2023.02.13
キッコーマンの歩みから学ぶ、伝統の継承。
国内の大手食品メーカー「キッコーマン」。2017年に創業100年を迎えた同社は、コロナ禍においても売上を堅持している。しょうゆを主力商品として、アジア、北米、欧米、豪州など、世界各地へ進出。江戸時代から明治、大正、戦後と時代が大きく変化する中、しょうゆづくりを継承しつつ、グローバル化を進めることができた要因は何なのだろうか。同社の歴史と代表的商品の一つ「しょうゆ卓上びん」から、その要因を探ってみたい。

江戸時代から続く老舗食品メーカー
キッコーマンが創業したのは1917年に遡る。野田醤油株式会社と万上味淋株式会社の設立が出発点だ。1925年、2社は合併し、野田醤油株式会社として統合したのち、1964年に社名をキッコーマン醤油株式会社に変更している。その後、大阪から東京、そして全国へと販売網を拡大。開発商品も広げ現在では、事業領域を「食品の製造と販売」「食と健康に関わる商品とサービスの提供」とし、「キッコーマン」のほか、「マンジョウ」「デルモンテ」「マンズワイン」「キッコーマン豆乳」を中心とした商品群を展開している。コロナ禍の中でも売上を堅実に維持し、2020年3月で4,396憶円、2021年3月で4,394憶円、事業利益は、2020年3月で380憶円、2021年3月で426憶円と順調に推移してきた。
使い勝手を向上した、しょうゆ卓上びん
醤油の移動・保管手段は時代の移り変わりとともに進化している。江戸時代初期から戦後までは杉板を使用した樽を使用。創業から間もない1925年にはすでにガラスのしょうゆびんを発売している。中でも、キッコーマンの代名詞ともなっているのが1959年に発売された「しょうゆ卓上びん」だ。工業デザイナー、故・榮久庵憲司氏によってデザインされたこの容器は注ぎ口を上向きではなく、逆の下向きにカットすることで、従来の卓上の醤油差しが持つ欠点である、しょうゆの液だれを解消した。
徳利にヒントを得たという形は倒れにくく、持ちやすい。また、透明ガラスを使用しているため、しょうゆの残量が分かりやすいのも大きな特徴だ。1993年には通商産業省の「グッドデザイン賞」を受賞し、2018年にはロゴや文字がなくても、商品やサービスが識別できる商品として「立体商標」にも登録されている。立体商標登録はアメリカ、EU諸国、オーストリアなどでもなされ、これまで世界中で累計5憶本以上が出荷されるロングセラーとなっている。

徳利からヒントを得たという形状。「持ちやすさ・注ぎやすさ」のほか、「手に持って注いだ時の美しさ」といった狙いまでもが込められているとのこと。
伝統を受け継ぐ「やわらか密封ボトル」
卓上しょうゆびんの利点を引き継ぎ、2011年に誕生したのが「やわらか密封ボトル」だ。
プラスチックを素材とした容器は、しょうゆが空気に触れない二重構造のため、加熱処理をしない生しょうゆの密封を実現。開封後も常温で90日間、しょうゆの味・色・香りを保つことが可能だ。もちろんしょうゆの残量も確認できる。片手でも扱いやすい容器は注ぐ量が自分で調節ができ、もちろん液だれも発生しない。使い勝手とともに、鮮度も追及した密封ボトルは大ヒットとなり、その後の商品ラインナップで大きな位置を占めるようになっている。
時代に合わせた商品開発
キッコーマンでは、容器・包装に関する指針を定めている。指針では、容器や包装の軽量化、安全性といった項目のほか、環境への配慮や多様なユーザーの要望にも配慮し、誰にでも使いやすい容器の開発に努めている。その中心となる考え方が、「お客様にとって安全で使いやすく、地球環境への負荷が少ないこと」。こうした考え方をベースに、杉の樽からガラス瓶、プラスチックと、キッコーマンではこれまで時代に合わせた新しい素材を容器に採用してきた。
それに加え、液だれの解消や鮮度維持の追求など、それまでの欠点を補う取組みも行ってきたことも特筆すべき点でもある。こうした消費者本位の姿勢は商品開発においても同様に色濃く反映されており、時代や文化に合わせた食生活の提案をめざし、減塩しょうゆ、かつおしょうゆ、地域限定しょうゆなど、ユーザーの好みや地域に合わせた商品づくりを続けている。
キッコーマンに学ぶ伝統の継承
現在、アメリカでは半分近い家庭に“Soy Sauce”としてしょうゆが常備されるようになっているという。キッコーマンしょうゆが海外、特にアジア以外の北米への輸出が始まったのは、第二次世界大戦後以降のこと。当時、海外進出で大切にしたのは、和食を持ち込むのではなく「いかに現地の食材や料理にしょうゆを使ってもらうか」だったという。ここでも消費者本位の姿勢が結果を生んだのである。
2017年、キッコーマンは創立100周年を迎え、翌2018年には新たに長期の企業ビジョン「グローバルビジョン2030」を策定。自社が目指す姿と戦略を公開した。長期ビジョンのテーマは「新しい価値創造への挑戦」。2030年までに目指す姿として、「キッコーマンしょうゆをグローバル・スタンダードの調味料にする、世界中でおいしさの創造」といった目標を定めている。具体的な戦略として、これまでの経験を生かし、「日本では広義のしょうゆ」「北米・欧州・豪州ではオリエンタルソース」など、地域に合わせたカテゴリーで№1を目指す、としている。
キッコーマングループの基本理念は前述した内容でも分かる通り、「消費者本位」だ。食品や容器の開発から流通、マーケティングまで、一貫している考えとなっている。それまでの伝統や経験を受け継ぐだけでなく、消費者や市場にも目を向け、使いやすくより良い商品開発を目指すこと。これこそがモノづくり企業が歩むべき「伝統の継承」ではないだろうか。
転載元:Qualitas(クオリタス)