2021.11.26

企業の福利厚生に、人工知能を導入した「社員良縁サポートアプリ」を開発 Aill(エール)・豊嶋千奈代表取締役

Aillの豊嶋千奈代表取締役

「社員の幸福は会社の幸福」。企業の福利厚生サービスに生かせる社員の良縁をサポートするアプリ「Aill goen」を開発した株式会社Aill。人工知能(AI)機能を導入して縁結びをサポートする世界初の画期的なアプリで、事業化から3年ほどで780社が法人契約を結び、利用している。Aillは、社員が仕事で最高のパフォーマンスを発揮するために、心も体も健康な状態であるWell-beingの重要性を説いており、それを指揮する豊嶋千奈代表取締役にアプリ開発までの経緯などを聞いた。

■Well-beingづくりに貢献

アプリ開発の出発点は(前職の)武田薬品でMR(医薬情報担当者)として働いていた時です。医療貢献にやりがいと誇りを持ち、仕事が充実していた一方で私生活を犠牲にしていたため、このまま独身で働き続けるのか、と不安が頭をもたげてきました。それから心の健康状態を気にするようになり、私生活と仕事は両輪であってパフォーマンスを出すためには私生活の充実が必要だという結論に至りました。

社員が生き生き働かないと企業の利益にはつながりません。私も含め周囲の独身社員の心が疲弊していると思いました。社員が心も体も健康的な状態であるWell-beingをつくらないと、社員と企業の幸せは一致しない。そのインフラがないなら「私がつくりにいきたい」と考えました。「インパクトファクターがパートナー」ですので、そこをなんとかしたいというのが起業のきっかけでした。今までWell-beingという言葉が出る前から社員の幸せが企業の幸せにつながって社会の幸せになる。三方よしという考えを持っていました。

■企業の福利厚生としてアプリを提供

アプリは法人契約で、その法人の社員が利用できる企業の福利厚生の方法を取っています。社会課題として独身が多くなっているという現状があります。社員の幸福度を上げて生き生きと働ける環境をつくり、エンゲージメントを上げて生産性を高める。それが離職率を減らし、企業の利益を上げて理念を達成、そして社会に還元していく、という思いがありました。

安心安全性を考えて実証実験を重ねました。福利厚生を大切にされている企業の社員同士が利用できることが安心につながっているのではと思います。ライフの充実は福利厚生が欠かせないものです。経営人事施策の一つの重要なものになります。

Aill goenの(左から)紹介、会話、好感度の各ナビゲーション画面

アプリはAIを導入し、「紹介」「会話」「好感度」のナビゲーション機能を備えています。会話ナビゲーションでは、AIの助言が画面上に浮かび、利用者のアプローチをアシストしてくれます。例えば趣味などで相手をよく理解するための的確な質問を指示したり、デートに誘うタイミングなどを伝授してくれたりします。

最初は働くもの同士の男女は出会いさえあれば、うまくいくのではという仮説を持っていました。しかし、実際は忙しさや男女の行動の違いがあり、出会うだけではうまくいかないということが分かりました。そこで、どうすればその問題を解決できるかを考えて三つのナビゲーションを設計しました。人が介入するのがいいのか、AIを導入した方がいいのかも考え、60人ぐらいにヒアリングをしたら若い人のほぼ100%がAIと答えました。それでAIを導入する考えに至りました。

■安心安全性のためにエビデンスを用意

初めてセールスに企業を回ったときは、相手にされませんでした。縁結びというのは安心安全性が重要なので、そのエビデンスが必要になると思いました。企業の新規事業部さんとかの集まりの団体があり、そこの企業の協力でカスタマイズにフィットするように改善を重ねました。

次に経済界や社長さんたちに直接話を聞いてもらおうと考えました。九州では、ライフステージを送る仕組みを一緒につくることになりました。事例ができ、関東でも賛同してくれる企業が増えました。Well-beingの考え方が広まる中で、いろいろな企業が話を聞いてくれるようになりました。

九州のクライアントさんからは「経営者が分かっていても目をそらし続けてきたものに、真正面から向き合っている。最先端の技術を使いながら実現させようとしているところに感動した。九州を元気にしていこう」と言っていただきました。その言葉がとてもうれしく、なにがなんでも仕組みをつくり上げたいと決意しました。

利用者の感想では、カップル第1号の人たちの言葉がやはりインパクトが強かったです。「Aillが大好きです。このいいサービスを広げるためにはなんでも協力します」と言われ、すごくうれしかったです。利用者からは機能面の評価として、女性は「安心安全性と今まで自分がやってきた仕事を諦めずに一緒に仕事も家庭も支え合っていけるパートナーと出会えることがうれしい」。男性は「仕事が忙しい中、女性へのアプローチは難しい。AIがアシストしてくれるのは楽だった。行動もしやすく成果も見えやすい」と話してくれました。

■HRアワードで最優秀賞を受賞

HRアワードで表彰される豊嶋代表取締役(中央)

さまざまな企業のHR(Human Resources)関係者が会員登録しているウェブサイト「日本の人事部」さんから今年のHRアワードで最優秀賞を受賞させていただきました。組織の成長を促す取り組みに対する表彰なので、うれしいの一言です。私たちの取り組みがいろいろな人の賛同を得て、Well-beingのライフワークのライフサポートとしての賞をいただき、本当にうれしく思っています。広がってきた手応えと客観的な評価がありがたいです。

受賞は非常にインパクトが大きいです。企業のご賛同がいただきやすい環境ができたのではないかと思います。ますます、「Well-beingのライフサポートとしてのAill」という位置づけができたのではないかと思います。

■今後は夫婦、家族の円満や上司、部下のコミュニケーションでアシストを

AIでWell-beingの社会をつくることを理念に置いています。ワークライフシナジーという言葉は重要なワードと思っています。ワークとライフのそれぞれに貢献できるように、次はAIを使って夫婦や家族の仲を円満にしていくというライフのサポートを充実させていきたい。

その次はワークのところで社内の上司、部下とのコミュニケーションをアシストすることで、心の健康状態に貢献していきたいと思っております。現在のシステムを生かし、違うアプリで事業展開をしていきたいと思っています。

株式会社Aill
https://aill.co.jp/
 Aill goen
https://aill.ai/

■プロフィール

とよしま・ちな/2009年同志社大学法学部を卒業し、武田薬品工業株式会社に入社。薬剤の営業、企画立案、地域戦略・マーケティングを担当した。16年に退社し株式会社Aillを設立。17年に経営学(MBA)を取得、18年から事業を開始して現在に至る。