2023.05.26
円安でも過去最高益を叩き出すユニクロの秘密。
円安にコロナ禍、海外に生産拠点を構える国内企業にとっては、逆風が続く。この状況の中、活況を呈しているのがユニクロを運営するファーストリテイリングだ。2019年から2020年にかけては売上が減少したものの、2021年、2022年と増収を続けている。店舗数がコロナ禍以前よりも減少しているにも関わらず、2022年の売り上げは既に2018年を超え、営業利益は過去最高を見込む。アパレル製造小売業世界第3位を誇るユニクロ。その運営の秘密に迫る。

増収・増益で業績予想を上方修正
2022年7月、ユニクロを運営するファーストリテイリングの2022年8月期第3四半期決算の決算サマリーが発表された。売上収益は1兆7,651億円、前年同期比3.9%増、営業利益2,710 億円、前年同期比19.0%増となり、増収・増益となった。第3四半期の3カ月間で、国内ユニクロ事業の売上収益は1,984億円、前年同期比8.7%増、営業利益は381億円、前年同期比76.2%増。海外ユニクロ事業の売上収益は2,480億円、前年同期比13.9%増、事業利益は380億円、前年同期比17.8%増となり、いずれも好調を維持。ジーユー事業は前年同期比 0.7%減、国内ユニクロ事業においても9カ月累計数字では前年同期比 5.1%減となったほか、グローバルブランド事業では第3四半期3カ月間の売上収益が310億円と前年同期比19.5%増となった。この業績を受け、ファーストリテイリングは通期業績予想を売上収益2兆2,500億円、前期比5.5%増、営業利益2,900億円、前期比16.5%増と上方修正している。
総合的な視点の経営
全てが好調なわけではないが、業績の詳しい内訳をみていくと、同社の戦略が見えてくる。2022年8月期 第3四半期決算短信を例にとると、国内市場では675,1憶円から640,9憶円へ、中国市場では410,7憶円から431,5憶円へと数字を下げている。しかし、韓国、シンガポール、マレーシアをはじめとするアジア・オセアニアでは、165,2憶円から219,7憶円へ、北米・欧州でも142,8憶円から210,7憶円へと売上を伸ばし、ユニクロ事業全体では、1兆414,7憶円から1兆482,2憶円へ増収を達成している。また、ジーユー事業では200,8憶円から190,5憶円へと減少したが、北米・欧州及び日本で展開しているグローバルブランド事業では売上をから805憶円から900憶円へと売上を伸ばしており、ファーストリテイリング全体でみると前年実績を上回り、増収増益を果たしている。つまり、事業単体ではなく、俯瞰で経営をみているのだ。

グローバルなリスクヘッジ
世界全体で幅広く事業を展開することでリスク分散が可能になる。例えば一部地域で感染症など、何らかの障害が発生したとしても、ほかの地域でカバーができる。また、各事業の中でも同様にリスク回避が可能だ。例えば、海外事業の売上比では50%を中国が占めており、一見大きなリスクにも映る。しかし、多地域での事業展開で、エリアに合わせた事業内容の変更や柔軟な対応、柔軟な経営が可能になるのだ。これは、国内で高付加価値商品のみを主力に展開している事業者には真似のできない、グローバルなリスク分散型の経営といえる。また、ユニクロの商品戦略の長所の一つが「商品の償却期間」の長さにある。ヒートテックなどの人気の定番商品をそろえることで、在庫が残ってしまっても値引きせず販売することが可能になる。これもリスクヘッジの一つだ。
ユニクロのように海外で原価を抑えて生産し、国内販売を行うアパレル産業は円安に弱いと言われる。しかし、ファーストリテイリングの場合、海外展開の割合が大きく、円安の影響を比較的受けにくい。海外に持つ資産価値は円安で逆に上昇するというメリットもあるからだ。近年円安が続いているが、これも円安というリスクへのグローバルな対処といえるだろう。
数々の施策とDXの相乗効果
ファーストリテイリングの経営面で特筆すべきなのは、販管費の低さだ。販管費は広告費や店舗運営費など商品販売にかかわる費用のこと。ユニクロと同じ衣料品・雑貨等の企画・製造・販売を行っている。ある国内企業の場合、販管費はおよそ52%。ユニクロの販管費がいかに低いのかが分かるだろう。2022年8月期 第3四半期の報告では、人件費や物流費を中心にオペレーションの効率化を進めたこと、採算店舗の閉店を中心とした事業構造改革を進め改善を行っているところだ。ファーストリテイリングが目指すのは「情報製造小売業」。2018年年からはGoogleと連携し、データを軸に新たな顧客サービス創出をめざしている。日本企業でも、既存のビジネスモデルを改善し、危機を脱却するためDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む動きが進んでいる。しかし、やみくもにDXをすすめても、売上を上げる施策、あるいは販管費などの経費を下げる施策がなければ、単に不必要な原価高騰が進み、経営へ悪影響が及ぶことになる。
2022年、ファーストリテイリングが示した年度方針は「世界で稼ぐ」こと。快適で高品質な日常着を、世界中のさまざまな国や地域で、現地の人々と一緒につくり、売っていくという姿勢を徹底する、というのが根底にある思いだ。そのための手段が商品力であり、経費節減であり、リスク分散なのだ。さらに世界第3位の規模を生かしたスケールメリットも大きな武器となっている。それら綿密な戦略にDXを加えることで、相乗効果が生まれていることも事実だ。業績改善の要因は、まさにそれらの戦略が功を奏した確固たる証明ではないだろうか。
転載元:Qualitas(クオリタス)