2022.06.28
日本を代表する「カルチュラル・エンジニアリング・カンパニー」目指す
モダンギリシャレストラン「THEAPOLLO」やシーフードレストラン「XIRINGUITOEscribà」など海外でも話題の店を次々と日本に展開し、日本で初めてごみをゼロにする「ゼロ・ウェイスト」宣言を行った徳島県上勝町で、「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」をプロデュースするなど、さまざまなライフスタイルをプロデュースしてきたトランジットジェネラルオフィス。同社の中村貞裕代表取締役社長に、新たなカルチャーを創り、ライフスタイルとして提案する「カルチュラル・エンジニアリング」について聞いた。

原点回帰し、挑戦を始める
弊社は現在、飲食を中心としたオペレーション、空間プロデュースプランニング、パーティーケータリングの3本柱で事業を展開しています。弊社の立ち位置は、カルチャーをつくり世の中に広め、今まで存在しなかったライフスタイルの提案を行っていく「カルチュラル・エンジニアリング・カンパニー」であることだと認識しています。
創業20周年を迎え、経験値が増えたことにより、「何をすれば失敗しないか」というものが分かり、事業としては安定期を迎えているのですが、今こそ創業当時の精神に立ち返り、多くの挑戦をスタートする予定です。この10年、飲食に関する事業が非常に多かったのですが、今後はアート、音楽、ファッション、建築、デザインなど、さまざまな要素をミックスして、カルチャーをつくっていきたいと思っています。
新規事業の一つとして、「NFT」と呼ばれる技術を使ったデジタルアート作品「NFTアート」の事業参画があります。第一弾として、国際宇宙ステーションに実業家の前澤友作さんが唯一飾った作品の作者である、現代美術家の井田幸昌さんの作品を7月頃にリリースする予定です。他にも、ゴルフブランドの展開や、プロテイン・健康食品の開発、山梨県・小淵沢に直営キャンプ場を開設するなど、自分たちが「面白い!」と感じた事業を積極的に行い、新たな経験値を積み上げる中で役割を果たしていきたいと考えています。

地方と都市が等価の時代
世界中さまざまな地域を行き来する中で強く思うのは、今の時代、魅力を持った都市の存在感が、それを有する国よりも大きくなってきているということです。例えば旅行先を選ぶ際、「スペインに行きたい」よりも、「バルセロナに行きたい」や「サンセバスチャンに行きたい」と、国というより都市によって選別され、さらにいえばホテルやお店などピンポイントなスポットが旅行の目的地として選ばれています。魅力的なスポットがあれば、どんなに時間をかけようとも関係なく皆さんそこへ向かうようになりました。
そのため、良い物を作れば、東京だろうが地方だろうが関係なく人は来てくれますし、ましてや世界から見ると全く関係なく、地方で良い物を作れば東京で作ったものと同じように取り上げられます。例えば、私たちは2020年、徳島県・上勝町にごみステーションやラーニングセンター、ホテルなどを備えた複合施設「徳島県上勝町セロウェイストセンター(WHY)」をプロデュースしました。この施設は、東京のど真ん中にある施設よりも、世界のメディアにも大きく取り上げられており、話題となっています。以前とは違い、東京で行っているブランディング戦略は、地方のどこで行っても通用することが分かりました。“地方創成”という役割を担う意味で、私たちの仕事が都市に限らず、あらゆる地域で求められるようになったことを日々感じています。

「カルチュラル・エンジニア」の役割
私自身、キャリアを伊勢丹の社員からスタートし、カフェオーナーから空間プロデューサー、そして企業の代表と、さまざまな肩書を得てきました。海外に行き、現地の方に「どんな仕事をされているんですか?」と聞かれて英語でいろいろと説明すると、「中村さんはカルチュラル・エンジニアなのですね」と納得されたことがあります。以前、「エース・ホテル」の共同創設者アレックス・カルダーウッドと名刺交換をしたときに、名刺に「CEO」とあったので、一般的な「Chief ExecutiveOfficer」のことかと思っていたら、「Culture Engineering Officer」の略だと判明したことがありました。この経験とリンクして、「カルチュラル・エンジニア」が海外では自明の肩書だということを理解し、それ以来、自分の役割を「カルチュラル・エンジニア」であると思っています。
「プロデューサー」ですと、プロデュースして終わり、という印象をどうしても持たれてしまうのですが、「カルチュラル・エンジニア」だと、プロデュースして運営も行い、長くお付き合いしていくという意味も込められていて、自分の仕事を的確に表現してくれていると感じます。海外には多くのカルチュラル・エンジニアがいて、「この人がいなければ、この町はこんなに栄えなかった」と言われるくらい、街の価値も上げるような楽しい場所、文化を創造しています。
そのため、弊社も日本を代表するカルチュラル・エンジニアリング・カンパニーになるという志のもと、「振り返ってみれば、トランジットジェネラルオフィスのおかげでこの文化が生まれたんだよね」と言われるものを、一つでも多く残していきたいですね。
株式会社トランジットジェネラルオフィス
代表取締役社長
中村貞裕
1971年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、伊勢丹を経て、2001年株式会社トランジットジェネラルオフィスを設立。アパレルブランドとのカフェやレストランなど約110店舗を運営。モダンギリシャレストラン「THE APOLLO」、バルセロナで一番人気のシーフードレストラン「XIRINGUITO Escribà」、ハワイ・ホノルルで人気のモダンベトナムレストラン「THE PIG & THE LADY」などの海外の人気店を次々に上陸させている。他に、シェアオフィスやホテル、スパ、鉄道など、話題のスポットを生み出している。
http://www.transit-web.com/