2022.09.01

常識を覆す社会変化の中で。

昨今、「VUCA(ブーカ)という言葉をよく耳にするようになった。これは何を意味する言葉で、なぜ使われるようになってきたのか。ここでは、この言葉が意味する内容と生まれた経緯、そして現在を象徴する言葉として注目されている背景について解説したい。

「VUCA時代」を象徴するもの

VUCAとは、未来の予測が難しくなる状況のことを示す造語で、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の単語の頭文字をとった言葉だ。これまでの常識を覆すような社会変化が次々と起こる「VUCA時代」では、困難や脅威に対して、柔軟かつ迅速な対応が必要になってきていることは確かだ。VUCAを理解するためには、語源となっている4つの単語が何を象徴しているのか、具体的に知っておく必要がある。

Volatility(変動性)を象徴するのは、ICT技術やAIの急速な普及や進化など。インターネットの普及とテクノロジーの進展が新しい商品やサービスを生み出し、その変化に伴って消費者のニーズや価値観も多様化していく。また、地球温暖化や新型コロナウイルス感染症の影響における経済の変化など、予測の付かない状況を表しているのがUncertainty(不確実性)だ。不確実性が高い状態への対応が不十分なまま事業を継続していくことは、決して容易なことではない。

そして、経済のグローバル化やICT技術の進展などを背景に、個人の考え方や行動基準はますます多様化してきた。個人の多様化を受け止めるために、社会でもダイバーシティを高めるなどの様々な変化が起きているのも周知の事実。Complexity(複雑性)には、このような多様化する働き方、新しい生活様式、それらを受容する社会構造の変化などが含まれている。こうした状況の課題は、複数の要因が組み合わさっているため、これまでの成功事例をそのまま適用したり、シンプルな方法だけでは課題解決が困難となる。

また、Volatility (変動性)、Uncertainty (不確実性)、Complexity (複雑性)のそろった場合に、Ambiguity(曖昧性)の状態になると言われている。3つの要素が絡み合い、予測のつかない曖昧な状況に陥るということだ。

地球温暖化を防ぐ、脱炭素の動き

VUCAという言葉は、1990年代後半に米国が軍事用語として使い始めたものだ。冷戦が終結して国際情勢が複雑化し、軍事戦略を立てることが難しくなった状態を示す用語で、21世紀に入り、それまでの方針が通用しなくなった状況を背景に普及していった。2010年以降になると、経済のグローバル化が進む中で、ビジネスでも従来の常識が通用しないような大きな変化が起き始めたことから、VUCAはビジネス用語としても使われるようになっていった。2016年に開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)で「VUCAワールド」という言葉が用いられ、「今はVUCAの時代だ」ということが世界の共通認識となっていった背景がある。

現代は、グローバル経済の進展、デジタル技術の発展など、社会や企業の課題が世界規模で変化している。たとえば新型コロナウイルス感染症の拡大や、それに伴う「新しい働き方」の必要性などはその典型的な例と言えるだろう。その中でもVUCA時代の大きな問題の一つとして挙げられるのが、「地球温暖化」だ。世界各地でこのまま何も対策がとられなかった場合には、今世紀末に気温が最大4℃、海面が82㎝上昇すると予測されている。

日本では気象庁と環境省、文部科学省が、気温が3℃上昇した場合、大雨による河川の氾濫などで洪水が現在の4倍に増加する可能性を指摘。地球温暖化に対しては、先進国のほとんどがCO2削減量の具体的な達成目標を設定し、脱炭素化への取り組みを進めている最中だ。国際法の変更により、今後、脱炭素化の資格を証明できない企業には厳しい罰則が課せられることも想定される。

環境保護に貢献しない企業の製品やサービスの利用を消費者が避ける傾向もある中、変化に対応するために企業は「何を経営課題とするか」を明確にし、具体的なビジョンや目標を設定することが必要不可欠。経営ビジョンを持つことは、いつの時代でも重要だが、未来予測が難しいVUCA時代を生き残るためには企業全体として、社会へ何が貢献できるかを考えなければいけない時代とも言えるだろう。

優れた人材の確保に向けて

行政側でもVUCA時代に対応した政策を進める動きが活発化している。経済産業省では、2019年に発表した「人材競争力強化のための9つの提言(案)」で、今後VUCA時代の環境変化によって、日本企業が急速かつ激しい変化にさらされていくと分析。変化が激しく将来の予測が困難なVUCA時代のビジネスパーソンには、状況に合わせて自身を柔軟に変えていくことが必要になってくるだろう。企業にとっても、予測が困難な経営課題の解決に貢献できる優れた人材の確保が急務と言える。変化へ臨機応変に対応し、新しい課題を発見し、イノベーションを起こせる人材を採用・育成できるかどうかが、そのまま企業の未来を左右すると言っても過言ではない。

同省はその上で、「経営戦略を実現する重要な要素として人材および人材戦略を位置づけること」「多様化する個人のあり方をふまえ、個人と企業の双方の成長を図ること」「経営トップが率先して、VUCA時代におけるミッション・ビジョンの実現を目指し、組織や企業文化の変革を進めること」の3つの大原則を提言している。その具体的な方策として「変革や人材育成を担う経営人材、ミドルリーダーの計画的育成・支援」「個人の自律的な成長や学び直しを後押しし、支援する機会の提供」「経営トップ自ら、人材および人材戦略に関して積極的に発信し、従業員・労働市場・資本市場との対話を実施」など6つの提言を用意。グローバル化、デジタル化、少子高齢化などの社会変化に対応するには、人材マネジメントのアップデートが必要だということだろう。

何度も言うように、変化が激しく将来の予測が困難な時代では、状況に合わせてビジネスのかたちを柔軟に変えていくことが求められる。特に「多様性」はVUCA時代を生き抜く上で避けては通れないテーマだ。VUCA時代は、同質性の高いコミュニティよりも、多様な人材が集うコミュニティを目指すべきとされている。変化を恐れず、果敢に挑戦するための取り組みを今から少しでも進めることが、VUCA時代を生き抜くカギとなるのではないだろうか。

転載元:Qualitas(クオリタス)