2022.01.06

世界的建築家に倣う、ラグジュアリーの在り方。

BBCなどのメディアでも広く知られ、五つ星リゾートホテルを数多く手掛ける世界的建築家スー・K.チャン氏。アジアの美意識をスタイリッシュに表現する、同氏の“ラグジュアリーの在り方”に迫った。

世界的建築家に倣う、ラグジュアリーの在り方。

「アジアの建築家が持つ空間の配慮に魅了されます。内庭や高低差の演出で、屋内と屋外の空間を継ぎ目なくつなぎ、美しく誘惑しているからです」。シンガポールを代表する建築家、スー・K.チャン氏。世界遺産の街、マレーシア・ペナンにおいて、美しい装飾で知られる中国寺院、クーコンシー内で幼少期を過ごし、美意識を育んできた。イエール大学で建築を学んだチャン氏は、西洋的な建築様式も大切にしていると語るが、この原風景はチャン氏の建築イメージの基礎となっている。
近代的な高層マンションから伝統的な職人技を活かしたリゾートホテルまで、その仕事は多岐に渡るが、すべてに共通するアプローチの手法を「デザイン言語」と呼んでいる。「もちろん、デザインのコンセプトは毎回異なります。つまり、地域によって異なる方言はありますが、根底にある言語は変わらない。その例えの一つが、ゲストの動線です。西洋は規則的に部屋が配置され、動線は直線的ですが、東洋では部屋に辿り着くまで中庭や小道を通るので、動線が複雑にレイアウトされていることが多い。そこに東洋の美が反映されているのです」。

この「デザイン言語」が特に際立つのが、チャン氏がオーナーも務めるバリ島のホテル「Alila Villas Soori(AVS)」だ。エントランスの前には大きな噴水があり、ゲストはその周りをぐるぐる回ってチェックインする。客室の作りも同じく、庭園や中庭、プールなどが組み合わさり、建物の内と外が緩やかにつながるように設計されている。チャン氏は、方言は地域の伝統、文化、気候の三要素で生み出されると解釈。同ホテルのデザインにおいても、隣の水田の水路を遮らないようホテル内の建物を配置し、結果、柔らかな動線を生み出した。
さらにチャン氏は、自らのデザインを「ホリスティック(包括的)デザイン」と位置付けているが、それには機能美も重要な役割を果たす。「デザインとは空間をつくることで、外側だけをきれいにつくることではありません。私がデザインする際は、まず内側に必要な機能を当てはめて空間をつくり、次に、内側の空間の表現として、外側をつくる。そうして内と外をまとめ、包括的なコンセプトの表現をするのが私の考えるデザインです」。

世界的建築家に倣う、ラグジュアリーの在り方。

「Park Hyatt Maldives Hadahaa」をデザインした際は、伝統的な建築の代わりに“ドーニ”と呼ばれるボートからインスピレーションを得たという。そこには、海と生きるモルディブの人たちが長い間をかけてつくり上げた、水の中を進むために最適化された“正しい機能美”があった。そこで、この職人たちに依頼してできたのが、ボートを伏せた形のレセプションのデザインだった。地域の特色を活かすアプローチは、自然と機能的かつ環境負荷の少ないデザインにもつながっている。「AVSでは、ホテル前の砂浜の黒砂と同じ素材の地元の火山岩を使うことで、建物が海岸線の一部のように風景に馴染み、かつ涼しい。昔からその地域で使われてきたものには機能的な意味があります」。地域の景観も組み込んだ、チャン氏ならではの包括的なデザインといえる。「未来のデザインに環境への配慮が必要なのは明白です。しかし、ラグジュアリーホテルに必要なのは、それだけではありません。グローバリゼーションが進む中、五つ星ホテルは均一化し、余暇を過ごしに来るゲストは他とは違うユニークな体験を求めています。いま必要なのは、リゾートホテル自体がパーソナリティを持つこと。ゲストの要望に合わせて、そこでしか味わえない体験を柔軟にデザインすることが、未来のラグジュアリーの形なのです」。

AVSでは、ホテル前の水田での稲作体験や、朝市で材料を買い、シェフから伝統料理を教わる教室などを行っている。三次元の空間に、時間軸を加えた四次元の体験までもを包括的にデザインしている。これがチャン氏流の「ホリスティック・デザイン」の形なのだ。

転載元:Qualitas(クオリタス)