2022.08.22

企業におけるアジリティの重要性

国際社会における緊張や、いまだ収束しない新型コロナウイルス感染症など、社会情勢における不確実性が高まりつつある。将来の予測が困難になる中で、企業はどのように成長の芽を育てていけばよいのだろうか。その一つのアプローチとして、変化に素早く対応する「アジリティ」に注目が集まっている。ここでは、企業におけるアジリティの重要性について考察してみたいと思う。

企業経営のキーワード

「Agility(アジリティ)」は、日本語に訳すと「俊敏性」「機敏さ」「素早さ」といった意味を持つ。近年、企業経営の分野でも使われるようになっており、その場合は「環境の変化に素早く対応する力」といった意味で使われてきた。ビジネスシーンにおいては「スピード」というアジリティに似た言葉もよく使われているが、どちらも企業経営のキーワードであることに違いはない。しかし、示す意味は大きく異なっていると言えるだろう。

事業を継続していくために

スピードは、明確なゴールにどれだけ短い時間でたどりつけるか、また、それをどれだけの時間で達成できるかといった時間軸を基に語られる。一方でアジリティは、明確なゴールが設定できない状況において、どれだけ柔軟に対応できるかを指し示す。企業経営でも使われるようになったアジリティという言葉だが、もともとはソフトウェア開発の現場で生み出された考え方でもある。実際にソフトウェア開発では、アジリティを重視した「アジャイル(agile)開発」が普及。その開発を担ったエンジニアたちにより、2001年にアジャイル開発のコンセプトをまとめた「アジャイルソフトウェア開発宣言」が発表されている。そこには、「計画に従うことよりも変化への対応を」という考え方が指針の一つとして記され、さまざまな環境変化に対応することが重要であると提唱されている。

企業活動を取り巻く環境には、社会情勢やテクノロジー、マーケットなど、様々なバックグラウンドがあるが、なかでも特に重要なのが顧客やユーザーとの関係性だろう。企業にとっての「アジリティ」とは、顧客やユーザーとのコミュニケーションを欠かさず、その要望や環境変化に対応することを意味する。また、それらを継続していくことによって、順応度合いを高め、素早く対応する力を生み出す源にもなるとも言える。このように、現在の企業にとって「アジリティ」は、不確実性の高い未来において着実に事業を継続していくための重要な要素になると考えられてきた。

「成長の芽」を育てる

現在のビジネスを取り巻く環境は日々変化しており、かつ予測困難な要素が多く、先行きは不透明。綿密に市場分析を行い、時間をかけて全体計画・戦略を描いていく事業展開では、その間に顧客やユーザーをはじめとする市場環境が変化してしまうことも多々見受けられる。中長期的な目標が必要であることは変わらないものの、当初想定していたことが途中で変容することは十分想定できる時代だ。また、現在継続中の事業においても、環境の変化に合わせた柔軟な対応が当然必要とされる。そうした大小さまざまな変化に対して有効なのが、「アジリティ」の実践に他ならい。仮説をもとに小さなプロジェクトを立ち上げ、トライ&エラーを重ねながら素早く対応していくことで、満足度やユーザビリティを高め、さらにはビジネスの成長を促すことが可能だと考えられているからだ。アジリティの実践で事業価値を高めるためには、この「小さく、素早く動く」ことが重要のテーマとなる。

「小さく、素早く動く」ことのメリットとして、プロジェクトの規模が小さいために事業の優先順位を明確にすることができる点が挙げられる。優先順位が明確だと判断が迅速に行えるようになり、ビジネスチャンスを逃しにくい。また、顧客の要望や市場の変化に応じた変更もしやすくなるだろう。このようにスピーディーにビジネスを展開し、急な変化や要望に対応することが顧客満足度を高め、事業の継続を支えることに繋がっていく。結果的には、企業にとっての「成長の芽」を育てることができるということだ。こうした社会や市場における素早い対応力を身に付けるために、実際に数多くの企業が様々な取り組みを行ってきた。

さまざまな外部環境の変化

ある大手機器メーカーでは、自社製品の買い換えサイクルが平均10年以上と長いため、ユーザーとの接点が少ないという課題が散見。そのため、「アジリティ」を高める観点から、ユーザーと直接オンラインでつながる場を設けたという。それにより、ユーザーのニーズや要望を直接受け取ることができるようになり、それらを活用したマーケティング施策やユーザー参加型の商品開発を実現していった。また、開発方針にも「アジャイル型」を取り入れ、要望や意見を反映しながらの製品開発を試験導入。これら一連の流れは、企業が変化に対して迅速に対応する体制を整えることで、アジリティを高めた好例と言えるだろう。

また、ある小売り企業では、「教育こそ最大の福利厚生」と掲げ、従業員一人ひとりのキャリアに配慮した育成プログラムを作成し、アジリティを高めている。同プログラムでは、さまざまな職種や職場での体験や経験を重ねてもらうことで、従業員それぞれの個性を活かし、自立的な行動と充足感を持って働ける職場づくりを推進。こうした取り組みの積み重ねによって、従業員が来客のニーズや要望の変化に対して迅速に対応できる「アジリティ」を高め、小売業ながらもコロナ禍から受ける影響を最小限に抑え、業績の維持に貢献してきたという。

将来の予測がますます困難になる今、変化に対して迅速に判断・対応できるよう、組織のアジリティを高める重要性は年々高まってきている。さまざまな外部環境の変化にどう対応していくのか、その真価が今まさに問われているのだ。