ヘルスケア
世界アルツハイマーデー特集 シンポジウム「英国・認知症ケア最前線」トークセッション 比較から見える日英の事情
9月21日は、国際アルツハイマー病協会と世界保健機関(WHO)が制定した「世界アルツハイマーデー」。アルツハイマー病の正しい知識の啓発をするこの日を前に、認知症予防財団と毎日新聞社が、英国ハマートンコート認知症ケア・アカデミー施設長のヒューゴ・デ・ウアール博士をゲストに招いて開いたシンポジウム「英国・認知症ケア最前線―ヒューゴ博士に聞く」。第2部では、元村科学環境部長を進行役に、ウアール博士と吉田事務局長が日英の認知症介護について話し合った。
◇家族介護者への支援必要
まず、吉田事務局長が「日本ではケアで認知症が改善するというのはかつて考えられなかった。現在は先進的な取り組みがされているところもあるが、施設ごとの格差が大きい。介護の問題の一つとして、人と金がないことがある。介護職はきついのに給料が安く、なり手が少ない。最大の課題はケアのなり手の育成で、政府も処遇改善に取り組んではいるが、他の職業に比べて平均給与が低く、高齢化が進むと人手不足はさらに深刻化する。また、認知症に対する偏見もあり、身内が認知症だと知られたくないという人が50%いるという調査もある」と日本の現状を語った。
ウアール博士は英国ハマートンコート認知症ケア・アカデミーについて「39床で職員は120人。パートタイムの人もいる。最も専門性の高いスタッフは3人おり、年収6万ポンド(約870万円)だ」と紹介した。
吉田事務局長は続いて、「1人暮らし世帯が全体の35%になっており、東京23区内で孤独死が年間約3000人も出ている。また、介護のために仕事をやめる介護離職が年間約10万件ともいわれ、家族に頼る介護が限界に近づいている。実際の症状と介護認定のずれという問題もある。認知症患者は、体は元気で、入浴や歯磨きができるので低い認定になったり、判定を受けるときに他人が来るので急にシャキッとしたりする例もある」と話した。
ウアール博士は英国の制度について、「2年前に法整備され、自治体は家族介護者にケアアセスメントと介護者アセスメントを提供しなければならない。介護者に対して、自分の担っている役割を誰かに肩代わりしてもらえるか、必要なサポートが得られているか、金銭的な支援はあるか、家計の状態などを評価する。介護者の心理的なニーズにも光が当てられ、ファシリテーターの前で介護者同士に話し合ってもらう。専門家より、よい解決策が出ることがある」と紹介。さらに「家族内で対立している場合は、家族や関係者、可能であれば患者本人も参加してミーティングを開く。議長を置いて議論をリードし、結論は法的拘束力を持つ。家族介護者への支援は絶対に必要」と語った。
吉田事務局長が、フランスで4種類の認知症治療薬が保険対象から外されたことを懸念すると、ウアール博士は「フランスでは医療費の増加で、医療制度は破綻寸前と言われていた。認知症治療薬が医療費削減の標的になったのだと思う。英国はコスト分析をした結果、認知症治療薬の効果が認められ、オランダやデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、アイスランドも同様の政策だ」と指摘した。
最後に、元村部長が「お金がない、人手がないという、ないない尽くしの状況で、PCCは実現できますか」と問うと、ウアール博士は「お金さえあればPCCができるかというとそうではない。PCCというのは、ものの考え方であり、アプローチであり、そして姿勢だと思う。少ない人数であっても、それぞれがしっかりと認識した上で、よりよいケアを提供する。人間的な接し方が一番大事」と答えた。