタル化推進を視野に入れる。就任後、奇しくもコロナ禍での舵取りを余儀なくされた清水氏。100年を超える老舗企業の歴史や対面営業とデジタルの融合をどのように見据えているのだろうか。

対面業務とデジタル技術の融合をめざす
日本生命保険相互会社代表への就任から2年。清水氏が力を入れてきたのは、現場との触れ合いだ。全国の営業社員と語らい、お客様とのやり取りを直接見る。自然災害の際にも、顧客と連絡を取り、相談に乗る営業の姿に「お客様本位」の実践を感じたという。「改めて感じるのが、社内で繰り返し語られる理念『契約者利益の最優先』『お客様本位の業務運営』が、隅々までいきわたっていることです。それこそが、日本生命が守り抜くべき価値だと強く感じました。社長就任後も、その使命感を持ち続けています」。就任後に見舞われたコロナ禍では、これまでの災害に比べ、顧客が受けた影響の大きさを感じた。また、自社の強みであるフェイス・トゥ・フェイスの対面営業への影響も少なくない。コロナとの闘いに終着点が見えない状況で、打開策の一つとして重要視する取り組みがデジタル化の推進だ。
清水氏が就任以来掲げるスローガンは「ノーデジタル・ノーライフ」。2019年には「デジタル5ヵ年計画」を策定し、デジタル化を加速している。「既存業務の発展・業務効率化、ビッグデータ分析による商品開発など既存マーケットへの新しいアプローチ、そしてデジタル戦略による新規ビジネス創出などの方針を掲げています。この流れはますます加速させるべきだと考えているところです」。

「相互扶助の精神」
課題の一つが営業職員チャネルと、デジタルの融合だ。現在、日本生命では営業社員全員がデジタル端末を持ち、AI、ビックデータ分析を活用し活動効率の向上を目指している。しかし、デジタル化の推進で目指すのは人とシステムの置き換えでない。「デジタル化は、人間の本能的欲求である『人に会いたい』『集いたい』という気持ちを高めるものではないでしょうか」と清水氏。デジタル技術とフェイス・トゥ・フェイスの融合の結果、新たなサービスが誕生すると予測する。
代表就任後、現場との触れ合いを重視してきた清水氏。日本生命の原動力について「5万名の営業職員と1200万人のお客さまの『人肌』のコミュニケーション」と分析する。更に、現在推進しているデジタル化の未来については、こう考えている。「人口減少、高齢化の進展、超低金利の継続、先端ITの急速な発展など、日本のみならず世界は構造変動の真っ只中にあります。さらにコロナにより、人々の思想や生活様式が急激に変わる世界で、人と人との生き生きとした関係を新たに築く『人が輝くようなデジタル戦略』が、今後の最大のテーマなのではないでしょうか」。日本生命保険相互会社の企業姿勢の根幹は「相互扶助の精神」だ。そこに「デジタル」というスパイスを加えることで、新たな未来が開ける予感がする。
日本生命保険相互会社
代表取締役社長
清水博
1961年生まれ。徳島県出身。1983年、京都大学理学部卒業後、日本生命保険相互会社に入社。商品開発部長などを経て、2009年に執行役員総合企画部長、2013年に取締役常務執行役員、2016年に取締役専務執行役員(資産運用部門統括、財務企画部担当)を歴任。2018年4月から現職。