2022.08.09

日本には受け継ぐべき世界一がある。

「日本のモノづくりは衰退した」「すでに世界に遅れをとっている」、こうした意見を見かけることがある。しかし、実際はどうなのだろうか。電化製品やカップ麺、工業製品など身近な製品だけではなく、素材などの製造開発や建築、宇宙開発などモノづくり全体に視野を広げるとまた違ったものも見えてくる。日本科学未来館で開かれた日本のモノづくりに関する企画展の展示物をヒントに、日本が世界に誇る技術やその継承について考えたい。

世界に影響を与えた、日本発の「世界一」

高度経済成長期からバブル期に至る、日本の急成長を支えた一因は「モノづくり」といえるのではないだろうか。2013年12月から2014年5月まで日本科学未来館で開かれた企画展「THE 世界一展 ~極める日本!モノづくり~」では、日本のモノづくりの歴史から選ばれた200点が展示された。いずれも世界一、あるいは世界に誇ることができる日本発のプロダクトだ。展示内容は、自動車やオートバイ、電化製品、食品といった工業製品から、伝統工芸品、素材、おもちゃやキャラクター、航空機や宇宙産業まで幅広い。

これら日本発の製品には世界に影響を与えたものも少なくない。音楽を手軽に持ち運ぶ概念を生み出すきっかけとなった「ウォークマン」、インスタント麺の先駆者的存在である「チキンラーメン」、世界初の「液晶表示付きポケット電卓」など、今でも形を変え市場で見ることができる。中には、スーパーカブやカップヌードルなどのようにほとんど姿を変えず、世界中で愛されている製品も存在する。

精緻で高い技術も特徴の一つ

日本製品の長所の一つが、精緻な加工技術だ。直径0.03mmの針金で加工した金型から生まれたプラスチック製歯車、外径0.065mm、線径0.016mmの世界最小の超微細スプリング、顕微鏡手術(マイクロサージャリー)で使用される直径0.03mm、長さ0.8mmの世界最小手術針、髪の毛よりも細い極微小ねじの加工を行うマイクロねじ切り工具など、さまざまな分野でマイクロ技術が確立されている。

モノづくりの自動化に欠かせない「精密位置決めスイッチ」の分野では、機械やロボットの位置を0.001mmの精度でコントロールする世界最小サイズの機器を国内メーカーが製造。電子部品を使用しない「精密機械式」というのだから驚きだ。こうした精緻な技術は、製造業の根幹を支えるだけでなく、世界最小0.18mmのボール(ペン先)を使った超極細ボールペンなど日常生活にも活かされている。

製造や建築、電気など各産業を支える

1970年代に三菱レイヨンが開発した繊維「中空糸膜」には1/10000mm という非常に細かい穴が開いており、赤サビや雑菌のろ過に役立っている。ほかにも摩擦低減にすぐれ多くの小型精密機器に使われている外径1.5mmの「ミニチュア・ボールベアリング」、電子部品の微小な汚れを落とす「ウェハー洗浄装置」、ホタルの光の1万分の1の光を検知し、食品の劣化や疾患の原因物質などの発見に役立つ「極微弱発光検出システム」、東京スカイツリーの最上部の建築に採用された世界最高強度の建築用資材「円形鋼管」、世界最高100万ボルト(UHV)級の大容量送電にも対応する「各種がいし製品」など、製造業、建築、エネルギーと日本の技術はさまざまな産業を支えている。

世界シェア1位の技術を持つ企業も

日本国内には、二輪車のホンダ、ヨットやレジャーボートのヤマハ発動機など業界シェアで世界トップの企業も多数存在する。70年以上にわたりファスナーの製造・販売を行うYKK株式会社のシェアは45%、ほかにも、オンリーワン技術が評価を受け、圧倒的シェアほこる企業も多い。

前述の大日本スクリーン製造株式会社が製造する「ウェハー洗浄装置」の世界シェアは75%以上。「ミニチュア・ボールベアリング」を製造するミネベア 株式会社は世界シェア60%、「極微弱発光検出システム」の東北電子産業株式会社は80%を占めている。水槽用大型アクリルパネルを制作する日プラ株式会社は世界シェア70%、沖縄やドバイに設置した水槽で合計3度ギネスブックの記録を塗り替えるなど、記録に残る業績を誇っている。

最先端科学と日本の技術

宇宙や科学などに目を向けてみよう。山中伸弥氏率いる京都大学の研究グループによって発見されたiPS細胞、小惑星に着陸し、サンプルを持ち帰る世界初の偉業を成し遂げた探査機「はやぶさ」などが記憶に新しい。天文台の大型望遠鏡の設置に必要不可欠な大型光学レンズの鏡面加工では、株式会社 ナガセインテグレックスが形状誤差200nm(1mmの5,000分の1)超高精度を実現している。ほかにも、太陽の光の力を受けて進む世界初の「宇宙ヨット」の実証実験、原子の動きをとらえる、大型放射光施設「SPring-8」と「SACLA」といった大型プロジェクトにも国内企業が関わっている。

人から人へ受け継ぐ「世界一」

日本では連綿とモノづくりの歴史が継承されてきた、20年ごとに式年遷宮を行う伊勢神宮などもその一つでその歴史は1300年にも及ぶ。我が国のモノづくりの起源はこうしたところにあるのかもしれない。美術品としての人気も高い日本刀は、制作過程で何度も折り返しながら鍛錬を行い、切れ味、強さとともに柔軟さも生み出す。その日本刀づくりに欠かせない玉鋼(たまはがね)と呼ばれる鋼も、たたら製鉄を行う職人の手によって生み出される。純度99パーセント以上の玉鋼は現代の技術をもしのぐ品質だ。日本刀は原材料、加工という2つの匠たちの協力がなければ生まれないのだ。

日本には数多くの「世界一」が存在する。それは、受け継ぐべき宝、ともいうべきものだ。そして、それらの宝を生み出すのもすべて「人」だ。技術やノウハウを絶やさぬよう、ものづくりへの「思い」も合わせ、人から人へ次世代へと受け継いていってほしいと願う。

転載元:Qualitas(クオリタス)