2022.07.13

心と体の両面から患者に寄り添い 健やかな日々を共に目指す

医療の本質である「仁愛」の精神を院是とし、心と体の両面で患者に寄り添い医療を提供している、愛知県名古屋市の医療法人回精会仁愛診療所。理事長の野島逸医師は、同診療所で診療を行うほか稲沢市の北津島病院で院長を務めており、「専門は神経内科・睡眠ですが、精神科の診療経験も多いので、多様な角度から総合的な診療を行っています」と話す。回精会には病院・診療所に加え、老人保健施設、高齢者住宅、障害者授産施設などもあり、広く地域の人々を支えている。

野島理事長が医師として大切にしているのが、患者への説明のわかりやすさだ。「医師の説明はどうしても専門用語が多く、本人は丁寧に話しているつもりでも患者さんを煙に巻くようなところがあります。そのため、正確さを犠牲にしても私はつねにわかりやすさを心がけています」と言い、身なりや言葉遣いにも気をつけている。診療では問診を重視しており、「特に片頭痛などは症状や普段の生活を詳しく聞かないと診断できませんし、睡眠障害やてんかん、うつ病なども、話を伺いながらどう生活を改善するか考えるのが治療の一つの軸になります」と話す。

また、野島理事長は仁愛診療所の楠木将人所長と共に、漢方治療を行うことにも積極的だ。「中でも、胃潰瘍や不眠症、気管支喘息、アトピー性皮膚炎など、心の状態が病状に大きく関わる心身症といわれる病気も、東洋医学はとても受け入れやすく、漢方薬でやんわり病状を抑えながら、生活環境の改善についてアドバイスするようになりました。整体やマッサージなども、それ自体が気持ちがよいこともあり、リラックスや入眠を促すのにとても役立ちます」という。こうした漢方治療は日本人の気質に合うものであり、一般の薬を敬遠する患者が漢方薬なら受け入れることも多く、実際に効果が期待できるため適宜治療に取り入れていると話す。

冷え性や風邪をひきやすい、肩が凝りやすいといった、必ずしも病気と言えない不調に対しても漢方薬は効果が期待でき、野島理事長の専門である睡眠医療においても漢方治療は役立っている。「東洋医学にはその人自身と生活全般を見て判断し不調を改善していくコンセプトがあります。睡眠障害や頭痛の診療にも、まさにそのコンセプトが合致しますので、積極的に取り入れるようにしています」とのことで、西洋医学と東洋医学をうまくバランスを取りながら、患者にとって最適な治療を目指している。

そんな野島理事長が現在取り組んでいるのが「眠りの啓発活動」で、「日本人は『不眠不休』が好きですが、それが長い間にどれほど脳や心や体を蝕んでいくか多くの人が知りません」と警鐘を鳴らす。しかも、社会全体が夜更かしの中、夜遅くまで子どもを連れて食事をしたり、小学生が塾から帰るのが夜10時過ぎというのも珍しくなく、「その積み重ねが睡眠障害として不登校やうつ病の原因になることがあり、これからも睡眠の大切さを啓発していきたいです」と話す。さらに、もう一つの取り組みが、本誌読者にもかかわってくる「大人の発達障害」への対応だ。特に仁愛診療所の楠木所長は大人の発達障害の診療経験が豊富な数少ない専門家であり、野島理事長も信頼を寄せている。

アスペルガー障害やADHD(注意欠陥多動性障害)など、大人の発達障害については、著名人がカミングアウトするなど近年認知度が高まっているが、その内容の理解はまだまだ進んでおらず、「当事者の方はとても生きづらい感じがして苦しみますし、周囲の家族なども非常に困惑します。ことに社会人の場合は、同僚や上司の方がどう対応したらいいか悩まれており、そうした皆さんが苦しんでいるのを何とかしたいというのが、大人の発達障害に取り組む医師が異口同音におっしゃることです」と話す。そのうえで、背景に発達障害があって、うつ病やパニック障害に悩む人が上司と共に来院することもあり、「医療機関として当事者に寄り添うのはもちろん、企業においてそうした方にどう対応するのがいいか悩まれている管理職の方に、より積極的にアプローチしていきたいと考えています。ご本人と来院いただきご相談に対応することができますし、今後に向け発達障害の方への対応に関する社内研修などの相談も受け付けています」と紹介する。

最近では「新型コロナの後遺症外来」にも取り組み、療養を終えた後、PCR検査が陰性で熱もないが不調を感じている人の悩みに対応している。新型コロナウイルス感染症の後遺症については医学的なエビデンスがまだ少ないが、心身症的な側面もあるように思われ、「病後の体力低下という考え方は、東洋医学では一般的な概念であり、漢方薬を活用した新型コロナの後遺症外来を始めました」ということだ。

野島理事長に今後の展望を伺うと、北津島病院では精神科の入院医療機関としての役割を担いながら、今後も他の医療機関では専門外と言われるような、体と心のはざまにある病気を抱えた患者を受け入れる病院でありたいと話す。そして「仁愛診療所でも、発達障害や新型コロナの後遺症など、他のクリニックでは対応が難しい対応を担い、人員増や病棟の建て替えも含めて、診療体制を強化していきます」と、将来を見据えた答えが返ってきた。

また、北津島病院のある稲沢市周辺は精神科の医療機関が少なく、野島理事長は精神障害の患者を幅広く受け入れ、行政や警察からの相談にも対応している。認知症の人と家族のため全国に配置されている「認知症初期集中支援チーム」の委託を受け、家庭を訪問して相談に乗ったり、医療機関の受診を促したりしている。発達障害の人への対応についての講演依頼にも積極的に応えており、これらの活動を通じ地域に貢献している。

医療法人回精会 仁愛診療所

理事長

1996年、獨協医科大学卒業。同大学神経内科に入局。2001年、名古屋市立大学 精神神経科入局。2002年、同大学病院救急部に出向。その後、厚生連尾西病院(精神科)、豊川市民病院(精神科)への派遣を経て、2007年東京医科大学茨城医療センター神経内科 医局長。2011年より現職。日本神経学会神経内科専門医・指導医、日本内科学会認定内科医、日本睡眠学会専門医、精神保健指定医。

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