2022.09.26

セイコーが見据える、時代の一歩先

セイコーホールディングス株式会社の代表取締役会長 兼 グループCEO 兼 グループCCOを務める服部 真二氏は、大学卒業後、商社勤務を経て曾祖父が起業した精工舎(現・セイコークロック)に入社。しかし、時代の先取りを目指した事業で大きな失敗を経験する。入社直後のつまずきで掴んだ学びを糧に、服部氏は創業150年へと向けて歩みを進める。失敗で気づいた創業者の真意、時代の変化と自社について振り返りながら、セイコーの未来について書き記したい。

時代の変化に即した柔軟な発想を求めて

服部氏がクロックやカメラ部品、プリンターなどを製造する精工舎に入社したのは1984年。大学卒業後、総合商社に9年間勤めた後のことだ。「入社時から頭にあったのは、1881年にセイコーを創業した曾祖父、服部金太郎が信条としていた『常に時代の一歩先を行く』という言葉でした」。
時代の先を読み、「これからはカラーの時代。カラープリンターを作ろう」と開発部門の背中を押し、自社発となるカラープリンターを発売。

しかし、結果はほとんど売れず、入社後、いきなり大きな失敗を経験する。失敗の要因は、過度な時代の先取りだとも言える。消費者が求めるニーズの二歩、三歩先を読んでしまったのだ。「一歩先を行くことが大切であるという、曾祖父の言葉の本当の意味を実感しました」と語る服部氏。手痛い失敗ではあったが、結果として、創業者の言葉の真意に気づくことができたことも事実だ。

現在では、グループ全体のかじ取りを行う立場となった服部氏。コロナ禍という時代の中、曾祖父の言葉はより身近に感じられるという。曾祖父が生きた明治時代は江戸から国内体制の変化とともに、価値観が大きく変化した時代でもあったからだ。「めまぐるしい変化の中、情報の洪水の中で、製品の本質は何かということを人々はより強く希求するようになりました。時計のブランドビジネスでは、製品の機能や利便性が高いことは当然ですが、その背後にある作り手の考えやストーリーを発信していくことが一層重要になっているのです」と、服部氏は自社に求められることを分析する。

「常に時代の一歩先を行く」

一歩先を見据えた商品開発から、ブランドの訴求までセイコーがやるべき事は多い。セイコーでは近年、非接触センサー技術の体温計への応用や、オンライン上の決済、時刻認証など、非接触やリモート環境に適した技術開発を行うとともに、2020年8月には創業地である銀座にセイコーミュージアムをオープン。コロナ禍でも活動の手を緩めない。

セイコーは2022年5月、中期経営計画を発表した。成長戦略の中でグループ内の共通コア戦略として位置付けるのが、人材の確保・育成だ。「採る」「育てる」「活かす」の好循環が人材育成の基本方針でもある。服部氏は「いま私たちが求めるのは、ブランドの精神をストーリーとして届ける能力と、新しいニーズを読み解く柔軟な発想の両方を兼ね備える人材です」と、今後の人材に期待を寄せる。2031年には創業から150年を迎えるセイコー。グループパーパスは「革新へのあくなき挑戦で、人々と社会に信頼と感動をもたらし、世界中が笑顔であふれる未来を創ります」。創業者の「常に時代の一歩先を行く」という言葉の真意を受け継ぎ、未来を創るさらなる発展に今後も期待したい。

転載元:Qualitas(クオリタス)

セイコーホールディングス株式会社

代表取締役会長 兼 グループCEO 兼 グループCCO

1953年生まれ。大学卒業後、総合商社に9年間勤務。1984年に精工舎(現・セイコークロック)に入社。2010年にセイコーHD社長、その後、同HD会長兼グループCEO兼CCOに就任。現在に至る。