2022.03.25

女性の活躍の礎に 女性に特化した運動健康法への理解を

育児や仕事で毎日が忙しく、つい体のことを後回しにしてしまいがちな現代の女性に向けて、プロスポーツの現場で長年培ったコンディショニングの知見を応用し、産前産後の体力回復や女性の体形に即した運動健康法の定着へ尽力する一般社団法人フィジカル&ムーブメントトレーニング協会。井上かなえ代表理事に運動健康管理の重要性について聞いた。

アスレチックトレーナーの本場で活躍

これまでアスレチックトレーナーとして20年以上活動してきましたが、現在は主に女性を対象にして、ピラティスの要素を組み込んだ健康運動の指導やパフォーマンスアップトレーニング、産前産後の体力回復サポートなどを1対1のプライベートセッションで指導しています。また解剖学の見地から女性特有の骨格や筋肉の付き方を考慮したボディメーク、年齢や出産などで変動するホルモンバランスに伴う栄養指導など女性に特化した「美トレインストラクター」の養成、その他、運動による健康管理をテーマに大学での講義や企業での講演、イベントの企画などを行っています。

元々アスレチックトレーナーは米国で発展した職業で、私の学生時代にはまだ日本に浸透しておらず、この職に就くための専門のカリキュラムも存在していませんでした。今でもそうですが、国家資格でなく基準はあいまいです。スポーツというよりは体の構造の専門家である理学療法士や作業療法士、鍼灸師、柔道整復師といった職業の方が、スポーツの現場でトレーナーを兼任していることが多いのは日本特有の状況でもあります。

大学時代にその状況を知り、スポーツに特化したアスレチックトレーナーになりたい、そのためには本場で学ぶしかないと米国留学を決断しました。ネブラスカ大学でプロアスリートのレベルで経験を積み、帰国後も女子バスケットボールの実業団チームや東海大学バスケットボール部などスポーツの現場でアスレチックトレーナーとして約10年携わって来ました。

女性に特化した運動健康管理を実施

スポーツの現場で働くことはとてもやりがいがあり、天職だと思えるほど好きでした。試合に勝てば単純にうれしいですし、自分がチームに求められていることも感じられるので充実感がありました。ところがそんな中、母や祖母の死に直面しました。自分の知識をもっと早く、予防に役立てられれば少しは結果が違ったかもしれないと自問自答し、普段から健康であることの大切さを改めて思い知らされたのです。その後、次第に自分の知識や技術が社会に貢献できるのではと思うようになり、一般の方々に向けた運動健康管理を広めていくことを思い立ちました。

日本ではなぜか運動による健康効果の大きさがあまり重要視されていません。ジムに通う人口が、約1割ともいわれるほど少ないことにも表れているのではないでしょうか。学校も国も家庭でも、運動による正しい健康方法を教えていないので、どれが正しい情報なのかもわからない中で、間違ったダイエット法や健康法を選択してしまう人が多くいます。無理な食事制限、偏った食事法、短期型の過度な運動は、一見して効果があるように思えても、人生の長いスパンで見ると逆に健康を害してしまうリスクがあることを認識することが大切です。単純に考えても健康は一生続けなければ意味がなく、ダイエットでも健康法でも継続可能な方法でなければだめなのです。

しかも女性と男性では、骨格や筋肉の付き方、体の仕組みなど異なる部分が多いので、トレーニングや運動、ケアの仕方までそれぞれに適したやり方を実施する必要があります。例えば、産後、産前の状態まで体力回復するには1年半から2年はかかります。それを踏まえてトレーニングや運動を行う必要があります。ったり、そうした事実を知らないまま何も対策を取らずにエクササイズを行うと、後々不調をきたす原因になりかねません。ですので、私たちはしっかりと女性に特化した指導を行うとともに、このような正しい指導法を学んだインストラクターの養成に努めている次第です。

女性の社会進出も支援

今後はより正しい情報を広めるためにグループやオンラインでのセッションを展開していきたい。1対1よりは気軽なので誰でも参加しやすいというメリットがあります。また一人一人とコミュニケーションを密に取りながら、チームのように仲間と一緒に頑張っていける環境を作ることで、継続性も向上させられると考えています。

そして女性の社会進出や活躍の支援にもつながるよう幅を広げていきたいとも考えています。例えば企業の健康経営トレーニングセッションを取り入れてもらうことで、社員の健康を維持し、長期的なパフォーマンス向上を目指します。福利厚生として社員の家族の健康管理にも利用価値はあるのではないでしょうか。それと「美トレインストラクター養成」もその一環と捉えていて、ヨガやピラティスの女性インストラクターは多いですが、科学的な分析による運動健康管理を行えるアスレチックトレーナーは男性が9割を占めるので、女性のための指導を行える人材はとても貴重です。私たちの手で今後も積極的に多くの後進を育て、その向こうにいる多くの女性の活躍の礎になればと思っています。

現代の女性は育児や仕事で毎日が忙しく、つい体のことを後回しにしてしまいがちです。また意外にも自分自身の体について知らない人が多くいます。不調が出るとたちまち病院にかかって、処方された漢方や薬を服用して安心しますが、それでは根本的な問題解決にはなっていません。やはり大切なのは健康を維持すること。適切な運動や栄養管理を継続していくしかないのです。人生は体が資本ですので、運動することの大切さを理解して、いつでも体ファーストで日々を過ごしてもらいたいと願っています。

一般社団法人フィジカル&ムーブメントトレーニング協会

代表理事

1983年、群馬県前橋市生まれ。2001年、東海大学体育学部を卒業後、アスレチックトレーナー養成の本場、アメリカのネブラスカ大学大学院に留学。NBAマイナーリーグや女子プロバスケットボールチームなどでトレーナーを務め、帰国後、日本の女子バスケットボール実業団トップリーグ「日本航空JALラビッツ」のアスレチックトレーナーに就任・2011年、一般向けにプライベートセッションを開始し、2016年、一般社団法人フィジカル&ムーブメントトレーニング協会を設立。

https://www.pmt-a.com/