2023.05.18

安心な内視鏡検査でがんの早期発見を

埼玉県にある石くぼ医院の石窪力医師は、これまで行った大腸内視鏡検査の総数は3万、開業してから行った検査数は1万を超える内視鏡のスペシャリスト。「大腸がんは早期に発見することが大事」と話す石窪医師は、大腸内視鏡検査をためらう人が少しでも減り、安心で苦痛の少ない内視鏡検査を行うことを心がけている。

無症状であっても便潜血検査が陽性になったら大腸内視鏡検査を

石くぼ医院は大腸内視鏡検査を専門としています。2011 年に開業以来、3 万人以上の患者さんに大腸内視鏡検査を行い、そのうち 390 名が大腸がんでした。約半数が当院の内視鏡治療で根治できた「粘膜内がん」という超早期がんだったということもありますが、そのほとんどは無症状で健診などの便潜血検査をきっかけに発見されています。

便潜血が陽性の場合、大腸がんが発見されるのは全体で2−3%です。しかし、大腸内視鏡検査未経験の場合その確率は5−7%ほどになります。繰り返しになりますが、そのほとんどは無症状のため便潜血が陽性になった時点で内視鏡検査を受けることはとても重要です。

便潜血陽性の方は、いわゆる大腸ポリープも 2-3 人に 1 人くらいの割合で発見されます。大腸ポリープのほとんどは腺腫という良性腫瘍です。腺腫は良性ですが、10個に1個くらいが大腸がんになっていきますので、切除することで大腸がんの予防にもなります。腺腫の切除によって「大腸がんで亡くなる確率を半分近く減少させる」ということもわかっています。

石くぼ医院では開業以来、大腸ポリープの切除を積極的に行っています。それは「大腸がんで亡くなる人をゼロにしたい」という思いからです。検査のついでに治療も行えるというのは内視鏡の大きな強みですが、消化器内視鏡を専門にしている開業医でも大腸ポリープ切除を積極的に行っている施設は実は多くはありません。なぜでしょうか。今話題の SDGs と合わせて考えてみたいと思います。

SDGs と大腸がんの早期発見

SDGs=「持続可能な開発目標」は近年よくテレビなどで目にする言葉です。社会、経済、環境などのバランスを考えて全ての人が幸せになれるようにがんばろう、という世界共通の目標です。この「持続可能」という点から大腸がんの診療を考えてみようと思います。埼玉県立がんセンター時代には抗がん剤治療や終末期の緩和医療に携わりましたが、大腸がんで亡くなる方がとても多いと感じました。

ある患者さんは便潜血陽性で内視鏡検査を受けないまま、受診した時は既に肝臓や肺にも転移した状態でした。そのような場合は手術で根治することができないため、抗がん剤治療を行います。抗がん剤でがんを一時的に縮小させて寿命を延ばし、生活の質を保つのです。有効な分子標的治療薬が開発されてから抗がん剤は一段と効果を増しましたが、治療の繰り返しで効果もなくなり、終末期を迎えることになります。

抗がん剤治療には費用もかかります。2-3 週間毎に受ける1回分の抗がん剤治療は数十万です。このまま大腸がんで亡くなる患者さんが増え続けて国は大丈夫だろうか、と心配になります。国際競争力低下、有事の可能性、人口減少など、国には莫大な支出を抱えていますが医療費抑制が必須な状況で内視鏡医がやるべきことは一つ、内視鏡検査によるがんの早期発見です。早期がんと進行がんでは治療費も10倍以上違ってきます。抗がん剤治療が必要なステージに進む前に内視鏡検査でがんを発見することで国の支出は節約され、がんで亡くなる人も減らせるのです。

まず必要なのは「内視鏡検査=怖い・痛い」というイメージを少しでも和らげることです。便潜血陽性の方にとって内視鏡検査に対するハードルを下げることが内視鏡検査に関わる医療者が実践すべきSDGs であると考えています。石くぼ医院では 98%以上の方が鎮静剤を使用せず苦痛を最小限にする取り組みを行っていますが、今回は内視鏡検査後の出血についてお話したいと思います。

SDGs と開業医の大腸ポリープ切除

多くの開業医が大腸ポリープを積極的に治療していない理由の一つに、切除後の出血という合併症があります。切除した直後は何事もなかったのに、帰宅した後に大量の出血という対処の難しい合併症です。確率は低いのですが、100%出血を防ぐ手技的な方法は現在のところありません。出血した場合は緊急で内視鏡を行い、止血クリップという 3 mm程の小さな器具で切除面を縫い合わせ治療を終えます。

開業医のように医師やスタッフの数が少ない診療所では、多忙な上に 24 時間体制での緊急内視鏡検査と止血術は大きな負担となり、医療従事者のモチベーション低下や離職にも繋がりかねません。予期せぬ出血というリスクが、開業医での大腸ポリープ切除を「持続不可能」にしているのが現状です。

外来での大腸ポリープ切除を「持続可能」なものにするためには、出血をゼロにすること。石くぼ医院ではすでにその答えを見つけています。2022 年 12 月まで 5,057 名の大腸ポリープ切除を行いました。その中には出血の可能性が高いと言われる2cm 以上の病変も多く含まれていますが、ポリープ切除後に出血した患者さんは年間 1~2 名で主に検査後 3 日以内の仕事や家事など労作が出血の原因でした。

そこで、「ポリープ切除後3日間は入院同様、家で安静にしていましょう」と指導しました。患者さんにとっては不自由なことですが、これを徹底してから出血は一度もありません。3日間の安静という条件を見つけたことにより、私たちも患者さんも安心して外来での治療を行えています。大腸内視鏡検査は誰にとってもあまり気が進むものではありません。しかし、大腸がんの早期発見や大腸腺腫の切除によるがんの予防は、検査を受ける本人のみならず子や孫、その先の世代のためにもとても大切な事なのです。これからも「来てよかった」と思っていただけるよう、持続可能で質の高い医療の提供へ取り組んで参ります。

医療法人社団 曙光会 石くぼ医院

院長

1971年生まれ、自治医科大学医学部卒業。市中病院などに勤務した後、埼玉県立がんセンター消化器内科医長を経て、2011年に石くぼ医院を開業。これまでに2万件以上の大腸内視鏡検査を行うとともに、学会での発表も多数。

https://halmek.co.jp/beauty/c/healthr/7965