2022.03.10

ミニマルな家具とともに、空間を調律するデザインの在り方。

家具やインテリアの設計、デザインを手がけているbroad beenのベースにあるのは、普遍的な美しさの追求だ。シンプルかつ独創的な表現にこだわり、家具そのものだけでなく、それを取り巻く空間をデザインし調律していくこと。それこそがbroadbeanの存在意義でもある。「家具における表現の可能性をもっと世の中に広く知ってもらいたい」と語る同社代表取締役の荘司新吾氏から、日本人が作る家具デザインの独自性を探った。

家具やインテリアの設計、デザインを手がけているbroad been

broadbeanの設立は2003年に遡ります。現代美術のギャラリーを中心に設計等を手がけていくなかで、コレクターとして付き合いのあった某ギャラリーが移転する際の内装を担当したことが大きな転機となりました。その空間を見た方々から家具制作の依頼が舞い込むようになり、broardbeanをブランド名に掲げ活動していくことになったのです。アートギャラリーを起点として自然発生的にスタートしたため、自分が手がけるものは意識せずともアートとの親和性が高いものになっている気がします。

家具やインテリアの世界で活動しているとはいえ、自分のことを“インテリアデザイナー”や“家具デザイナー”というカテゴリで認識したことはありません。それは、受け手が判断すればいいことだと考えているからです。自分にとって家具とは、常に空間と相互的に関わり合うもの。インテリアからスタートしたこともあり、家具をデザインしているとしても、実はその周囲の空間をあわせて調律し、デザインしているという意識を強く持っています。空間作りを重視したミニマルな家具を創造すること。それがbroardbeanの色であると考えているのです。

 “幅広く”より、“深く”を追求する志向が強い自分は、あえて“木”という素材にこだわって家具を制作してきました。木材の強度を補完するための構造として、自然と箱型の形状に導かれているという側面もあり、自分の作品はそういった自然の摂理にも似た“形”の発見を追求しているのかもしれません。デザインという観点からは「無駄な線を消していく」という意識を大事にしています。それは、本当に必要な線なのかを何度も問いながら模索していくプロセスが、結果的に「ミニマリズム」という美意識に繋がっているとも感じているからです。また最近では、特に“色彩”という要素も重要な役割を果たすようになってきました。木材そのものの質感と純粋な色彩の力による調和が、今のbroardbeanの作品を支えているのです。

家具やインテリアの設計、デザインを手がけているbroad been

“木”というデリケートな素材で家具を制作する過程においては、その加工の技術や手仕事のクオリティに依存している部分も大きく、優秀な職人さんとの協働も重要なプロセスです。現在、broardbeanの作品を手がけているのは、伝統工芸品である鎌倉彫を制作していた家系の職人さん。彼らのたぐいまれな技術によって、ディテールの緊張感が生み出されていると言っても過言ではありません。また、家具という分野でありながら、大量生産ではなく数量限定でエディション化していくことは、それらの製品をアートピースとして昇華させることにより、職人さんへの適切な評価を獲得する意味もあると考えています。

たくさんの書籍や雑誌に囲まれていた時期もありましたが、それらを処分してからは、できるだけほかのデザインを目に入れないように生きてきました。やはり、無意識のうちに少なからず影響を受けてしまうこともありますから、何にも影響されず、根源的なところから浮かんでくる独自の形を見つけたいと考えています。また、デザインが機能に束縛されることにも少し抵抗感があり、例えば特異な形状をしたミラーを新たに発表するなど、常に自由度の高いデザインを追い求めていきたいと思っています。

今後は、空港などの公共の場でbroardbeanの作品を利用してもらい、家具における表現の可能性をもっと広く知らしめたいと考えています。デザイン面では、置かれた空間の光に頼らない自立した存在の作品を生み出したいという思いから、照明器具を取り入れた製品の構想も持っています。自ら発光することで、その光と影が家具の一部になる。やはり自分は、家具とともにそれを取り巻く空間自体を調律し、デザインしていきたいという思いを強く持っているのかもしれません。

broadbean

代表取締役 

1966年生まれ。東京都出身。1991年、成蹊大学経済学部卒業。1995年、東京理科大学建築学科卒業。建築家としてデビューを果たした後、2003年に建築デザイン・施工を手掛ける株式会社broadbeanを設立。2015年には自らが手がけるインテリアブランドを立ち上げ、broadbean株式会社を設立。六本木ショールームはインスタレーションとしても世界的な注目を集め、著名人からの依頼も多数。