2022.08.22
プライマリ・ケアで幸せな医療を
身近で何でも相談に乗ってくれる総合的な医療「プライマリ・ケア」の実践に情熱を注いでいるのが、あんどう内科クリニックの安藤大樹院長だ。「一人一人の患者にとって一番幸せな医療を目指す」という安藤院長に、「プライマリ・ケア」への思いを聞いた。

「何でも相談に乗る」医師を
プライマリ・ケアとは、医療に関わる心配事は何でも相談を受けて、総合的に診断を行うことです。クリニックがこれを「町の頼れるお医者さん」として行い、地域の人々の生活に寄り添ってくれたら、多くの人が健康で幸せな生活を送れるでしょう。では、このプライマリ・ケアを行う医師をどんどん増やせばいいのかというと、決してそうではありません。専門に特化した医師の存在は医療界の宝なので、「プライマリ・ケア・マインド」を持った医師が増えることが大切だと思っています。「最近困っていることはない?」「眠れている?」と気にかけてもらえるだけで救われる方もいます。「専門外だけど何でも相談に乗るよ」とひと声かけられる医師が増えれば、多くの患者の幸せにつながると信じています。
プライマリ・ケアという概念は、一般の方はもちろん、医療者の間でもまだ認知度は高くありません。私は15年ほど前から「プライマリ・ケア道場」を立ち上げ、研修医や若手の医師を対象としたレクチャーを続けています。少しでもプライマリ・ケアの大切さを認識し、患者の病気だけに目を向けるのではなく、一人一人の人生に思いをはせる医師が増えることを願っています。

“病気”ではなく、“人”を診る
実家は曾祖父の代から町医者をしていて、私は4代目に当たります。3人兄弟の末っ子で、父の姿を見て、医師がいかに過酷な仕事であるかもよく知っていたので、子供の頃は医師になることは考えていませんでした。医師を目指すようになったのは、1995年の阪神大震災で、人命救助に奔走する医療者の姿を報道で見たことがきっかけでした。プライマリ・ケアの概念と出会ったのは研修医時代です。検査の数値や画像所見ばかり重視する大病院の医療は、私が子供の頃から見てきた「町医者」の姿とかけ離れていて、当時はあまりなじめずにいました。しかし、回診の際に患者の横に座り、患者の手を取って、同じ目線で「大変でしたね」「お困りのことはありませんか」と声を掛けている医師がいたのです。その医師には患者もいろいろなことを話していましたし、結果的に診断の上でとても大切な情報を得ることもありました。もちろん検査の数値も重要ですが、きちんとその人自身を診る医療の大切さを教わりました。こんな医療ができれば、地域の人に幸せを還元できると確信しました。
そこで当時まだマイナーな領域であった、全人的に人間を捉えて特定の臓器・疾患に限定せず多角的に診療を行う「総合診療」を徹底的に学びました。幅広い症状の方が受診する総合診療外来や、多くの診断困難な症例が入院する大学病院総合内科入院管理、年間1万人以上が受診する救急外来などの現場で研さんを積み、さらに、総合的な診療には患者の背景にある心理的な問題へのアプローチが必要だと感じ、心療内科外来にも携わってきました。“病気”ではなく、病気を患ったそれぞれの“人”を診る経験を重ねて、5年前に父からクリニックを受け継ぎました。

「心身相関」が診療の柱
当院では専門性にこだわらず、何でも診る「医療よろず相談所」のつもりで日々診察しています。いろいろな診療科をたらい回しにされた方が来院して、「先生に出会えてよかった」と涙ながらに話をしてくれた時、この医療をやっていてよかったと心から思いました。一般的な外来では、例えば「気持ちが落ち込む」と訴える方に対して「そういうことは精神科に行ってください」といった対応が取られることが多いと思います。忙しい外来では、ある意味仕方のないことかもしれません。しかし、身体的な症状であろうと、精神的な症状であろうと、患者にとっての困りごとであることに違いはありません。心と体を切り離さない「心身相関」ということを、私の診療の柱としています。
さらには、病気のときだけではなく、医院を気軽に訪れて、自分や家族の健康のことを相談できる環境づくりを行っています。現在の問題を解決するだけでなく、健康づくりや病気の予防に力を入れて、未来に問題が起こる可能性をできる限り下げられるように努めています。「プライマリ」には、「最初の」という意味の他に「一番の」という意味があります。私が目指すのは、一人一人の患者にとって一番幸せな医療です。私の診療で、ほんの少しでも患者12の心が安らぎ、「病気が見つかったけど、この医師になら任せられる」と安心してもらえればうれしいです。目の前の患者が幸せになることで、その人の家族や友人、周囲の人も幸せになり、ひいては地域全体の幸せにもつながっていくでしょう。それは巡り巡って私自身の幸せにもなり、そんな幸せの連鎖を作っていきたいですね。
医療法人社団藤和会 あんどう内科クリニック
院長
安藤大樹
1974年、岐阜県出身。藤田保健衛生大学(現藤田医科大学)卒業後、同大学病院研修を経て、同大学病院総合診療内科所属。2011~15年、同院最優秀指導医賞受賞。岐阜市民病院総合内科を経て、2017年、継続開業として医療法人社団藤和会あんどう内科クリニックの院長に就任。岐阜大学総合病態内科学非常勤講師、藤田医科大学救急総合内科客員講師、岐阜市民病院研修管理委員会外部委員。
http://andoc-clinic.com/