2022.04.05

リモートワークの裏側で進化するビデオ会議。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、リモートワークを導入する企業が増大した。これに伴って需要が拡大しているのがビデオ会議のサービスだが、その進化は主にソフトウェアが支えている。

リモートワーク、分散型オフィス、テレワーク、在宅勤務(WFH=Work from Home)──。これらはすべて、オフィス以外の場所から仕事をすることを意味する。市場調査会社のガートナーによると、2020年は一般企業で働く人の50パーセント以上が、少なくとも一定期間はオフィス以外の場所から仕事をすることになる見通しだ。これは世界平均だが、テレワークが全体の半分を超えるのは史上初で、この数字は2016年にはわずか20パーセントだった。
リモートワークに対する見方は人によってまったく異なる。例えば、通勤時間がなくなるだけでなく、特に子どもがいる場合はさまざまな問題の軽減につながるとの評価がある。一方で、オフィスで仕事をすることによってのみ達成される効率性が失われ、人間関係にも影響を及ぼすと批判的な意見もあるようだ。

新型コロナウイルスの影響で需要拡大

それはさておき、リモートワークが拡大する流れに合わせてビデオ会議も増えている。テクノロジーを駆使することで、遠隔地にいてもオフィスで顔を突き合わせて話しているような状況をつくり出すのだ。電話会議ならマルチタスクで会議中に別のことをしていても大丈夫だが、ビデオチャットの場合はパソコンの画面に映し出される相手の顔をきちんと見ていなければならない。
最近は、ある特殊な事情がビデオ会議の増加にひと役買っている。新型コロナウイルスによる感染症「COVID-19」の流行だ。このため社員の出社や出張を見合わせる企業が相次いでおり、ウェブ会議ツール「Zoom」を提供するズーム・ヴィデオ・コミュニケーションズのようなビデオ会議分野の大手企業の株価が上昇傾向にある。

ただ、新型コロナウイルスが問題になる前から、ビデオ会議はわたしたちの働き方に影響を及ぼしてきた。小型照明を手がけるLume Cubeの共同創業者兼社長のライリー・ストリックリンは、「どこか1カ所に集まるという従来型の会議をやらない企業は増えており、代わりにZoom、Skype、FaceTimeといったソフトウェアが使われています」と言う。「仕事仲間との間には“距離”があるわけですから、ソフトウェアを使う場合はその体験を最適化するためにあらゆる手段をとるべきです」。

カリフォルニア州カールスバッドに拠点を置くLume Cubeは4年前に事業を始め、ユーチューバーやアクションカメラ「Go Pro」を身につけて命知らずの冒険に挑むクリエイターたち向けに照明器具を開発してきた。ストリックリンは、現段階ではYouTube関連の需要が多いが、ビデオチャットも有望な分野だと説明する。なかでも、遠隔での求人面接における利用が伸びているという。ストリックリンは、Twitchのライヴ配信でもSkypeによるビジネスミーティングでも、人々が「ニュースキャスターと同じこと、つまり“放送”をしているのです」と語る。

完璧さと無秩序の中間

個人的には、自宅からビデオ会議に参加している自分をテレビニュースのキャスターと比べられるとは思わない。オフィスにいるときにはそれなりにまともな格好をするように心がけているし(少なくともパジャマのようなズボンは履かない)、会議に遅刻するのはスケジュールの都合でどうしても避けられない場合だけだ。

一方、家で働いているときはかなり適当なことが多い(ライターの仕事でいいのは、文章を書いているときはひとりになる必要があるのだと信じてもらえる点だ)。たいていは適当な部屋着を着ているし、会議が始まろうとしている瞬間になぜかZoomの招待リンクが機能しないといったことが起きる。そして、やっとうまくいったと思ったらごみ収集車がやってきて、窓の外で大きな音を立てる。

自分がこんな調子なので、Skypeでのビデオチャットとテレビニュースの放送を比べるストックリンの言葉は、いくらなんでも大げさなのではないかと思っていた。だいたい、テレビのニュースではすべてが完璧だが、ビデオ会議での会話の4割は「ああ、すみません、何か言おうとしてましたよね。いや、わたしが思ってたのは……あー、いえいえ、とんでもない。先に話してください」といった無意味なやりとりだ(あくまでも個人的な感想である)。

ただ現実として、ビデオ会議は完璧さと無秩序の中間に落ち着こうとしている。まず、ぎこちないやりとり、途切れがちな音声、後ろにある洗濯物の山とパソコンの前に陣取る猫のお尻といった混乱を象徴するようなビデオチャット用のソフトウェアが、人生を変える重要な面接や大手メディアのニュースでのインタヴューに使われるようになっている。生放送中の子ども乱入事件で有名になった釜山大学教授のロバート・ケリーの例を見てもわかるだろう。

注目はヴァーチャル背景

そして何より、ビデオ会議における真の革命を主導するのはソフトウェアだ。ウェブ会議ツールのZoomには無料版と有料版があるが、いずれも多彩な機能が用意されている。例えば、参加者がコンピューター上でZoomを30秒以上閉じたままにしておくと、ホストに通知が届くようになっている。会議中に字幕をつけることができるほか、サードパーティーのアプリも利用可能だ。また、参加者全員が共有できる仮想ホワイトボードもある。

最近使えるようになった機能でいちばん面白そうなのは、バーチャル背景だ。4種類の画像(ゴールデン・ゲート・ブリッジや草原まである)から選ぶか、もしくは自分の好きな写真を設定できる。個人的には目からレーザー光線を出している猫の画像をネットから拾ってきて使っているが、これは自宅の雑然とした様子の一部を隠す程度の役割しか果たしていない。バーチャル背景機能を使う場合は実際の背景を緑一色にしておくことが推奨されているが、自宅の仕事部屋の状況はそれとはほど遠いからだ。

AIを利用した音質改善から、視線の“偽装”まで

在宅勤務の分野では、マイクロソフトも積極的な取り組みを進めている。法人顧客向けのコミュニケーションツールである「Microsoft Teams」には、近いうちに背景を自由に設定できる機能が搭載される見通しだ。
一方、有料版でしか使えない機能もある。ホワイトボードから必要な情報を抽出して表示する「インテリジェント キャプチャ」や、字幕をつける機能がそうだ。

ほかにも年内に提供開始が予定されている機能として、音質の改善がある。具体的には、ネットの接続環境が悪くて2秒ごとに音が途切れるような場合は、人工知能(AI)で音を補って会話の流れを中断しないようにする。さらに、キーボードをたたく音や飲食の音など、会議に関係ない雑音を自動で消してくれる機能も利用できるようになるはずだ。ソフトウェアの力を借りれば、音声以外の問題も解決する。マイクロソフトはタブレット端末「Surface Pro X」で、AIを利用した視線管理システムを2020年度中に導入する計画だ。これは会議中に画面に表示された文書などを読んでいても、視線が下向きではなくカメラを見ているかのように偽装する機能である。下手をすれば「不気味の谷」現象を引き起こしかねない。興味深いことに、アップルも「iOS 13」のベータ版で「FaceTime」用に似たような視線修正のための機能を用意していた。しかし、なぜか最終的には提供を見送っている。

テクノロジーでは解決できないこと

ビデオ会議は常に進化を続けているが、人間が人間であることには変わりない。テクノロジーですべてを解決することはできないのだ。例えばビデオ会議では、こんなことが日常的に起きている。会議が始まる時間にPCの前に座っていない、会議に参加するためのリンクが見つからない、PCを再起動しなければならなくなった、マイクが音を拾ってくれないのでアプリを立ち上げ直す──といった具合だ。

360度自動回転するビデオ会議用カメラ「Meeting Owl」を手がけるOwl Labsの調査によると、会議の準備と機材の設定に関して、リモートワークする人のほうがオフィスで仕事をする人より困難であると感じる割合が35パーセント高かった。画像と音声に関しても、問題があると答えた人の割合はリモートワークのほうが26パーセント多い。ビデオ会議の革命の余地はまだまだありそうだ。

転載元:Qualitas(クオリタス)