2022.09.30
「女性を孤独にさせない」妊娠から子育てまで総合的に支援
4月から不妊治療の保険適用が始まり、妊娠を望む人の経済的負担が軽減されたが、新たな課題も浮上している。これまで妊活をサポートしてきた一般社団法人メディカルマインドサポート協会の渡辺優子代表理事に、現在の不妊治療の現状や女性を取り巻く環境について話を聞いた。

体の緊張状態が妊娠を妨げる
妊活のサポートを始めようと思ったのは2013年ごろ、周囲に不妊治療中の夫婦が非常に多く、統計的にも当時夫婦全体の約6組に1組が不妊に悩んでいると知ったことがきっかけでした。看護師として産婦人科などでの勤務経験を踏まえ、産前産後の女性のサポートやマタニティーセラピストの講座を開いており、不妊で悩んでいる方の検査数値やホルモン値を見たときに、皆さんの体の緊張状態が数値に顕著に表れいることに気付き、体を緩めることができれば妊娠に近づくことができるのではないかとサポートを始めました。
体の緊張の原因は、夫婦関係や、自己肯定感が低く、周囲と自分を比較する苦しさなどさまざまです。さらに、不妊治療はホルモン剤を体に入れていくので、脳がストレスに対応できにくくなります。ストレスを感じると、採卵はできても凍結ができなかったり、受精胚を移植しても、着床しない結果になることも多く、高いお金を出したのにうまくいかなかったと後悔し、年齢的に難しいのかと悩むことになります。
そうしたケースでも、心を緩めていくと自律神経のバランスが整い、気持ちにもゆとりが出て、徐々に良い状態の卵子が採れる人が出てきました。卵子の成熟の過程は、まず脳から卵胞刺激ホルモンが出て、卵巣に届き、卵巣からホルモンが分泌されて、原始卵胞という卵が約半年かけて成長するのですが、不妊治療における卵子の成長を促す薬が作用するのは、成長過程の2次卵胞からでしかなく、ストレスがかかっている人は、脳から分泌されるホルモンまで乱れ、それ以前の原始卵胞が成長しづらくなっているケースが多くあります。そのため、ストレスを軽減し、卵子が成長しやすい状態に心と体を整えようというところから指導しています。

心と体の状態を整えてから不妊治療を
採卵の際、多く卵子を採るためにホルモン剤を使用して、卵巣を高刺激するのが比較的主流になってきていますが、これは卵巣がものすごく腫れ、体に負荷がかかることがあります。その痛みや不安による緊張が、自律神経のバランスを崩し、妊活うつの一因になることがあります。不妊治療に保険が適用されるようになってから、不妊治療をする20代から30代前半の人が増えていますが、治療でホルモン剤を使用すると、普段の状態よりも抑うつ状態になりやすくなり、妊活をしている20代の約78%が抑うつ状態であるというデータもあります。若くて卵と精子が出会うところまで準備ができているけれど、体が緊張状態で子宮への血流が悪くなって、冷えが加速してしまい、流産してしまう人をたくさん見てきました。
保険適用がされたのは素晴らしいことですが、まずはホルモン検査の数値が安定し、体が冷えていないか、ストレスの少ない生活を送れているか、など心と体の状態を整えないまま不妊治療を始めると、とても苦しくなってしまうケースがあります。しかしそこまで指導してくれる病院はなかなかないのが現状で、すぐに不妊治療を開始するところが多いのは問題だと感じています。

頑張らない生き方を
医師はどうしても治療の方向へ考えが向かう傾向があるのですが、言われるままに治療をスタートする前に、検査データを診てくれる妊活のアドバイザーなど第三者に一度助言をもらうといいでしょう。まず体を緩めて自分を楽にできる状態にしたり、情報交換が楽しくできるような仲間を見つけたりして、抑うつ状態を脱することが必要です。
私の講座を受講して、実際に妊娠した方の話を聞くと、、「同じように悩んでいる人がいて、自分だけでなかったということに救われた」と言われました。日本の女性はすごく頑張り屋ですが、孤独になりやすく、子供を授かり幸せになるための行動をしているはずなのに、抑うつ状態になる人、夫婦中がうまくいかなくなり離婚に至ってしまう人も残念ながらいます。頑張るというのが日本人の美徳ではありますが、頑張らない生き方、困ったときには人を頼る生き方を広めていけたらと思います。
10月から、「ママと赤ちゃんを守る会」というNPOを発足予定です。女性を取り巻く環境は相変わらず厳しいままですが、妊活から子育てまで、活動を通して、女性を孤独にさせず支え合える環境を作るためにこれからも努めていきます。
一般社団法人メディカルマインドサポート協会
代表理事
渡辺優子
1999年看護師免許取得。産婦人科をはじめ、多数の診療科を看護師として13年経験。2010年の次女の出産と東日本大震災をきっかけに産前産後のママのサポートがしたいと自宅サロンから起業し、2017年法人化。妊活カウンセラーとして「72時間!みんな変われる魔法の妊活」(パブラボ社)など著書多数。
http://medicalmind-support.com/