2022.12.28

地方発を絶やさない。

漁業の未来を考察する

和田岬沿岸部と兵庫運河を拠点に置く兵庫漁業共同組合は、日本で初めてできた漁業組合だ。主に船曳き網漁という漁法を用いて、シラスやイカナゴなどを水揚げしている。 和田岬は大輪田泊の時代から良港として知られているが、実は漁場としても豊かなエリアだ。しかし近年、漁獲量は減少傾向にある。地元の春の風物詩でもあるイカナゴもほとんど獲れなくなっているのだという。

減少傾向にある漁獲量

大阪湾の中でも和田岬周辺は、魚の餌となるプランクトンが多く発生するエリア。明石海峡から流れてくる潮と、六甲山脈から流れてくる水がぶつかりあうことで、プランクトンが生じやすくなるためだ。六甲山から流れてくる水はミネラルが豊富で、プランクトンは栄養のある餌に恵まれ、さらにそれを食べる魚も良質になる。しかし昨今、漁獲量は減少傾向にある。

甲殻類が獲れにくくなっており、今後はタコやイカ、アジやカマスなども減っていくのではないかと危惧されている。理由は様々なことが考えられるが、小魚の餌となる動物プランクトンが減少し、生態系が乱れていることが大きな一因と言えるだろう。動物プランクトンとは干潟や砂浜の中にいるバクテリア、それにゴカイやアサリの赤ちゃんなどを指すが、大阪湾の護岸工事が進んだことで天然の岩礁や干潟がなくなり、そこに生息していた動物プランクトンの数が減ってしまったためだ。さらに別の視点で見ると、それによって食物連鎖のバランスが崩れてしまっていることも推測される。魚を取り戻すためには生態系の改善が必須なのだ。

廃材を再利用した人工干潟

そこで、神戸の海に干潟を取り戻してはどうだろうと考え、組合の漁師たちが興味深い活動を始めている。その一つが、2020年に材木町にできた「神戸港の護岸整備工事によってでた廃材を再利用した人工干潟」の取り組みだ。護岸などの工事は治水のため必要になるため、なくすことはできない。しかし、人の利便性や安全性を高めると同時に、自然の海の豊かさも守っていくことが必要とされる。そのための試みとして、工事で発生した廃材を再利用し、人工干潟をつくったのだ。これは日本国内でも先進的な事例と言えるだろう。

大阪湾漁業の過去と現在

神戸で船曳き網漁がはじまったのは、1960年代頃に遡る。それまでは底曳網漁などが主流だったが、「この先ずっと同じ魚が獲れるのか」と将来を危惧した当時の漁師たちが、時代の先を見据え新しい手法を編み出していったと言われている。また、大阪湾の漁業者の宿命といえば港湾法との共存だ。神戸港が近いため、海の安全上の問題で同組合では養殖が許されおらず、海での漁獲量が減少傾向にある昨今、陸上養殖や食育を絡めた観光漁業の展開も視野に入れていく必要もある。

子どもたちが学ぶ機会を

そして最も考えないといけないテーマは、環境問題とどう向き合っていくのかということだ。その第一歩として、兵庫漁業共同組合内には環境保全や生態について学ぶための「水産研究会」が発足。兵庫運河沿いで養殖の実験をするほか、地元の小学校などで環境学習の授業を担当する試みも行っている。未来に生きる子どもたちが、海に住む生き物や生態系を学ぶ機会があることは、海を守る上でもとても重要なことだ。

ほとんどの子供たちはスーパーで売っている魚介類しか知らず、それらは遠い海からやってくるものだと思っているだろう。しかし神戸にも漁師がいて、地元の海で育った魚介類を食べられる環境が確かにある。

六甲の水が、豊かな海をつくる

そして地産地消と一口に言っても、海を守ればいいだけではない。たとえば六甲山脈から流れてくる水も、いわゆる裏六甲と呼ばれる農村エリアから流れてくるものだ。大地は繋がっており、農村の田んぼで米を作ることが大地の肥やしとなり、山を超えて海に流れてくる。極端に言えば、米を食べることが、海を守る方法に繋がることにもなる。

資源の恩恵に感謝して

船曳き網漁は、海に網を投げ入れて2艘の船で引き回す漁方だが、網が海底環境を傷つけてしまったり、目的としていない生き物をとってしまったり、海底の生態系にダメージを与えてしまうこともある。また、三艘一組で漁を行うため使用する燃料が多く、環境への負荷が高い。しかし、漁師が生活を維持するためには必要な仕事でもある。

だからこそ、せめて環境を守るために考え、行動しないといけない。そのため大阪湾の船曳網漁は操業時間の制限をかけ、燃料の使用量や漁獲量を減らす努力もしている。
海の豊かな資源の恩恵をもらって生きる私たち。山や田畑にも思いを巡らせながら、まん前の海を守ることは、漁師やそこに住む私たちに与えられた使命でもある。

転載元:Qualitas(クオリタス)