2022.08.15

事業継承を成功させるために何をすべきか?

高齢化が進む我が国では、同時に企業経営者の高齢化も進行している。そこで必要になるのが、次世代への事業継承である。ただ、事業継承の内容は、譲渡内容は経営権から資産、知的財産の継承まで幅広く、成功裏に収めるためには時間が必要だ。また、近年では後継者問題もあり、事業を継承せず廃業を選ぶ経営者も少なくない。そこで、企業継承を成功に導くために必要なことは何か、まず何をすべきかを探ってみたい。

経営者に広がる高齢化

日本国内では、経営者の高齢化が進みつつある。国内企業の99%を占める中小企業を例にとると、最も多い経営者の年齢は1995年の47歳から2018年の69歳へと変化している。総務省の調査による年代別の推移をみても、経営の担い手に占める高齢者の割合は増加しており、世代交代の時期は確実に近づきつつある。1992年に30.9%ほどだった60歳以上の世代は、2017年には50.5%に達し、59歳以下との割合が逆転している。事業継承は喫緊の課題となりつつあるのだ。

多岐にわたる、事業継承の内容

ただ、事業継承には手間や時間がかかる。譲渡の内容は経営権から、株式や設備・不動産等の事業資産、資金といった資産面の譲渡、経営理念や取引先情報、顧客情報、ノウハウや人材、許認可や特許といった知的資産権の継承まで多岐にわたるためだ。事業継承の実態へのアンケートでは、後継者育成に必要な期間として、24.8%が約5年、29.4%が5~10年との回答がみられ、特に次世代の人材育成に時間がかかることが分かる。つまり、事業継承を成功させるためには「早期に開始する」ことが大切だ。一般的に、事業の平均引退年齢は70歳前後とされており、遅くとも60歳代には準備を始める必要がある。

早期着手は半数足らず

しかし、実際に継承の準備に着手している経営者は70歳代、80歳代においても半数に満たないのが現状だ。廃業した経営者へのアンケートでは「企業のことは誰にも相談しないと決めていた]
(18%)という声がある一方、「相談しても解決するとは思えなかった」(40%)という諦めの声も目立つ。「相談しなくても何とかできると思った」(22%)という楽観的な回答も多く、準備の重要性を十分に認識していない可能性もある。どのような道を選ぶにせよ、まずは、自社の現状を正しく把握することは必要不可欠であるだろう。

後継者問題や相続・資金面が大きな課題

日本政策金融公庫総合研究所が 2016 年に公表した数字では、60歳以上の経営者の50%が廃業を予定していると回答。廃業の理由として「子どもがいない」「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者がいない」といった回答の合計が28.6%にのぼった。つまり、廃業を考える企業の3割は後継者確保問題を抱えているのである。ほかにも事業継承では株式の譲渡などによる相続税や贈与税の発生、資金調達などといった課題も発生する。

こうした課題に対し国では、47都道府県に「事業承継・引継ぎ支援センター」を展開。後継者未定又は不在の中小企業・小規模事業者に対し、専門家による相談対応や情報提供、地域内や他企業とのマッチングなどを行っている。こうした支援制度を活用し、事業を従業員や社外の第三者に託すのも一つの選択肢だ。近年では、親族内継承の割合は以前と比べ減少しており、親族以外への継承が6割を占めているという数字もある。また、2008年5月には事業承継円滑化のための総合的支援策として「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が成立。非上場株式への相続税・贈与税の納税猶予制度や、後継者に対する贈与税の特例、各種金融支援の実施といった多方面の支援が実施されている。

事業継承が事業回復へのきっかけとなる可能性も

事業継承が必要な企業には、経営面では問題ない企業も少なくない。廃業予定の企業に行ったアンケートでは30.6%の企業の経営者が同業他社と比べ「現状維持が可能」もしくは「成長が期待できる」と回答。事業の将来性についても、40.9%の経営者が現状維持、あるいは成長が期待できると答えている。また、引退した経営者へ行った売り上げに関するアンケートでは、事業継承を選択した事業者の3割が売り上げ増加と回答している。事業継承は、企業の若返りになるだけでなく、業績回復の一手として役立つ可能性もあるのだ。まずは、自社のリソースや資産を客観的に見直すこと、その上で出来るだけ早期に専門機関に相談することが、事業継承を成功に導くための最適解ではないだろうか。諦めずに、取り組むことで新たな道が見えてくるかもしれない。

転載元:Qualitas(クオリタス)