2022.01.12

地方発の、SDGs ×「知る」が人をつなぐ。

東京多摩学園では、知的障害を持つ利用者が、職員とともに椎茸の生産、カフェ運営などの仕事をしながら地域の中でいきいきと暮らす。園長を務める山下卓さんの話からは、自然、社会、コミュニティの持続可能性に関し、重要な示唆を得られるに違いない。だからこそ知ってほしい。

地方発の、SDGs ×「知る」が人をつなぐ。

 東京・奥多摩町、緑深い森の中にある障害者支援施設、東京多摩学園には現在、33人の利用者が生活する。家族が亡くなったり、障害特性により地域で住みにくくなった人も受け入れ、ともに暮らしている。
 同学園の大きな特質に、職員のサポートを受けながら全員が行う生産作業がある。とりわけ椎茸の生産では、森で切り出した5万本の木に椎茸菌を植え、自然の中で育てる原木栽培、室内で育てる菌床椎茸を合わせ、年間10トンの生産量を誇り、大手スーパーなどへ納入されている。
 農作業で森に適度に人間の手を入れることは、土壌を豊かに保ち、自然資源や生物多様性の観点から里山保全に資するといわれる。ここには、生産活動を行いながら、自然と調和した生活があるのだ。
 そして2013年には、敷地内に『カフェレストランSAKA』を開業。生産した椎茸や野菜を食材に使った料理を提供し、2019年は年間のべ4,000人が訪れる人気となっている。
「当初『こんな山の中に来るのはタヌキやキツネくらい』と言われていて、最初のお客さまが来られた時『人間のお客さんだ』と皆で笑いあったことを思い出します。今はネットで調べて遠方から来られる方も多く、メニューも増え続けています。スーパーに卸すだけでは得られない、目の前で『おいしい』と言ってもらう体験が、働く者の喜びになっています」
 活動の広がりは、地域社会にも静かな変化を起こす。高齢化、過疎化が進み、コミュニティの機能が弱まっていた奥多摩地域で、SAKAには自然に人が集まり、住民同士、またスタッフや利用者と触れ合う場となったのだ。
 山下氏は、利用者たちによく「君たちは、世の中をよくしているんだ」と呼びかける。
「彼、彼女らの能力は健常者におよびませんが、保護され与えられるだけの存在ではない。全員が社会参加し、微力ながら頑張っています。『みんなの頑張りを見て勇気が出た』という声も、多くいただきます。誰しも社内の中で役割を持っているということを伝えたいのです」
 山下氏自身もまた、認識を新たにしたことがある。
「共生社会を実現するためには、私たちが知的障害のことを、もっと世間に知っていただく努力をしなくてはならないと感じています。私たちの中にも、施設の活動や利用者さんを見てもらうことを躊躇する気持ちがどこかにある。そんな『見えない壁』を、一つ一つ取り払っていきたいと思っています」。
 取材に伺ったのは7月。梅雨時の多湿な環境で、原木の内部でひそかに成長した菌は、盛夏の猛暑を耐え、秋に大きく傘を広げる。
「秋には収穫祭があります。みんなで椎茸狩りをして七輪で焼き、森の中で一杯やる。屋台も出店し、地域の皆さんに秋の一日を楽しんでいただく企画です。いまは皆、それを楽しみにしています」。

転載元:Qualitas(クオリタス)

地方発の、SDGs ×「知る」が人をつなぐ。

TEXT BY KOSUKE YUZUKI PHOTOGRAPHS BY SHOGO SATO DIRECTION BY RINA IKEMATSU