2022.11.23
マイクロソフトの再始動戦略。
マイクロソフト社の株価が好調だ。一部から最盛期は過ぎた、という声も見られたIT界の巨大企業は確実に復活を遂げつつある。市場での再評価が高まる契機となったのは、3代目CEOのサティア・ナデラ氏の存在だ。経営陣が選んだナデラ氏は外部の経営者ではなく、20年以上マイクロソフト社に勤続するベテランだ。ナデラ氏が持つ長所や考え方を紐解くとともに、マイクロソフトが行う再始動戦略についてご紹介していきたい。

市場での評価が上昇
1975年の創業時、0.1ドルほどだったマイクロソフト社の株価はウィンドウズ95を発売した1995年に5ドルを突破。2015年には50ドルを超え、過去最高値を記録した。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が掲げたミッションは、「コンピュータをすべての机と、すべての家庭に」というものだった。2000年に入り、先進国でこのミッションが少しずつ実現する中、グーグルやフェイスブック、アマゾンといった新興企業が台頭し、IT関連分野でのマイクロソフトの牙城は少しずつ崩れていった。1999年に40ドルを超えた株価も、その後2013年までは20ドルから30ドルと低迷が続き、マイクロソフトはもはや古い会社、という意見さえ見られた。しかし、その株価は2014年から上昇に転じる。その後も2018年には100ドルと堅調に推移。2020年には200ドルを超え、コロナ禍においても衰えを見せていない。これは投資家たちのマイクロソフト社に対する期待値が上昇していることを意味する。

マイクロソフトのCEOサティア・ナデラ氏(左)とビル・ゲイツ氏(右)。
3代目CEOサティア・ナデラ氏
2014年、マイクロソフト社の3代目CEOとして就任したのは、サティア・ナデラ氏。株価回復の背景にはナデラ氏の存在が大きいとされる。新しいCEOが取り組んだのは、マイクロソフトという会社を大きく作り変えることだ。自社の新たな価値を再発見し、ゼロからマイクロソフトという巨大企業を変えようとしたのである。マイクロソフト社のそれまでの業績は決して悪いものではない。売上高は年々上がっていた。しかしナデラ氏はそれに満足することなく、企業のミッションからビジネスドメインまで大幅に変えてしまった。しかもナデラ氏は、外部から招いたコンサルタントではなく、マイクロソフト社に20年以上在籍している人物だというから驚きだ。
技術への情熱をもつ経営者
ナデラ氏はインド出身の経営者である。シリコンバレーでの勤務を経て、1992年マイクロソフトに入社した。CEO就任まではマイクロソフト クラウド & エンタープライズ部門のエグゼクティブバイスプレジデントとして手腕を振るっていたという。マンガロール大学で電気工学の学士号を習得後に渡米し、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校でコンピューターサイエンスの修士号を、シカゴ大学でMBAを取得するなど、工学・経営の知識も極めて高い。マイクロソフト社でかつてナデラ氏と同じクラウド部門に在籍し、部下として接していた沼本健氏は、ナデラ氏について「とても地に足がついている」人物と語る。テクノロジーやクラウドのあり方といった目指すべきビジョンを語る一方で、お客様にとってのリアリティとは何かについても強く意識していたという。
また、ナデラ氏はエンジニアでもあるため、技術への理解度が高い。技術的のコアな部分まで把握しており、CEOとなった今でも技術への理解は変わらない。これからどのようなものの考え方をすべきか、データベースでどのようなデータを集めてくるかなど、具体的に把握しており、その知識を背景に指示を出す。沼本氏が最も印象に残ったのはナデラ氏の仕事への姿勢だという。あるべき姿に対し、すぐには到達できなくでも、常に目標へ向かい続けるという姿勢を評価する。ほかにも、日本マイクロソフトの前社長、樋口泰行氏や平野拓也氏など、その姿勢や手腕を評価する声は多い。そんなナデラ氏が経営のボードメンバーが選んだのは、経営のプロやビジネスマンではなく、テクノロジーへの情熱を持ち、喜びを持って世界を見る人物だった。
マイクロソフト社の新たなミッション
2014年2月4日、CEOへの就任初日、ナデラ氏は全従業員へメールでの挨拶を発信した。挨拶の冒頭、ナデラ氏はまず自らのマイクロソフトでの最初の日を引き合いに出し、当時と同じ気持ちで出発するという自らの方向性を伝えた。そして、伝統ではなく革新を尊重すること、モバイルとクラウドの世界で成功をめざすことを宣言。ナデラ氏が発信するマイクロソフト社の新たなミッションは、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」。ソフトウェアと新しいハードウェアのフォームファクター進化で、世界中のビジネス、生活、経験を仲介し、デジタル化をすすめるのが目標だ。これを機にマイクロソフト社は、クラウドコンピューティング・ソリューションを重視する戦略に舵を切ったと言える。
かつてビル・ゲイツ氏が提唱したミッションは、「コンピュータをすべての机と、すべての家庭に」。これは見方を変えればIT(情報技術)の普及だ。新たにマイクロソフトが掲げるミッションがめざすのは、形を変えたIT技術の更なる普及ともいえるだろう。ナデラ氏の口癖は「enable everyone」(誰もができる)。マイクロソフト社は、過去のDNAも受け継ぎ、まさにリスタートした。株価は260ドルを超え、市場の評価も高い。さらなる快進撃からまだまだ目が離せない。
転載元:Qualitas(クオリタス)