2022.07.11

伝統産業の現状や発展に必要なこと。

織物や陶磁器、漆器、木工品・竹工品、和紙、文具、貴石細工など、日本には数多くの工芸品がある。代々受け継がれるこれら伝統産業は、近年売上の減少や職人の後継者不足が大きな課題だ。国からの補助金制度や統括団体によるイベントの開催など、様々な形で支援は行われているが、苦しい状況が続いている。そのような中、新たな販路や商品開発をはじめ、全国各地で試行錯誤が繰り返されている。いくつかの事例と共に、伝統産業の現状や発展に必要なことは何かを考えてみたい。

伝統産業と工芸品

日本各地にはさまざまな地場産業がある。代々受け継がれる伝統産業の中でも、地域で算出される素材をいかし、伝統的な技術で作られてきたものを「伝統工芸品」と呼ぶ。国では、そうした工芸品について、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」の中で条件を定め、経済産業大臣の指定を行ってきた。指定を受けるためには以下の5つの要件に該当することが必要だ。2021年の時点で、全国で合計236品目の工芸品を伝統工芸品として定めている。

1.主として日常生活の用に供されるものであること。

2.その製造過程の主要部分が手工業的であること。

3.伝統的な技術又は技法により製造されるものであること。

4.伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるものであること。

5.一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているものであること。

伝統工芸品は、織物、染色品や繊維製品、陶磁器、漆器、木工品・竹工品、金工品のほか、仏壇・仏具、和紙、文具、石工品、貴石細工、人形・こけし、工芸材料・工芸用具と多岐にわたる。その歴史は古く、佐賀県の伊万里焼や有田焼、岩手県の南部鉄器は17世紀、石川県の加賀友禅は15世紀、京仏具に至ってはその起源は11世紀までさかのぼると言われている。まさに、我が国に先人達の知恵と経験の結晶が伝統工芸品なのである。

伝統工芸品の現状

1979年から2013年まで、伝統工芸品の登録数は少しずつ数を増やしてきた。しかし、それとは逆に業界の現状は縮小を続けており、生産額は1983年の5400憶円から2016年度には960憶円、従業員数は、1979年の28万8000人から2016年度には6万3000人へと、どちらも5分の1ほどへと減少している。伝統的工芸品産業の振興を図るための中核的機関である、一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会では、現状について「伝統的工芸品産業がかかえる後継者不足や原材料の確保難」といった課題をあげた上で、「近代工業製品の発達」「農村の衰退による原材料入手の困難」「住環境の宅地化」「雇用環境の変化」「生活様式の変化や人々の意識の変化」などが状況悪化の要因としている。

現場から見た課題と改善策

伝統工芸品の産地では、ほとんどが中小規模の企業や個人事業者により支えられているのが現状だ。では、現場の声はどうなのだろうか。大阪府では各都道府県の伝統工芸品産業振興への取組についてアンケート調査を行い、2018年に公開している。これは、伝統工芸品に特化した施策に限定せず、地域の観光戦略や地域ブランド戦略の一環として展開をするなど、新たな展開を模索するためである。アンケート結果によると、全体の58.7%の市町村が伝統工芸品産業の振興策について独自の施策を有すると答えている。しかし、産地の取り組み姿勢に関しては「産地・事業者間で取組姿勢にかなり差があり、一律的な事業展開に難を感じる」という回答が7割を占めている。

また、国指定または都道府県指定候補となる新たな品目についても、8割が「ない」という現状だ。支援施策推進に当たっての課題については「消費者・住民の関心の低下」「需要減退」という回答が多く寄せられた。振興の手法として今後有望と思われる方法としては、外国人向けの情報発信(74.4%)ネット通販(46.5%)体験イベント(46.5%)首都圏アンテナショップ(39.5%)という回答が上位を占めた。まずは新たな顧客層にアピールすることが必要、というのが実際のところだろう。

自治体や企業で進む新たな取り組み

伝統工芸品産業復興のため、各地でさまざまな取り組みが行われている。越後三条打刃物の産地である新潟県では、燕三条地域の約60の工場を一斉に見学可能として「工場の祭典」を開催。製作体験や職人との交流を行い、製品の魅力をアピールした。その結果、来場者は平成25年の1万780人から、平成26年に1万2661人へと増加。求職者も増えるなど、町おこしにもつながった。また、近年新たな訴求手法として注目を集めているクラウドファンディングでも、美濃和紙を100%使用したクールビズ用シャツの開発サポート募集が行われた100万円の募集に対し、集まった金額は227万5000円。こうした工芸品のクラウドファンディング成功事例も増えている。

また、前述の伝統的工芸品産業振興協会では、全国から工芸品の新たな製品やアイデアを広く公募。東京都では江戸木目込人形と福島県の会津塗による「木目込みトレイ」、東京無地染と大分県の別府竹細工による「イロかご」など地域を超えたコラボレーションを行い展示会で発表するなど、それぞれの立場で物づくりの新たな方向性を模索している。既存ユーザーへの訴求はもちろん必要だが、売上の減少や後継者不足に悩むのであれば、若年層をはじめ、これまで伝統工芸品との接点や関心がなかった層へのアピールも重要だ。切り口や訴求場所を変え、これまで興味をもっていない人々に知ってもらうことで、市場規模自体を広げることにもつながるのではないだろうか。

転載元:Qualitas(クオリタス)