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新たな技術と提供モデルで低コスト化を実現 歯科矯正をグッと身近に  フィルダクト・金子奏絵社長

2021年03月29日

歯科矯正は治療期間が平均2~3年で、治療費も100万円前後と高額なことが多く、日本では約6割が歯並びの改善が必要にもかかわらず未治療のままだという。歯科矯正サービス「DPEARL」を提供するフィルダクトの金子奏絵社長は、「よりスケーラブルな社会実装で歯科の課題を解決できるのでは」と東京医科歯科大大学院で医療政策を学びながら起業した。医師が診療し、歯科技工士に矯正器具を発注する従来のプロセスを、3Dテクノロジー技術と、新たな提供モデルで効率化し、費用と時間を約半分に減らすことに成功した。「旧態依然とした歯科業界を変えていきたい」という思いを聞いた。

◇歯科業界の歪みを正したい

東京医科歯科大学で歯科技工士の免許を取得し勉強を続けるうちに、自由診療の不透明さや質やばらつきといった、いわゆる「歯科業界の歪み」に気づき、改善する手立てはないのだろうかと考えるようになりました。大学院の修士課程に進んだのも、医療管理や医療政策を学びながらこの業界を体系的に知り、解決手段を模索していきたいと考えたからです。

在学中の2018年にフィルダクトを創業し、歯科矯正サービスの構想に移りました。歯科矯正領域は治療フローが煩雑な部分が多く、テクノロジーによる恩恵度合いが大きい。また、ニーズがあるのに歯並びを改善しているのは一部の人のみ。ここの領域から切り込んでいくのがよいのではと考え事業を開始することにしました。

歯科矯正というと金属製の器具を使ったワイヤー・ブラケット矯正をイメージされる方も多いと思いますが、見た目を気にして躊躇されたり、装置を歯に固定するため、ケアしづらいと思われたりする方が多いのは事実です。ワイヤーが目立たないように同様の器具を歯の裏側に固定する方法もありますが、これにも口内炎になったり、締め付けが強すぎたりといったデメリットもやや指摘されています。

そこで3Dプリンタで透明タイプのマウスピースを製造する矯正法を採用しました。マイペでは対応できない症例もあり、基本的に1日20時間以上装着する必要がありますが他人に気づかれにくく、食事や歯磨き、大切な予定があるときなどは自分で外すことができるなど、生活に与える影響が少ないのが最大の特長です。また、自分で丸洗いできるため清潔ですし、歯を少しずつ動かしていくため痛みを感じにくい点でも優れています。

準備期間を経て2019年11月に先行受付を開始。ブランド名は“歯の健康を通じて真珠のようにきらびやかな人生を“という思いを込めて、歯科の「Dental(デンタル)」の頭文字と真珠の「Pearl(バール)」を組み合わせた「DPEARL(ディパール)に決めました。

◇米国モデルは参考にしつつも日本文化に合ったクオリティを重視

歯科矯正に用いる器具や材料は、歯科医師が製造メーカーから仕入れ、そこに歯科医師の技術料を上乗せして患者に提供するのが一般的です。このジャンルの先進国である米国でも同じような構図が長く成り立っていましたが、今から5年ほど前に価格破壊が起きました。オンラインを活用して、患者がキットを使って自分で型を取り、送り返すと3Dプリンタで作成されたマウスピースが届くという画期的なものでした。

私もオンライン完結は便利だなと思う一方、実際には歯型を家で取るのはクオリティ担保が難しく。また、米国のやり方だと対象者が軽度から中程度の症例に限られてしまい、本当に矯正を必要としている人にサービスを届けることができません。そこで、DPEARLは提供モデルは参考にしつつも、対面の場も重視しました。具体的には、症例経験豊富な歯科医によるプライベートメンテナンスです。これと歯科技工士の技術により、中程度以上の症例にも対応できるようにしました。

また、昨年末には歯列矯正生活をスマホでモチベートするオンラインサポート機能「DPEARL support」のβ版をリリースしました。既に昨年3月から提供してきたα版の機能を拡張したもので、マウスピースの装着時間を週ごとにトラッキングし、十分に装着できていない場合はユーザーのライフスタイルに合わせたアドバイスを行っています。

従来の矯正治療は、装着時間管理のフォロー体制があいまいで患者さん任せとなり、マウスピースが十分な時間装着できず歯並びが治らない、といったことも少なくなかったため、改善する必要がありました。β版ではさらに、歯科矯正生活でのアクションを達成するごとにスタンプを獲得できるゲーミフィケーション要素も加えるなど、矯正生活を快適により楽しく過ごせる工夫もプラスしています。

オンライン・オフラインの両側面から質の高いサービスをリーズナブルに提供できるようになりつつあると思います。

◇コロナ禍においても矯正希望者が押し寄せた仕掛け策

フィルダクトの社員は現在5人。平均年齢20代と若く、優秀な人たちばかりです。
2020年に緊急事態宣言が出された際は、発令翌日の4月6日に新サービスの「DPEARL Home Dental」をリリースしました。歯並びの写真を5枚提出すると、「あなたの歯並びにはこんな問題点が見つかりました」「このくらいの期間で矯正が可能です」というように、歯科医が一人一人に合った矯正プランを無料でご案内する歯並びコンサルティングサービスです。スマートフォンで撮影するだけという手軽さで人気が高く、これをきっかけに実際にDPEARLを始められた方も少なくありません。

また、昨年6月には表参道にポップアップイベントを行う「DPEARL studio」を開設しました。専属のドクターによる歯や歯並びに関する相談会を行い、歯型を3D矯正シミュレーションにかけて矯正後のきれいな歯並びを提示し、DPEARLの歯科矯正を無料でプレ体験できる施設です。
来場者のボリュームゾーンは20〜40代女性ですが、ビジネスマンやお子様連れの方にも多数お越しいただいていています。6月の週末限定の予定でしたが、連日満席が続いたため、その後も毎週日曜日に開催することにしました。歯医者さんが苦手という人は依然として多く、そのハードルを下げる意味でも意義があったと思っています。
今後に関しては、今年中に新たなDPEARL体験型施設をオープンする予定です。しかし当社にとってこれは始まりにすぎません。今後は歯科矯正の分野を成長させつつ、歯科予防や医科と歯科の連携など領域を広げて、業界に風穴を開け続けていきたいと考えています。

◆プロフィル
2017年東京医科歯科大学歯学部卒業。国家資格歯科技工士免許取得。同大学大学院医歯学総合研究科医療政策学修士課程卒業。歯科業界の歪みを是正し、ポテンシャルを底上げしたいと大学院在学中に株式会社フィルダクトを創業、代表取締役CEOに就任した。2019年3月、卒業後に歯科矯正サービス事業を本格化。2020年度より相場の約1/2価格で利用できる、3Dプリンタを活用した透明マウスピース型の歯科矯正ブランド『DPEARL(ディパール)』をリリースした。

株式会社フィルダクト
https://dpearl.jp/