2022.12.05
日本マクドナルドの歴史と、その復活劇に学ぶ。
2021年に創業50周年を迎えた日本マクドナルド。国内におよそ3000店を展開する日本最大のハンバーガーチェーンだ。外食産業全体でも上位の売上を誇る同社だが、2014年には取引先の食材偽装が発生。最終的に業績悪化へと追い込まれた。全社一丸となった経営改善やキャンペーンにより、業績はV字回復を果たし、次なる成長をめざしている。創業からこれまでの歩みを振り返るとともに、V字回復の軌跡をリスタートに向かう学びの一つとしたい。

改革に取り組んだ、日本マクドナルドホールディングス代表取締役会長を務めるサラ・カサノバ氏。
日本外食チェーンのトップリーダー
マクドナルドが日本に上陸したのは1971年。第1号店は、東京・銀座三越にオープンした。
「ファストフード」と呼ばれる名前の通り、マクドナルドでは注文から提供までの工程を効率化。メニューのサイズや調理時間を細かくマニュアル化している。調理の自動化も進めており、どの店舗でも同じ味の提供を可能にしているのが特徴だ。1977年には外食産業初のドライブスルーを開始。外食を特別な日の食事から手軽な食事へ、大衆化をすすめる一翼を担った。創業から10年後の1981年には国内店舗が300店に到達。1985年には500店、1993年には1000店、1999年には3000店を数えている。年間売上高も1984年に1,000億円を突破。1991年には外食産業初の年商2,000億円を達成している。日本外食チェーンの先頭グループを走り続けてきたといってもよいだろう。

当初、第一号店は郊外の茅ヶ崎にオープンする意向だったというが、創業者の藤田氏の強い意向により銀座への出店となった。
食の信頼が揺らぐ
2008年頃から4000憶円を超えていた売り上げは少しずつ陰りが見え始め、2012年12月期の決算では3000憶円を割りこんだ。2014年には仕入先外国企業での鶏肉の偽装が発覚。続いて発生した異物の混入とともに、経営に深刻なダメージを与えることとなった。2015年12月の決算では過去最大となる350憶円の赤字となり、全体の売上も1894憶円と、2000憶円を大きく割り込むこととなった。2015年の売り上げ減少は、マクドナルドの食の安全に対する信頼が大きく揺らいだことを示している。

今や日本全国で当たり前となっているドライブスルー。マイカーブームが到来していた1977年頃にはまだ珍しいサービスだったが、日本マクドナルドはこれからの車の普及台数が年々増加していくと見越し、この年に日本初の本格的なドライブスルー店舗「環八高井戸店(東京都)」の出店を決定した。
「コスト・リーダーシップ戦略」
信頼回復のため、改革に取り組んだのはサラ・カサノバ氏。まず手を付けたのは不採算店舗の閉店だ。表参道など都心の一等地の店舗を含め、2015年には150店以上を閉店。マクドナルドが目指したのは「コスト・リーダーシップ戦略」だった。これは競合他社よりも低コストを実現することで競争に勝つ、という考え方。大企業ならではのスケールメリットを生かし、メニューを統一化、食材調達や加工工程の無駄を省くことに注力している。日本のどこに行ってもほぼ同じメニューが食べられる安心感も顧客メリットの一つだ。100円でも購入できるメニューから中価格帯の商品まで、バランスよくラインナップし、季節やキャンペーンなど、必要に応じて特別メニューも用意する。しかし、対策は単にコストカットばかりではない。店舗の閉鎖を断行する一方で、給料を上げる方策を行い、従業員のモチベーションアップを目指すことも怠らなかった。

並ばずに注文ができる専用アプリを展開
原点への回帰もすすめ、V字回復
改革に際しては、原点への回帰もすすめた。マクドナルドの店舗づくりのテーマは"FUN PLACE TO GO(マクドナルドに行けば何か楽しいことがある)“。来店者がただ食事をするだけでなく、楽しい体験をし、他社と共有する、そんな場所を作るのが目的だ。改革では、この「FUN PLACE TO GO」という理念に立ち返っている。+100円でパティが倍になる「夜マック」、日本マクドナルド史上初めて実施した「名前募集キャンペーン」、手軽に食べられる「ちょいマック」など、遊び心をくすぐるような新商品やキャンペーンを行うとともに、TwitterをはじめとしたSNSも活用し、それまでマクドナルドに興味が抱かなかった人々への認知の拡大もめざした。
こうした取り組みの結果、2016年には売り上げが2266憶円へと回復。前期350憶円あった純損失は56憶円の純利益へと転じ、売上減少前の数字を超えている。2017年、2018年も順調に売上げや利益を伸ばし、見事V時回復を果たした。2018年12月期の決算会見でカサノバ氏は、「『回復』から『持続的な成長』へとステージは移った」と述べ、事実上の回復宣言を行っている。創業50年を迎えた2021年12月期の決算では、売上を再び3000憶円の大台にのせ、240憶円の純利益を達成している。

日本マクドナルドのリスタートへのカギを握るのが、「未来型店舗」。
おもてなしの心とともに未来へ
日本マクドナルドのリスタートへのカギを握るのが、「未来型店舗」だ。この取組みは人とテクノロジーの融合により、お客様一人ひとりに寄り添った快適なサービスの提供を目指すもの。並ぶことなく注文と支払いができる「モバイルオーダー」のほか、スムーズな食事ができるよう店内でのおもてなし専門スタッフ「おもてなしリーダー」を配置。一部の店舗では、注文の商品を席まで届ける「テーブルサービス」や、指定の駐車スペースまで商品を届ける「パーク&ゴー(R)」も実施する。沖縄30店舗で試験的にはじめた未来型店舗は、その後全国2700店舗まで拡大。サービス水準のワンランクアップを目指している最中だ。
日本フードサービス協会の集計によると、2019年時点での日本の外食産業全体の市場規模は26兆円にのぼる。同年、日本マクドナルドの売り上げは2800憶円、割合は全体の1%を超える。全国年間の来客数はおよそ15憶人。食の安全や接客の向上に取り組むマクドナルドが業界に与える影響は少なくない。外食産業の確固たるトップリーダーを目指し、リスタート後の更なる飛躍に今後も期待したい。
転載元:Qualitas(クオリタス)