2022.02.24

人手不足に悩む運送業界に次世代のパワーを 

コロナ禍で注目を集めたものの、いまだ若い働き手が少なく、人手不足が深刻な問題になっている運送業界。そんな中、約1年で若手社員の数を2倍にした総和運輸は、若者を積極採用するため免許取得の支援制度を導入し、社員の定着を目指して、ドライバーとのコミュニケーションにも注力しているという。ベテランドライバーのスキルを次世代へつなげ、業界のさらなる発展を目指す、船橋謙一代表取締役に話を聞いた。

人手不足に悩む運送業界に次世代のパワーを 総和運輸・船橋謙一代表取締役

免許取得支援制度が開花

2020年8月から2021年6月まで、毎月数名ずつ、約1年で13人の新人ドライバーが入社しました。それまでは、同じように求人を出していても年に数人が応募してくるといった状況でしたので、自分でも少し驚いています。やはり、その背景には新型コロナウイルスの影響があります。自粛生活の中、店舗からオンラインへと買い物のあり方が大きく変わったことで、物を動かす会社、物流や運送業の分野は軒並み業績が上がりました。

こうして運送業が注目され始め、若者たちの目に触れるようになってきました。興味が向けられるようになったという背景に加え、当社は若手ドライバーの採用において、育成も同時に行いたいという思いで、数年前から大型トレーラーの運転に必要な免許の取得支援制度を設けていたことが大きいと考えています。

免許がなくても採用の可能性があります。「入社後に免許を取らせてもらえるなら」という理由で応募が増加し、取得支援制度を始めた当初に入社したスタッフの口コミで広がっていった流れも感じています。

免許取得の支援制度を始めたのは、他の会社と同じようなことをしていても採用につながらないと思ったのが大きな理由です。既に免許を持っていて、活躍している中堅ドライバーが入社してきても、なかなか定着につながらなかった。これまでの経験や培ってきたものが当社のやり方と合わずに退職する方が多かったんです。だったら、当社をスタートにしていただき、そのカラーに馴染んでもらう方がスムーズなのかなと。そこから考え出したのが、免許支援制度でした。

他社同様に、以前は当社も50〜60代のベテランドライバーが中心でした。それが今は、その半分が若手社員になっている。と言っても、まだドライバーとして独り立ちしたばかりですので、彼らが成長し、次世代として活躍できるよう、社員の定着につながるような労働環境の改善に務めているところです。

人手不足に悩む運送業界に次世代のパワーを 総和運輸・船橋謙一代表取締役

社長自ら点呼でコミュニケーション

ここ数年は、スタッフとのコミュニケーションを重視し、そこに注力するようになりました。その一つとして、乗務前に必ず行う点呼。健康管理をチェックするだけでなく、不安や心配ごとがないかなど、私が直接じっくりと聞き取る時間になるように改善しました。ドライバーは、長時間一人で狭い運転席に座っていることに加え、渋滞や仕事の流れがスムーズでないときには何時間も待つ必要があり、ストレスをため込みやすい。そういったストレスが荒い運転や事故につながることも少なくありません。

それを毎日の点呼でリセットしてほしい。「今日も1日、気をつけて」という強い思いも込めて、点呼でより深いコミュニケーションを取れるように意識しています。実は、当社にはドライバーと事務所スタッフ、いわゆる内勤の人間との間に大きな溝があった時代がありました。

運送会社は、ドライバーがいなくては成り立ちません。先代のときから働いている方々もいらっしゃいますし、物流業界の先輩としても、自分にとってドライバーは尊敬できる存在。ですが、事務所のスタッフの中には、ドライバー経験があり、「自分ができたことがなぜできないんだ」と言ってしまう人間もいて。それは決して高圧的なものではなく、期待値が高いだけなんですが……。そんなときに、あるドライバーが事故を起こしてしまい「毎日、神経をすり減らしながら運転して無事故で帰ってきても『当たり前のこと』だと、ねぎらいの言葉一つない。事故を起こしたときだけ報告書を書かせて、怒られる」と退職願を持ってきたんです。

そのスタッフは当社では異質で、大手メーカーで講師をやるような経歴を持つ元サラリーマンで、物流業界のことは何も知らないけどトレーラーに乗ってみたいと。それで当社で働いてくれるようになったんですが、好きで転職までしたトレーラーを嫌いになって辞めてしまうのが残念で、この状況をどうしたら打開できるんだろうか。彼が思うようなことは、きっとドライバー全員が感じていること。だとしたら、新たに加わった若手ドライバーもそう思っているはずで、社員の定着にはほど遠いなとも感じました。ですので、まずは、彼らの気持ちをくみ取るところから始めようと考えました。当初はドライバーたちに聞けば聞くほど、自分は何をやっているんだろうと自己嫌悪に陥ることも多かったです。

人手不足に悩む運送業界に次世代のパワーを 総和運輸・船橋謙一代表取締役

社員一人一人と信頼感を築く

今は点呼の時間、自分と彼の2人でヒアリングを行うようになり、スタッフ間の溝も解消されつつあると感じています。本来、社長と社員の間にはある程度距離があるものなのかもしれませんが、自分は誰よりも社員の近くにいたい。そう思っています。

当社は自分が25歳のときに、父が創業した会社の経営難を知り、それを立て直すために新たに設立した会社です。当時、7億を超える額だった負債も21年6月に完済でき、旧会社から付いてきてくれているスタッフには感謝しかありません。ベテランのスタッフが新人に当時の話をしていることもあるようで、思い出話にできてよかったなと思っています。

この先、自分は会社をもっと大きくしたいという思いはないんです。社員は増えていますが、今後ドライバーの人数がさらに多くなったとしても、今の距離感。きちんとコミュニケーションを取って、会話ができる。一人一人と信頼感を築いていける社内環境を目指したいと考えています。

当社がこれまでやってきた歴史を振り返ると、社員が倍増し、定着するようになったという今の状況も突然変異ではなく、こうなることが必然だったような思いもあります。しっかりと時間をかけて向き合ってきた土台作りがあったおかげで、その土台が崩れることなく次の若い世代へと繋がっている。この流れを生かしつつ、それを継続できるような次のステップを考えていきたいです。

有限会社 総和運輸

代表取締役

1976年、茨城県出身。大学卒業後、トラックディーラーの整備士に。25歳のときに父の経営する運送会社が経営難に陥り、立て直しのため2003年、同名義の有限会社総和運輸を設立し、代表取締役に就任。

https://www.sw-newface.com/