2022.03.29

医療と人事制度で多様な社会を支えたい

「医療の力で生活の質を上げる」をコンセプトに、形成外科から歯科まで生涯を通じた医療を提供している医療法人メディスタイルの徳永理恵副理事長。「がんになったことで今の私がある」と語る徳永理事長に、医療への思いを聞いた。

生涯、「自分らしく美しく」生きるための地域医療

医療法人メディスタイルでは、「医療の力で生活の質を上げる」というコンセプトのもと、神奈川県の湘南逗子、葉山地域に根差した複数のクリニックと飲食店を展開しています。クリニックの一つ、逗子メディスタイルクリニックでは、夫が歯科・矯正歯科・インプラント専門外来、私が美容皮膚科・形成外科・皮膚科を担当し、患者の生涯を通して診ることができるのが強みです。

病院という場所は、病気をしていないと行ってはいけないというイメージがあるかもしれません。特に年配の方はがまん強いので、巻き爪程度で病院にかかるなんて申し訳ないと感じてしまうようです。しかし、爪を正しく切ったり、必要に応じたケアをしたりすることで、付き添いが必要で杖をついていた方が、しっかりした足取りで歩けるようになるケースもあります。歯科であれば、このまま食べられなくなるのだろうと落ち込んでいた方が、しっかりした入れ歯を作り、飲み込みのリハビリを行うことで、食事をおいしく自分の口で取れるようになりました。このように医学的に正しい方法でケアをすると、ずっと簡単に生活できるようになるのです。

また、「もっとずっと自分らしく美しく」ということも意識しています。「健康にいいから」と勧めてもなかなか続きません。特に女性の場合、「きれいになる」と言うと継続できるのです。美容は、健康になるために大切なモチベーションを上げるツール。健康だからこそ表れる自然美を目指しています。

がん経験が変えたサポートケアへの視点

大学卒業後、横須賀市立の病院で働いていました。大きな病院というのは大きな手術をする場所です。それに付随するような治療や副作用へのケアを、町のお医者さんとしてやっていきたいという気持ちがありました。そのときに住んでいたのが逗子で、土地柄が気に入ったことと、生まれが隣の鎌倉市で縁があったことがきっかけで、逗子での開業を決めました。

開業して三男を産んだ直後、37歳で乳がんと甲状腺がんを経験しました。患者側になったとき、診る側の私がなぜこっちにいるのだろうと思い、無力感を抱きました。今まで自分がやってきたことがすべて取り上げられた気分にもなりました。しかし、転んだ時こそ見える景色がある、そこで何を拾い上げるかが転んだことを意味あることに変えると信じ、自分ができること、したいことを真剣に考えました。まだまだ考えている途上ではありますが、自分ががんを患ったことで、医療によるサポーティングケアの必要性を思い知り、今まで掲げていた診療のコンセプトは正しいということを再認識しました。がんサポート外来では経験を生かし、がんの副作用でまゆげがなくなってしまった方へのアートメーク、センシティブな胸の傷の周囲のスキンケアや、リンパの流れの改善などを行っています。

その他にも地域にメディスタイルの分院を立ち上げました。一生活者として、「こうなったらいいな」と思うものを、医学目線を通して提供していこうと思います。

多様性に対応した持続可能な人事制度

コンセプトを実現するためには、スタッフたちが明るく元気に働く必要があると考えています。そのために意識していることが人事評価制度です。

医療機関では、国家資格の有無で大きく評価が変わる風潮があり、どうしても医師や看護師が力を持ちがちです。そうすると、資格のないスタッフのやる気がなくなってしまう。一人で経営している院長は、もっと患者と向き合ったり、自分の勉強に時間を使ったりしたい人が多く、経営にあまり関心がない方もいます。そうすると、スタッフへ支払われる給料は決まりきった標準的なものになってしまいます。スタッフは目指すものもよく分からないまま働かされるわけですよね。経営者側が、人事評価制度で「こうあってほしい」と目に見える形で提示をすることが大切です。目標を目指して働けば評価されるということがわかると、やりがいを持って働いてもらえます。

一般的な人事評価制度以外に、チーム評価制度も取り入れています。スタッフの人間性やホスピタリティーは上司が評価するのではなく、チーム内のメンバーが、Google Formsを利用し、無記名で評価しあってもらいます。そうすることで、協力して働くことを意識してもらえるようになり、スタッフのコミュニケーション能力も上がり、離職率がぐんと下がりました。今後は、小さなクリニックでスタッフ管理に苦労している先生方へのコンサルタント事業を展開したいと考えていて、ひいては患者のためになればと思っています。

医療法人メディスタイル

副理事長

1976年神奈川県鎌倉市出身、2003年、東京医科歯科大学医学部医学科卒業、東京医科歯科大学形成外科入局。2005年より横須賀市立市民病院形成外科に勤務し、NSTチームと美容皮膚外来の立ち上げを行う。2010年に逗子メディスタイルクリニック(美容皮膚科・形成外科・皮膚科)を開業し、院長に就任。2014年に医療法人化。医療法人メディスタイルの副理事長を兼任している。2015年に葉山こどものための歯医者さん開院。同年葉山皮膚科・アレルギー科開院、訪問歯科診療センター開設、2018年葉山耳鼻咽喉科・アレルギー科開院、2020年に逗子みんなのための歯医者さん開院。