2022.12.07

全米を席巻するプライベートエクイティ経営幹部の懐事情。

米国のビジネス界で存在感を高める、プライベートエクイティ(PE)。近年、その投資分野は企業のみならず、公共インフラ、自治体にまで拡大している。全米を席巻するプライベートエクイティ運用会社、今回はその経営幹部たちの意外な懐事情に迫ってみたいと思う。

1947年生まれのスティーブン・シュワルツマン氏。イェール大学、ハーバードMBAというエリートコースを歩んだ後、リーマン・ブラザースで活躍。1985年にブラックストーンを創業した。

毎年ある時期になると、超富裕層たちの懐事情が話題になる。近年は資産額ランキングもその一つと言えるが、それは保有する株や不動産が含まれてのもの。しかし収入ランキングとなると、実はその顔ぶれも大きく変わってくる。大手企業の場合、報酬と賞与のほかにストックオプションが付き、計数千万ドルなんてことも少なくないが、単なる大手企業ではなく、プライベートエクイティ運用会社の経営者となると、その収入は文字どおりレベルが違う。なにしろ報酬や賞与、ストックオプションのほかにもさまざまな収入源があり、その合計は年間数億ドルになることもあるのだ。2021年、最も収入が多かったのは最強のプライベートエクイティとの呼び声も高いブラックストーン・グループのスティーブン・シュワルツマン会長兼CEO。同社の創業者であるシュワルツマンの収入は、約6億8900万ドルに上る。ただし年俸は35万ドルで、ボーナスは受け取っていない。ブラックストーンでは、シュワーツマン以外の経営幹部も巨額の収入を得ている。ハミルトン・ジェームズ社長は2億3300万ドル、ジョナサン・グレイ最高不動産責任者は2億4900万ドルを得た。

ほかのプライベートエクイティも負けていない。アポロ・グローバル・マネジメントのレオン・ブラック会長兼CEOは約5億4300万ドルの収入を得て、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)のヘンリー・クラビス共同CEOとジョージ・ロバーツ共同会長兼共同CEOは、2人で計3億5600万ドルを手にしている。こうした金額の「法外っぷり」は、銀行やテクノロジー企業の経営者の収入と比べると、一段とはっきりする。ある調査会社の報告によれば、全米最大規模の銀行とテクノロジー企業のデータを分析したところ、プライベートエクイティの経営幹部の収入は、どの業界の経営幹部よりも高いことがわかった。

1990年にアポロ・グローバル・マネジメントを創業したレオン・ブラック会長。2012年には、エドバルト・ムンクの代表作「叫び」を1.2億ドルで落札したことでも話題になった。

例えば、2021年の所得トップ15人のうち10人がプライベートエクイティの経営幹部で、内8人が1億ドル以上という結果。一方、他業界では1億ドル以上の収入を得た経営幹部はわずか5人だけだった。上場プライベートエクイティ幹部の収入の中間値は1億3800万ドルだったのに対し、たとえば銀行は2300万ドル。まさに桁違いだ。テクノロジー企業と比べてもその違いは歴然で、オラクルの共同創業者であるラリー・エリソン取締役会長は6億3100万ドルと今回の調査対象者のなかで第2位の収入があったものの、その大部分は保有株の配当。しかし全体としては、テクノロジー企業幹部の収入はプライベートエクイティよりもずっと少ない。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOの場合も然りだ。もちろんフェイスブックの株価は、ブラックストーンやアポロの株価よりもずっと高く、資産総額となるとザッカーバーグの圧勝だ。シュワルツマンとブラックを合わせた額よりも約490億ドルも多いのだが、収入では後者が上回るという興味深い結果になる。

プライベートエクイティの運用会社は、期待値の高い中小・ベンチャー企業など、いわゆる未公開株に対して多額の投資を行い、基本的には株式を100%取得。その後、株式を上場させることで莫大な投資利益を得ることとなる。そんな経済界の雄たちが、今後どんな企業を世に送り出していくのか、懐事情とともに注視していきたいものだ。