2022.04.07

人々を幸せにする「新・建設業」を目指して 安成工務店・安成信次代表取締役

 今、世界は岐路にある。利益を求め資本主義のまま突き進んでいくのか、それとも社会に、地球に何ができるか真剣に考え、行動を起こすのか。その後者の道を選んだ企業がある。山口県に本社を置く安成工務店だ。代表の安成信次は家づくりを通し、今できる社会貢献を考えに考え抜いてビジネスを行なっている。SDGsのその先を行く、安成代表の挑戦を聞いた。

地域の工務店としての使命に目覚める

創業者の先代は大工で、「家とは地域の山の木を使って、人の手で建てるのが一番だ」と口を酸っぱくして言っていました。当時、まだ若かったので、先代の言葉に耳を貸さず、輸入住宅などを手がけていましたが、材料の無駄は出るし、施工法も日本の職人に合わず、正直うまくいったとは言えない状況でした。

そんな時に、東京芸術大学の奥村昭雄先生と出会いました。奥村先生は、OMソーラーシステムという太陽熱を使った空気集熱システムを考案された方です。目に見えるデザインより、住居内の熱や空気の流れといった目に見えないデザインを研究されていました。屋根に当たる太陽光で空気を暖め、その熱を床暖房に用いて、すべての住宅に降り注ぐ太陽熱とパッシブな設計手法で快適な家がつくれる。これが奥村先生の考えでした。

さらに奥村先生は「このシステムを大手メーカーに提供するのではなく、その土地の気候風土を知り尽くした地域の工務店こそ、この技術を身につけて家を作るべきだ。要するに住宅とは地域産業なのである」とはっきりおっしゃったんです。その言葉は私の心に響き、地域の工務店としての使命に目覚めました。

家そのものが呼吸する工法を追究

日本の住宅は昔から通気性に長じていましが、戦後の急速な住宅供給で、箱を積んだプレハブのような、通気を一切無視した家づくりが国策として進められました。その後、オイルショックで断熱材が採用されるようになり、密閉し、化学物質の含まれる新建材を使うわけですので、シックハウスが社会問題化しました。

最初に施工したOMソーラーは期待通りの性能が得られませんでした。現場に行くと断熱材が隙間だらけだったので、断熱材を徹底的に勉強した結果、完全に施工できる断熱材として、セルロースファイバーという素材に出会いました。新聞紙をリサイクルしたセルロースファイバーの特徴は、調湿と吸音で、湿気を吸ったり吐いたりしてくれます。つまり通気を妨ぐ防湿シートが不要で、壁自体が調湿するため、壁体内で結露が生じず、家そのものが呼吸できるわけです。セルロースファイバーの持つ性能を最大限に生かす施工方法として、1996年に乾式吹き込み工法の「デコスドライ工法」を開発しました。

その後、調湿効果の原因を追究するために大学と共同研究を行い、他の断熱よりも10〜15%ほど湿度が低いという確証も得ました。こうした精緻なデータを取るのは、純粋に真実を追究したいとの思いですし、弊社の社風です。また、社会に対しての責任だとも考えています。弊社のHPをご覧いただければ、こうしたデータや理念をまとめたCSVレポートも準備しています。ぜひご一読ください。

胸に刺さったムヒカ大統領の言葉

「発展が幸福の対向にあってはいけない。発展とは人類の本当の幸福を目指すものである」。2012年、ウルグアイのホセ・ムヒカ大統領(当時)が地球サミットで演説した時の言葉です。私にはこの言葉、いや演説すべてが抜けないとげのようにずっと胸に刺さったままです。

弊社は仕事として住宅やビルなどを作っています。作るということは、その前に必ずなんらかの破壊がついて回ります。もちろん私たちは破壊の末に石油製品の塊を売ろうとしているわけではありません。できるだけ自然由来の素材で、ものを作ろうとしていますが、その作るという行為自体が果たして世界の人々を幸せにするのか。そして現在の資本主義の原理が今後も成り立ち得るのか。世界の変わり目において私自身、さまざまな場面で問いかけ続けています。

今年3月には、新・建設業地方創生研究会を、志を共にする仲間と立ち上げました。今のところ全国の建設会社15社ですが、最終的には150社くらいのアライアンスを目指しています。「新・建設業」とは、真っ当にものを作る職人たちが、正当に評価される時代の到来と、誇りを持てる建設業の姿を強く願って名付けたものです。こうしたアライアンスを通じて、個人の住宅だけでなく、地方のまちづくり、そして地方都市の再生まで担えるようなネットワークに育てていきたいと思っています。

とげのように刺さったムヒカ大統領の言葉が心地よく聞けるその日まで、全身全霊をかけて挑戦していくつもりです。

株式会社安成工務店

代表取締役

山口県生まれ。1977年、日本大学生産工学部建築工学科卒業。大手建設会社を経て、1980年安成工務店入社。先代の急逝に伴い1988年代表取締役就任。就任後からデコスドライ工法やOMソーラーシステムなどを用い、環境共生住宅建築に取り組んでいる。

https://www.yasunari-komuten.com